25.この世の見てはいけない真実
前回のあらすじ
美味しいサンドウィッチを食べたら、死んだと思われていたミリアの父親が帰ってきた。
おわり!
ミリアの父だと思われるそのおっさんは黄色人なうえに、耳は長いわけでもなく、瞳は黒い。しかし、彫りが深いその顔は、日本人とは似ても似つかない。それ以前に、ミリアの家族の誰とも似ていない。鎧はとげとげしていて、何かの鱗で作られているのだろうか?
ミリアにお父さんと呼ばれて、そのおっさんがミリアの方を見る。
「おお! お父さんだぞ。ミリア、大きくなったじゃねぇか! 嬉しいな」
声が渋い。めっちゃイケボ。聞いてて落ち着くレベル。
その声を聴いたミリアが、椅子をどけて、おっさんの方へ駆け寄る。
「お父さん!」
さっきからお父さんしか言えてない。大丈夫か?
おっさんは駆け寄って来たミリアをそのまま抱き上げる。
「いやー、ホント大きくなったな。最後にあったのはもう去年のことだもんなぁ。会えて嬉しいよ」
「私もうれしい。お父さん、生きててくれたんだね」
ミリアの目には再び涙が流れている。他の皆もとても嬉しそうだ。それぞれ何か言いたそうだが、ミリアがおっさんに抱き着いて泣いているので我慢しているようだ。
おっさんがまた喋りだした。
「俺も死んだかと思ったんだけどな。どうしてか生きてんだよな。組合に戻ろうとしたら捕まりそうになるしで大変だったよ……って、その娘はだれだ?」
俺の方を向いている。気になるのは分かるけど、せめて最後まで話してからでよかったんじゃないですかね。話が気になる。
ムルアが俺の代わりに答えた。
「この方はミリアと契約してくださった精霊のロー様です。昨日やって来たばかりだったので、夕飯をごちそうしていたんですよ」
「そうか……あれ、契約って18にやる成人の儀でのことじゃなかったっけ? ミリアはまだ15だろ?」
おっさんが疑問を口にした。三年も早くやったならビックリもするだろう。
この原因はあれだよな。
「あなたが死んだと聞いて暫くしてから、一人前になりたいとミリアが言い出したのよ。その条件として、精霊と契約することって言ったのだけど、一年村で稽古して、八日で契約して帰ってくるのだもの。驚いちゃった。どうやら、あなたを探すために冒険者になりたかったそうなの」
八日って、村から町までで二日、森を抜けるのに三、四日は掛かる。そのあと一日で村に戻ったから、最初町で二泊したとして、ほとんど休みないじゃん。
ミリア、頑張ってたんだな。
おっさんも驚いているようだ。
「本当か? ミリア、お前凄いな。さすがは俺の娘だ!」
そう言ってミリアの頭をガシガシ撫でる。籠手を着けたままなので、随分と雑だ。それでもミリアはとても嬉しそうだ。
そうして、おっさんは開けっ放しだったドアを閉め、こちらに向かってくる。
「俺は、ミリアの父親のランベルトってんだ。よろしくな、精霊様」
おっさんの手が差し出される。手、でかいな。その手を握って、こちらも「ローです」と言う。籠手の下のグローブのようなものはすごい硬さだった。
握手なら手袋外せよと思ったが、今更だった。
ちょうどいい気がしたので、握手が終わってからドロンと体を消しておく。そして、ミリアの肩に触れて、
『ちょっと散歩言ってくる』
と声をかけて、ささっとドアをすり抜けて家から出る。
こういう時は親子水入らずがいいだろう。話は気になるけど、後で聞けばいいからね。別に、蚊帳の外になるのが目に見えてたから逃げてきたわけじゃないよ。
それに、いい加減、街並み拝見したかったし。……村だけどね。
外は夜だったが、精霊にそんなもの関係ない。辺りは普通に見渡せる。
村の中=壁の中は家がある程度一定の感覚に、けれど、ばらばらに家が建っていた。離れて見るときれいに整備された農村のようだが、近くで見るとそれぞれの家で好きなように作物を作っていて、統一性がない。魔法の恩恵で、自由にできているのだろう。
今日食べたサンドウィッチの具は、大体ミリアの家で作られているようだ。それっぽいのが生えていたり、埋まっていたりするのが透視も使ったところ、見ることができた。
そんな中に一軒、とんでもないものを育てている家がある。家畜なんだろうけど、おそらく今日食べた肉の生きた姿だ。そいつらは、その家の周りすべてでできたプールの中にいた。体長は20センチほどだ。奴らは、魚のようにプールの中を自在に泳ぎ、互いにぶつかりそうになると、うねって避ける。奴らは、半透明の体を持ち、全身に生える同じく半透明なヒレをうねうねと動かし泳いでいる。形はそう、うねうねと動くムカデの足を繋げたようなヒレをあの天使の羽の代わりに持つが、ほとんど、クリオネだと言える。
なぜこいつがあの白身肉だと思ったか、それは、三匹ほど軒先に吊り下げられているのだ。……真っ白に変色して。
ゲテモノじゃねぇか! やべぇよ、この世界の食、怖いんだけど。もう野菜しか信じられなくなりそう。あのマグロはいったいどんな生物から採れたものなんだ。ここにきて、マグロだとは信じがたい。それに、あの米もだ。本当に、稲から採れたものなのだろうか? この辺りで稲作は行われていなかった。だとすると、輸入品なのかもしれないが、本当にそうだとどうして言えるだろうか? 恐ろしい。
これが疑心暗鬼ってやつなのか。
……見なかったことにしましょう。それが一番いい。
適当に移動してきたのだが、門が見えてきた。その入ってきたと思われる門の方へと向かうと、一人の見張りがいる。こいつも多分ハーフエルフだろう。昼間見たルーマルと同じように、迷彩服の上から軽い鎧を着ている。
そういえば、あのおっさん……ランドベルトじゃない、ランベルト(……だったっけ?)もこっから入ってきたのかな? 見張りに聞くのが一番だが、話しかけずらい。俺が人見知りだからじゃなく、あくまでも、急に話しかけて驚かせないためだ。
そんなめんどくさいことをしても仕方がないので、今度は反対側に向かってみるとしよう。さっき俯瞰したときに見えたが、反対側は森だった。ミリアが言っていた、小さい森だろう。
村は直径2,3キロの壁に囲まれているので、大きさだけはまあまあだが、体の制約がない俺には大した距離ではない。本気を出せば一瞬で反対側に着くが、さっきのクリオネもどきのようなのがないか、怖いもの見たさで辺りを見回しながら森の方へと向かう。
村中隈なく見たわけではないので、漏らしがあるとは思うが、あのクリオネもどきほど恐ろしいものはなく、動物がいても、馬や鶏のような、俺の価値観から言って普通の家畜が多かった。




