24.シリアスが素通りしていきました
前回のぉ、あぁらすじぃぃいい!
ミリアの家族に合って案外簡単に体が元に戻ったローだったが、夕飯を食べるために顕現してみたら全裸だった。
おぉわりぃぃいい!
勢いでごまかしたい、そんな気分なの。読めばわかると思う。
はっと思いついて、体を糸でぐるぐる巻きにした。糸なので隠せている気はしない。後付けだが、服も出そう。出来るか分からないけど。
さっきまでと同じ服なら出せるかな?
そう思って、召喚をやり直すイメージ。そこから、体を作らずに服だけを作っていく。
……なんか魔法少女の着替えシーンみたいだな。
服が出来上がると、先にミリアが口を開いた。
「ルーマル。もう大丈夫だよ」
「お、おう。すみません精霊様」
そのルーマルのイケメンオーラは消え去っていた。こいつ、童貞か? なんか親近感わくな。どこぞのグロ注意な女神様もほとんど裸だし、精霊の仮の姿の裸なんぞ気にしたら負けだと思うけどな。そもそもミリアの裸ぐらい見たことあるだろうに。……無いのか?
他人が見ても恥ずかしがるなと言ったが、いくら仮の姿とは言え、わざと裸になるのは俺自身が恥ずかしいので嫌だが。
なんて返したらいいか分からないので、ミリアの隣の開いた席に無言で座る。
そこでサンドウィッチをゆっくり眺めることができた。例の堅いパンを薄く切って、そこにレタスのような葉っぱ野菜と、白い肉のようなもの、そのほかにもいくつかのカラフルな野菜が入っている。それが一人三つずつある。いったい幾つの野菜がここでは手に入るのだろうか?
サンドウィッチを観察していると、みんなが手を合わせていた。お祈りでもしているのだろう。とりあえず皆に倣って手を合わせる。
ミリアの祖母であるガリルが、
「いただきます」
と静かに言うと、他の皆もいただきますと言う。なんか出遅れたけど、俺も言っておいた。俺の声は相変わらず体に合わない大人しいボイスだ。
一応他を窺っておいたが、みんな手で食べているのでそれに倣う。ようやく実食だ。持ってみると、薄く切ってあるとはいえ、ラスクのように堅いパンは凹んだりしないので、一瞬全部落ちそうになった。それをどうにか持ち直して、口に運ぶ。ガリッと音を立ててパンは崩れ、その瞬間に、野菜のしゃきっとした歯ごたえと、肉をかむ感触、そして何やらレモンのような香りがやってくる。さっきまでは特に匂いを感じていなかったので驚いた。
白い肉のようなものは、その中にドロッとした液体が薄く入っていて、そこからレモンのような香りが漂っている。ペロッとその液体をなめてみると、少ししょっぱくて、酸味があって、最後にピリッとした胡椒のような辛みがやってくる。肉と、味の少ない野菜とパンとをうまくまとめ上げる、そんな調味料だ。普通にかけてあるのと違って、香りと味が噛むたびに広がって、面白い。
そして、食べ進めてみると、見たときに思ったとおり、野菜はいろいろなものがあった。玉ねぎのように辛い物や、トマトのように甘いもの、ゴーヤのように苦い物もあった。一つ食べきる間に、飽きさせずにいくらでも食べられそうに仕上げてある。ほとんどサラダのようなサンドウィッチだ。
これは好みの味だった。三ツ星あげたいぐらいだ。食パンじゃないのが少し残念な感じだけど、あの不味そうなパンよりかはましだな。
いつの間にか三つ全部食べ終わっていた。それをいつからか微笑ましく見ていた、ミリアの母であるムルアは、
「ローちゃん、食べるの早いわねぇ。おかわりあるけど、食べる?」
うーん、食べたいは食べたいけど、別にお腹空いてるわけじゃないし。食糧を無駄にしてしまうのもなぁ。ここは――
「ローにあげるなんて持ったいなよ。私食べるから!」
そう言って皿を突き出す。ミリアも食べ終わったようだ。
もったいないのは同意するのだが、ミリアにそう言われると少し腹が立つ。だが、大人な俺は、その提案に乗っかるとしよう。
「これ、とてもおいしかったですよ。もう十分いただいたので、また今度作って下さい」
大人な俺は、このくらいはサラッと言えた。……不思議だ。
食べ終わって落ち着いて気が付いた。ミリアの父親いねぇ。確かに話にも出てはいなかったけども。聞いていいのかなぁ。聞いて死んじゃったとかの話だと嫌だしな。聞き難いので保留しておこう。
ああ、もう一つ重要なことに気が付いた。なんでみんな無言で食べてるの? 文化の違いってやつっすか。食器片付けたほうがいいのか聞こうと思ったのに、それすら聞き難い。とりあえず、食べかすは放置して皿の浄化だけしておく。
ミリアは持って来たおかわりのサンドウィッチを二つ食べている。そんなに食うんかい。太らなきゃいいけど。
まあ、それにしても相変わらずおいしそうに食べるやつだ。
俺の視線に気が付いたのか、ミリアが食べ物を飲み込んで、
「何ですか。これはあげませんよ」
違う、そうじゃない。
それを見た、ミリアを挟んで反対側のルーマルはまた吹き出している。そんなにミリアの敬語がツボなのか、それとも勘違いしていることに気が付いているのか。どっちにしても、もはやイケメンオーラは形無しだ。
暫くぼーっと座ってると、食べ終わったミリアが、何やら真剣な顔をし始めた。
どうしたのかなと眺めていると、こちらを一瞬目だけで見て、立ち上がり、そして、口を開いた。
「お母さん。私、一人で精霊と契約に行ったよ。そして、ちゃんとローと契約して帰ってきた。だから……私、冒険者になっていいよね?」
ムルアは、みりあの顔を見て少しの間、驚いたような顔をした。そしてすぐに、心配そうな顔になって、
「ミリアがまだ子供なのに、一人前だと認めて欲しいと言うからそのための課題の一つとして、精霊と契約するように言っただけよ。だから、まだ一人前とは言えない。それに、冒険者だなんて……危険なのは分かってるでしょう? お父さんのことを知っているんだから」
急なシリアスについていけない。家族ドラマティーック!
いやいやいや、茶化してる暇じゃない。え、お父さん冒険者で死んだのか?
ミリアが言う。
「分かってる。だから、私は冒険者になりたいの」
ミリアは話を続ける。
「私は冒険者になってお父さんみたいにたくさんの人を助けたい。そして、お父さんが本当に死んでしまったのか確かめたい」
ムルアは、皆は黙ってそれを聞いていた。
「私、まだお父さんは生きてると思う。冒険者組合から行方不明だって、おそらく亡くなっているって聞いたけど、でも何となく分かるの。人助けが好きだったお父さんが罪を犯すはずないもん。それで、追われる身だったなんて有り得ないもん。なにより、強かったお父さんが死ぬはずないもん……」
ミリアは泣いていた。堪えようと上を向いていたが、涙はあふれ出していた。
……重い。重い話は苦手なんだ。それでも、逃げ出したい気分を抑え込みながら、話を聞いていた。
我慢できなくなったミリアが嗚咽している。
誰も、ミリアにかける言葉が見つからないようだ。
――その時、
玄関の方からコンコンッとノックの音がして、返事もしていないのにドアが開く。それと同時に、
「ただいまー! いやー、やっと誤解が解けたよ。これで無罪放免!ってな。あれー? みんなどうしたんだ? そんなしんみりしちゃって。俺が帰って来たんだぞ、返事ぐらいしてくれたっていいじゃないかぁ」
は? 誰このおっさん。大分渋い声だ。
身長は180センチはありそうな黄色人の男性だ。全身に黒い鎧をまとっていて、兜だけは片手に持っている。
ミリアが、泣いていてくしゃくしゃになった顔を驚愕に染めて言う。
「お父さん!?」
え? は? この流れで帰ってくるのっておかしくない?
俺はそう思わざるを得なかった。




