23.ロー、体が戻ったがやらかす
前回のあらすじ
ついに村に辿り着いたが、寝てる間にミリアの兄のルーマル(イケメン)に抱かれた。
おわり!
ミリアが取ってきたサンダルを履いて、部屋の外につながるドアを開ける。
どうやら廊下のようで、左右に道が続いている。ここもほとんど木材でできているようだ。
「ちょっと、ロー。場所分からないでしょ。先に行かないでください」
後ろでミリアが、微笑みを浮かべながら、それでも呆れたように言う。矛盾しているが、やんちゃ坊主の母親みたいだ。
……誰がやんちゃ坊主だよ。
「何ですかその顔は、人の顔を見ながら失礼ですね」
無意識に、顔をしかめていたようだ。
「ごめん、ミリア」
ミリアはやれやれと言いながら、こちらの頭に手を伸ばし、優しく撫でてくる。
何か落ち着く……。
ハッ!?
「撫でるんじゃない。ミリア」
そう言って手を払い除ける。そのミリアはなぜか勝ち誇ったような顔をしている。うぜぇ。
そのまま、ミリアは俺の先に立つと、右を指差して「こっちです」と言った。先導してくれるようだ。
ミリアの後を追って、ランと一緒に着いて行くと、そこはダイニングキッチンと言った感じであった。入ってすぐのところにテーブルがあり、座りやすいように形が整えられた椅子が六つ用意されている。左側がキッチンになっていて、そこには三口コンロが見える気がするが、蛇口や流し台はない。その奥には食器棚がある。また、右には扉があり、おそらく玄関なのではないかと思う。
見回したミリアが声を上げる。
「あれ? お母さんいませんね。どこかに行っちゃったみたいです」
まあいいさ。
「聞きそびれたけど、ここはミリアの家だろ?」
「そうですよ」
「なら夕飯の時にでも聞いたらいいんじゃないか?」
「あ、まあそうですね。ローが急ぎでないならそれでもいいんじゃないんですか?」
「とりあえず大丈夫だぞ」
そういうことになった。
だが、別にそんな待たなくてもミリアの母はやってきた。ミリアと同じ薄い桃色がかった白い肌を持つ、美人な女性だ。ただし、やはり身長はそれほど高くはなく、150センチちょっとといったほどだ。この世界のエルフはロリフさんで確定していいんじゃないかな。でも、ミリアの家系だけって可能性もまだあるか。
ミリアの母は玄関のドアを開けて俺に気づくなり言った。
「どうも、ミリアの母のムルアといいます。いつも娘がお世話になってます」
そう言ってお辞儀をするムルア。どう見ても母という感じではなくて、どこかの家のお嬢様といった感じだ。それも10代の。
ランがムルアのほうに近づいて行って撫でられている。
こういう時の返事ってなんだっけ?
……ああそっか、
「い、いえこちらこそお世話になっております」
何とか定型文が言えたぞ。これで大丈夫なはずだ。……あ、自己紹介忘れてる。
今更だが、見た目は完全に人に化けられていると思うのだが、ミリアの家族には簡単にバレまくってるな。
俺の返事を聞いたムルアが話を進める。
「まさか、こんなところまでミリアについてきてくださるとは。ありがとうございます」
ついてきたのは森から出たかったからだけどな。やっぱり森からでないという選択肢もあったようだ。
ミリアが言う。
「お母さん、違うんだよ。ローを召還してみたら元に戻せなくなっちゃって」
「あら、そうなの。なんでかしらね。私と契約した精霊は、召喚しても役目を終えると勝手に帰るんですけどね」
あれ? もしかして俺が問題なの?
俺が何か忘れていることはないか、と考えていると、
「もしかして、何か命令しなくちゃいけなかったりするのかな?」
どういうわけか、ミリアが良いことを言った。
ん? それ、原因じゃない? 俺自身が体が欲しくて召喚してもらったので、ミリアは特に命令など……いや、したな。したけど、そうじゃなくて。こう、なんか明確な目的があって呼んだわけではないからな。
「じゃあミリア、何か簡単な命令をしてみてよ」
「んーそうですね。なら……! ……まあ、水を出してください」
考え込む途中凄い顔をしたよな。Sスイッチが入った顔だった。いったい何を思いついたんだか……。
まあ、無難な命令にしてくれて助かったよ。
適当に魔力を使って水を作る。
「コップ取ってきます」
暫く作った水を浮かせたままにして、ミリアが持って来たコップに注ぐ。
「これで大丈夫そうだといいですけど。ロー、どうですか?」
消えろ!……よし、無理だな。戻ってまた寝よ。
そう思ってさっきの部屋に引き返そうとしたところ、
「おお、成功しましたね!」
は? 何言って――消えてるわぁ。光の粒みたいになってるぅ。
そして、3秒ほどでシュワーっと俺の体が消えた。
ちょっとタイミング遅くない? テンポ悪くない? 部屋に戻ろうとしたから消えたの? でも体がないと寝れないんですが。
そんなことを考えていると、ムルアは、
「ああ、ローちゃん可愛かったのに、帰っちゃったわね」
「え、お母さん。ローはまだそこにいるよ」
……気まずい。
「あら、いたの。言ってくれたらいいのに」
ムルアが照れている。普通に可愛い。これが母親とかヤバいな。
「なんか、すみません」
つい謝ってしまった。
「どうせいるなら、もう一回召喚してもらって、ギュッてしたいわ」
「おかあさん! ローは私のなの」
いや、別にミリアのじゃないけどな。
ムルアが言う。
「あら、ごめんね」
そして、いつの間にか持っていた袋から、あの堅いパンを取り出して、
「じゃあ、夕飯簡単なもの作るわね」
そう言いながら、キッチンへと向かう。
あのパン、非常食とかじゃないんだ。どんな料理か気になるな。ミリアに少し分けてもらおう。そう思っていると、
「お母さん。ローの分も作れる? 多分食べたいとか言い出すから」
ミリアがだんだんエスパーになっていく。肩にも乗っていないし、口に出してもいないし、顔も無いはずだ。何故バレたし。
ムルアも、それにはーいと返事をしている。
「ランには普通のを上げるからね」
ミリアはそう言って、ランを撫でている。普通のってどっちだろう。柔らかいほうだろうか?
その後は、食事ができるまでランと戯れるミリアをぼーっと眺めていた。
途中でミリアの祖母と兄であるルーマルが帰ってきた。ルーマルは今日のシフトは終わりらしい。3交代制かな?
ミリアの祖母とも挨拶を済ませた。お祖母ちゃんて感じはではないが、ムルアよりは老けて見える。名前はガリルというらしい。いくつなのか、気になります。
やがて、ムルアが作る料理ができた。ミリアは配膳を手伝っている。料理はあの堅いパンで作ったサンドウィッチのようだ。それが済むと、みんなで食卓に着く。後は多分俺が召喚されればいいのだろう。
「ちょっと、顕現してみてもいいか? 練習しておきたいし」
さっき暇なときにやればよかったかなとは思うけどな。
ミリアが代表として、
「早くしてくださいね」
と言った。ミリアの横ではルーマルが吹き出していて、それをミリアが叩いている。「ミリアの敬語」がどうのと言ってたから、あの微妙な丁寧語に対して笑っているのだろう。兄妹って感じで面白い。
構築する体だが、さっきまでのように幼女にしたくはない。でも、突然男の姿ってのもあれなので、仕方なく幼女の方をイメージする。そして、さっきの消滅の逆再生するようにして、体を構築する。
ちょっと前までできる気がしてなかったが、一度なったことが有ると、やっぱりやりやすかった。
急に視界が狭まった。
うん、多分成功したな。
でも、なぜかみんな驚いたような顔をしている。
あれ、失敗したか?
そう思って下を見た。
おおう、服がない。
……やっちまったぜ。
あ、ルーマルが顔をそむけた。そういう反応されると、なんか恥ずかしくなるな。
兄貴が死にかけているので修正した。




