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精霊生活に安息を  作者: 鮭ライス
ミリア現る
23/80

21.真っ黒でもふもふ

前回のあらすじ

 ミリアがお昼休憩の間に、辱められたローは黒い犬を発見し捕獲した。

おわり!


「ミリア、この犬どうする?」


 放っておいたら、また襲い掛かるかもしれないので、何かしらの処置が必要だ。

 この犬は全身を黒い体毛に覆われていて、多分中型犬だ。腹が見えているのでわかるが、オスだ。


「え? 大丈夫って言ったのに、殺してないの?」


 木の裏から出てきたミリアは、今度は俺の背中に身を隠す。俺の方がちっちゃいので隠れられてないけど。


「うわ! 動いてる。は、早く殺しなさいよ」


 何そのつぶした虫が動いてた、みたいな反応。それに、殺せ殺せって物騒だな。日本でも最終的には殺されるのかもしれないけど、もう少し可哀そうとか思わないのかね。


「殺すのは最終手段だろ。威嚇してなければ可愛いのに」


「かわいい……? 何を言っているのですか。こんな凶悪な魔物を前にして」


 野良犬相手に魔物呼ばわりってどうなのよ。そりゃ多少速かったけど。

 動けないはずだし、試しに頭を撫でようと手を伸ばしたが、懸命に顔をこちらに向けて威嚇してきた。


「もしかして、知らないのですか? ……そういえばローは何も知らないんでしたね」


 お前に言われたくはないがな。


「犬は、オオカミが魔物になった姿ですよ。主に頭脳が発達していて、仲間内での意思伝達が複雑で巧妙になるだけでなく、魔法まで使うようになるので、もし群れを発見したら中堅の傭兵団と戦うようなものですよ。しかも、その害は人間だけに及ばないのです。奴らは雑食なので、畑の作物も食べて行ってしまうのですよ。つまり、強いうえに害獣と言う、恐ろしい魔物です」


 無駄に詳しいな。ミリアのくせに。確かに犬はオオカミの進化個体ではあるが、狩りの能力に関しては、劣るんじゃないかと思うのだが、この世界では違うのか?

 それに、群れごと魔物になってるとか、ありえないとは思うけど。以前に、最低でも一度起こったことなのかな。

 そんなことを考えていたら、ミリアが言った。


「そういえば魔法を使ってきませんね」


 顔を黒犬の方に向けて、ミリアは小首をかしげる。だが、目には未だに脅えが浮かんでいる。


「ああ、ミリアは知らないだろうけど、この糸は魔力をかき乱す効果があるらしいんだ」


 以前捕まえた妖精も、これには苦しんでたな。あのあと少し調べてみると、どうやら俺が糸に通している魔力に引っ張られて、魔力が安定しなくなることが原因のようだ。詠唱魔法が使えるかどうかは未検証だ。


「何ですかそれ、強いですね」


 さすがにミリアも慣れたのか、俺の横に出てきて、しゃがんで黒犬を観察している。

 にしても、こうして捕まえてしまうと以前の犬と何ら変わらない気がする。魔法を使われなかったので、本当に使えるかどうか怪しいもんだ。

 今は、糸から逃れようと必死に足掻いている。少し寂しそうな顔にも見えて、中々可愛い。


「ちょっとほどいてみても良いか?」


「ダメに決まってるでしょう? 話を聞いていなかったのですか?」


 聞いてたから逆に興味を持ったのだ。


「じゃあ、余ってるパンをくれ。餌付けしてみる」


「ローはおバカさんです。しょうがないので付き合ってあげましょう」


 なんだかんだ乗り気になっている。わんこの可愛さにやられたか。

 当のわんこは、轡のように口を押さえつけている糸を外そうと前足で叩いている。招き猫か、お前は。

 ミリアがパンを持って来た。俺の朝食のパンだったが、当然と言えば当然だ。

 動かせていた手を縛り付けて、口を押さえつけている糸を取る。


「ほーら、これが食べたいかー? 食べたいだろー?」


 ちぎったパンを鼻に持って行くと、興味深げにくんくんと嗅いでいる。すぐに噛みつこうとしたが、まだ渡すわけがない。


「まて!」


 そう言って、再びパンを口に持って行く。しかし、当然すぐに食べようとするので、届かない所まで離す。根気よく何回か続けると、パンを差し出しても動かない。そうなってからようやく、


「よし!」


 と言って食わせた。

 ふぃー、何かやりきった感があるな。……大したことはしてないけど。

 それを見ていたミリアが、


「それは、私でもできますか!?」


 とっても興味津々だ。横からこちらを覗き込む目は、キラキラしちゃってる。従順な犬はかわいいから仕方ないな。


「できると思うぞ」


 そう言ってパンをちぎって渡すと、俺を押しのけて再びしゃがみ、楽しそうに「待て」と言っている。

 俺はミリアの左手にパンを持たせて、そんな一人と一匹を横に立って暫くの間、微笑ましく眺めていた。

 最後のパンを食べさせて、ミリアがこっちを見る。


「ロー、パンがなくなっちゃいました」


 そんな悲しそうな目で見てもパンは出てこないぞ。

 すごく今更だが、犬にパンは上げてよかったのだろうか。


「そろそろ行かなくちゃいけないぞ。結局、この犬はどうしようか?」


「ランは私の使い魔にします!」


 こちらを見て胸をたたきながらそう言い放った。

 使い魔宣言のついでに名前まで付けてやがる。


「ちなみに、ランてのは名前だよな、由来はあるのか?」


「ひ、秘密です」


 ミリアは特に何も考えていない顔をしている。

 ランの方を見ると、縛られたままなのになぜか落ち着いた顔をしている。今なら触れそうだ。

 スッとしゃがんで手を伸ばす。おお、警戒してないぞ。そのまま体をわっさわっさ撫でる。少し獣臭いのでこっそり浄化したのは内緒だ。

 食べ物で釣られて懐くとか、ちょろいな。飼い主に似てて、可愛いやつだ。

 後ろでは、ミリアが目を輝かせ、両手を開き指をぴくぴくさせて、口をだらしなく開けている。


「ロー! 私にも早く触らせてください!」


「ほい、どうぞ――」


 言い終わる前にミリアはランを撫で始めていた。


「もふもふです! 気持ちいです!」


 何やら興奮していらっしゃる。もう糸を解除しても大丈夫でしょ。一応、噛まないように轡だけ作り直して他の糸を外す。


「わっ! 急に、アッハハ、もふもふー」


 立ち上がらずにそのまま腹を見せて寝転がるランと、それに気をよくしてさらにわっしゃわっしゃ撫でるミリア。ほほえまー。

 出会って10分経ったっけ? こんなちょろい動物がいていいのだろうか。




「そろそろ行こう、ミリア」


「そうですね。ラン、行きますよ」


「ウォン!」


 仲間が増えたよ、やったね。

 既にランは無拘束状態だ。

 使い魔にするって言ってたけど、何か特別なことをしたのか? って聞いたのだが、ミリアは、


「え? ローは懐きやすいって知ってたから生け捕りにしたんじゃないんですか?」


「知らん。野良の動物がそんな簡単に懐くわけないだろ」


「えぇ!?」


 なんて感じで、何も知らないようだ。こっちがびっくりだよ。

 しかもさっきミリアの言葉に返事してたような気がする。気のせいだよな?


 まあ、今はいいや。ランの足の速さは知ってるから、道中も問題ないだろう。

 そう思いつつ。ミリアのバッグを体に縛り付け、再び走り出すのだった。


誤字てーせーした。残ってたらすまん。

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