18.ミリア、怒られて怒る
前回のあらすじ
体が戻らないので、ミリアと一緒に寝た。朝に、女将さんに見つかったが、トイレはハイテクだった。
おわり!
さて、流した(流してない)のにいつまでもトイレの中にいるわけにもいかない。さっさと出ますか。
ドアの取っ手を引くと、横から手が現れて、
「ちゃんとできたようだね」
そう言って女将さんに頭を撫でられた。その手は今までの基準だととても大きかったが、とても優しかった。
はっ。いつの間にか気持ちよくて目を閉じていた。女将さんはテクニシャンだ。
さて、問題はここからだな。なんて聞かれるか、どうこたえるか考えておかないと――
「お嬢ちゃん、名前は?」
女将さん早い。
うーん、名前か……今の本名でいいか。
「ロー」
「そうか、ローちゃんか」
ロー「ちゃん」ってすっごい違和感ある。
女将さんは考え込むように、視線を斜め上に向けた。多分、知ってる名前かどうか思い出しているんだろう。
思い至らなかったようで、再びこちらに視線を向ける。
「どこから来たんだい?」
さっきも聞かれた気がする。ああ、何かたまたま誤魔化せたんだっけか。
俺は苦し紛れに、東だと思われる方向を指さして、
「そと」
と言う。俺に頭脳プレイは無理だ。そもそも階段から降りてきたのにな。
女将さんも少し困った顔をして、
「外のどっちだか、わかるかい?」
と、一応聞いてくる。答えを期待してない苦笑いだ。うまく騙せているようで良かった。
俺は、それに乗っかって、
「あっち」
と、再び同じ方角を指さす。女将さんは呆れて、フフッと笑った。
その時、
「ロー? どこですか? 迷子さんですかー?」
食堂の方からミリアの声が聞こえてきた。
天の助けきました! ありがとうございます。今だけ、ミリアの声が天使のようだ。
女将さんが目を一度食堂の方へ向けて、再びこっちを見て言う。
「ローちゃんの知り合いかい?」
それに対して頷く。
すると、女将さんは何も言わず俺の手を取り、食堂へと向かう。
「あー、昨日の受付さんと一緒にいたんですね。朝起きたらいないからびっくりしましたよ」
びっくりした割には慌ててないな。ああ、そういえば、ミリアは俺の位置が分かるんだったな。便利な機能ですこと。
「この娘はあんたの連れかい?」
ツレだなんて、そんな……ってそんな冗談はどうでもいいんだよ。ミリア、うまく誤魔化せるかなぁ。
「そうですよ」
ダメでした。何故すぐ明かしたし。
女将さんもため息をついている。
「あんた昨日の夕方に泊まりに来た人だね」
「はい、そうです」
何その英語の模範解答みたいな言い方。この状況分かってんのかなぁ。
「だめだよ、勝手にもう一人泊めたんじゃ。今回、ここでは不問にするけど、他の所でそんなことやったら、幾らふんだくられるか分からないからね?」
「えっ、す、すみません!」
優しく言う女将さんに、必死にぺこぺこ謝るミリア。……なんかごめん。
女将さんは、つないでいた手を離して、俺の背中を軽くとんっと叩いた。
「それに、こんな子からあんまり目を離すもんじゃないよ。今度からもっと気を付けな」
「こんな」子ってどういう意味だ。何か含みがあったぞ。
ミリアはすみませんともう一度謝った。ミリアだけに謝らせるのもあれなんで、俺も女将さんにすみませんと謝っておいた。
それを見た女将さんはニッと笑って、俺の頭を今度は少し乱暴に撫でた。
子供じゃないってバレてるような気がしなくもない。まあ、不問にしてくれるらしいし、そんな気にしなくていいか。
それにしても……女将さんは、少し乱暴でもやっぱりテクニシャンだ。
現在、部屋に戻ってきて反省会中だ。
「ローが勝手にいなくなったせいで、私が怒られたじゃないですか」
ミリアが怒っているだけだが。
「……ごめん」
「もう、謝ればいいと思ってるんですから」
そう言ってこちらから顔を背けるミリア。
別に思ってないけど……言ったら余計に怒るので言わない。
機嫌を取り繕うにも、俺は何も持っていない。どうしよう。
「まあ、朝食取ってきますね。そろそろ、できたでしょう」
さっき、女将さんに聞いた時はまだ、できていないとのことだった。そんなすぐできていると思わないけど、メンドイし、言わない。
「いってらっしゃい」
ミリアは、何も言わず部屋の鍵を開けると、さっさと行ってしまった。
やっぱり、拗ねてる感じが子供っぽい。
案の定、ミリアはすぐには戻ってこなかった。おそらく、下で完成を待っていたのだろう。
戻ってきたミリアが持つトレーには二人分の食事がある。ミリアは一人分しか持ってこないと思ってたから、意外だ。
「ローのせいで無駄に二人分買うことになりました。お金返してください」
不機嫌そうにそう言った。
無茶を言うでない。お金なんぞ一銭も持ってはいない。
まあ、同情の余地はある。多分、俺の分を頼もうとしたら女将さんに不思議がられたのではないだろうか。そして、買わせているあたり、女将さんも商売人だな。
「考えておくよ」
無難(?)にそう言っておいた。
ミリアはトレーをテーブルに置くと、椅子をベッドと反対側に持って行き、座る。俺はベッドに膝立ちである。
朝食はパンと魚介スープのようだ。スープは昨日とはまた違い無色だ。金色の油がぽつぽつと浮いており、何か海藻と、白身魚が沈んでいる。そして、何とも言えない磯の香りがする。
パンは不味そうなあれだ。特に言うことはない。
「ミリア、こっちのパンもあげる」
「いえ、これはパンではありません。丸い麦の何かです。一応もらえるものはもらいますが」
堅いパンを頑なにパンだと言った理由が分かった。この柔らかめのパンが好きではないのだろう。
俺が渡した分のパンは、布に包まれてバッグの中へと消えた。
「いただきます」
テーブルの対面から、そう聞こえた。俺もそれにならって一応挨拶をした。
さて、実食だ。
今回は、木のスプーンが置いてある。俺はそれを取って、スープをすくう。近付けるほどに磯の香りが強くなる。口に入れると、舌の上に濃厚な旨味が流れ込んできた。それは、薄めに味付けされた塩ラーメンのようだが、スープとして味わえるように、味がきっちり整えられている。
海藻をすくってみると、わかめのような見た目なのだが、磯の香りは今が一番強く感じる。触感はわかめなのだが、味はまるで海苔のようだった。
白身魚にも、スープの味が染みていて、噛むごとに肉汁のようにスープが溢れて来た。
うむ、まあまあだな。
美味しいのだが、昨日のマグロ丼のインパクト比べてしまうと霞んでしまった。まあ、仕方ないはと思う。
ミリアは、パンを不味そうに食べては、スープを飲んで美味しそうにしている。不味くて思っても食べてる辺りはえらいと思う。お金払って買ったのだから、当然ではあるけども。
連続でミスってるので修正した。




