17.やっとトイレの出番
本日二話目
大分前にトイレは明日だといったな。あれは嘘だ。
前回のあらすじ
ミリアを泣かせてまでマグロ丼を食べた。
おわり!
夕飯は何事もなく終わった(大嘘)。
ミリアは、食器を片付けに部屋を出て行った。
俺は、この格好で外に出るわけにもいかないので、どうやれば元に戻れるか考え中だ。ミリアに聞いても知らないようだったので仕方がない。
自分で自分の体を消すって、何か抵抗があるんだよな。もともと人間だったから余計だ。自傷するようで、少し不安がある。
試しに、消えろって、念じてみたけどダメだった。そりゃそうだ。魔法は魔力を動かさなければ使えない。ただ念じるだけでは魔力は動かない。だからこそ、人間は魔法語によって魔力を操る。何故魔法語が魔力を動かすトリガーになるのかは、見てるだけではさっぱりわからなかった。
よく考えてみたら、この体は俺が持っていた魔力によって構成されたとはいえ、作ったのはミリアだ。ミリアが解除する必要があるんじゃないだろうか? これはミリアが帰ってきたら、また相談しよう。
そのほかの方法か……。内側から放出された魔力なら、また吸収してしまえばいいのではないだろうか? あー、でも、一度体として構成されたものを魔力に変換するってことか。要するに、魔法で作った水を魔力に戻すってことだろ? 無理じゃね。そんなことができるなら、この世界のありとあらゆるものを魔力に分解できてしまう。そんなん、チートにもほどがあるだろ。
あれ? それだと魔法を使って魔力を物に変換する度に、どんどん魔力がこの世から消え去ってないか? それだと、いつか魔法が使えなくなる時が来てしまう。そんなはずはない、と思う。だとすれば、物質を魔力に戻す何かが存在するはずだ。
話が大分それたな。一応、吸収に挑戦してみよう。んー。
……無理だな。イメージできない。
ミリア、はよーこい。
無理でした。なにがって? ミリアが来ても、元に戻れなかったんだよ。こうなりゃ物理的に破壊するしかないが、ちょっとつねっただけでも痛くて無理だった。これ以上痛いのとか嫌だ。
以前死んだ時だって、一瞬で意識を刈り取られたから、痛みなんてなかったしな。
今までで一番痛かったのは、自転車で坂を下ったときに、小石か何かにぶつかってハンドルを取られてずっこけた時だろう。あれは痛かった。骨折はしてないけど、主に肘の皮がすごいことになっていた。
んで、現在日も完全に暮れてしまった室内に、ミリアの魔法で浮かべた光に照らされて、ボケーッと椅子に座っている。
ミリアの村のハーフエルフたちは、大人全員が精霊と契約しているのだそうだ。だから、村に着いたら元に戻れるだろうという話になっている。
「そろそろ寝ませんか? 私はもう眠いです」
そう言って、あくびをするミリア。
寝るって言っても、俺は寝れな……い?
今、俺には体がある。つまり、
「やった! 寝れるんだな。眠ることができるぞ」
そう言ってガッツポーズをする。
「あ、でもこの部屋ベッド一つしかないぞ」
やばい、寝るスペースがない。
「そんなの一緒に寝ればいいじゃないですか。うるさいですよ。早くこっち来てください」
そう言いながら、ミリアは体を壁の方にずらし、空いたスペースをポンポンと叩く。
なん…だと……。
美少女に添い寝してもらえる権利を手に入れたぞ。
俺は、ベッドに近づいて、
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
とだけ言って、布団に潜り込む。
そのベッドは少し堅かったが、とても気持ちいい物だった。
ミリアが明かりを消すとすぐに、俺の意識は落ちて行ったのであった。
はっ!? ここはどこだ?
久しぶりに、寝ぼけるという体験をした。起きた時に目の前に美少女の顔があったものだから、一瞬夢かと思ったのだ。
実際は、ただのミリアの顔なので、こっちが現実なのだが。
ミリアはまだ眠っている。外からは、朝焼けした日差しが部屋の中に直接差し込んできている。
トイレに行きたい。
後で考えれば、昨日だって漬物と一口のマグロ丼しか食べていないのだから、出るものが出るとは思えない。
それでも、体に染みついた――この体のものではないが――癖のせいか、俺はトイレを探すこととなった。
二階には宿泊用の部屋しか見当たらない。だから俺は、階段を下りて下へと向かった。
一階では早起きな女将さんが食堂の掃除をしており、厨房からも何やら料理の音が聞こえてきていた。
女将さんが、階段を下りてくる俺に気づいて、
「おはよう、お嬢ちゃん。どこから来たんだい?」
子供とは言えども、宿に通した覚えのない子供が来たからだろう、女将さんは少し俺を警戒していた。
やっべ、寝ぼけてやらかした。頭が全然回っていなかったようだが、おかげで冷静になった。
ここは子供であることを利用してすっとぼけるしかない。
「トイレ行きたいの」
「トイレ? トイレって何だい?」
優しい笑顔でこちらを見る女将さん。いまだに、顔には警戒の色が残っている。
とぼけるというか、ボケてしまった。まさか、昨日と同じミスをするとは。それ以前にも、声が大人っぽかったり、胸がでかいし、あんまり誤魔化せる気がしてこない。
「便所」
「ああ、便所ね。それならこっちだよ」
そう言って俺の手を引いていく女将さん。まだ警戒はしているだろうが、ここで漏らされても困ると思ったのだろう。
着いて行った先にはさらに下に降りる階段があった。四段くらいしかないけどな。その先には扉が見えるが、独房じゃないよな?
扉の前まで行くと、女将さんが手を放して言った。
「ここが便所だよ。使い方はわかるかい?」
「分からない」
うん、多分水洗じゃないからわからない。
すると、女将さんは扉を開けた。
中は、土が敷き詰められており、真ん中だけ石で丸く囲われて窪んでいる。
「あの真ん中の窪みに用を足すんだ。そしたら、ここに手を当てて”作動”と言うんだよ。もしも、それで何も起きなくても、私に言ってくれれば大丈夫だから」
女将さんが言う「ここ」と言うのは入ってすぐの右側の壁にある金属のような光沢のあるプレートだ。そこには幾つかの文字が円の中に書かれているから、おそらく魔法陣であり、この部屋の仕組みを使うスイッチなのだろう。
「分かった」
そう一言だけ言うと、女将さんは頷いて、俺を一人部屋の中に残し、扉を閉めた。
さて、別に用を足したくてトイレに来たわけではない。故に、出るものも出ないだろう。一応便器らしいものにまたがって、パンツを下ろそうとしたが、和式便器なのもあって、脱ぎにくかったからやめておいた。慣れないことをして服の裾を汚したくはない。決して、ロリボディに怖気づいてなどいない。
便器の中は、別に穴が開いているわけではなく、ただ窪んでいるだけだ。その上、この部屋は全く臭くない。少し、食堂のお酒と、食べ物の匂いがするくらいだ。浄化を行える魔法が仕込まれていることは確かだろう。
便器の中に魔力を使って水を少し貯める。多少土が水を吸うが、そこまで早いものではない。
そして、お待ちかねのこのスイッチと思しき魔法陣だ。さてさて、何が起きる事やら。
プレートに手をかざす。
「”作動”」
そう言った瞬間に、匂いが消える。そして、便器の方からシュッと音がする。振り向いてみると、既に便器の中の水はなくなっていた。そして、一瞬火がボッとついたかと思うと、窪みの中の土が更に凹んで、すぐに元に戻った。
……ハイテク。
火洗式トイレと言ったところだろうか。まあ、なんか土とか浄化とかあった気がするけど。
すごい魔力を消費するんじゃないだろうか? これが町中にあるなら、街も綺麗になるだろうが、維持費はどんなもんなんでしょうかね? お金がなさそうな子供のタダで貸し出すほど安いんですかね。
お待ちかねのトイレです。
……トイレです。
おっぱい忘れてたので追記しやした。




