11.自己嫌悪がスパイラルしたりしなかったり
サブタイ通りに、ちょっと鬱ります。
俺は今、最高の気分だ。
なんたって美少女の肩にいるんだから。俺を素通りする髪がくすぐったい。実際にくすぐったいわけではないが、そういう気分なのだ。
その美少女、ことミリアは現在コンパスを頼りに、西へと向かっている。
コンパスなんてあるんだな。いつ頃からあるんだろ。
「コンパスって、磁石のことですか? えっと、私のお祖母ちゃんの若い頃は魔法で方角を調べていたって聞いたので、多分200年位前ですかね」
お祖母ちゃんいくつだよ……。エルフなら普通なのか。
「お祖母ちゃんは年齢を聞いても教えてくれないんです。お母さんもですけど。どこにいるか分からないですが、ひいおばあちゃんなら知ってるはずです」
いや、別にそこまで知りたいわけじゃないんだけど。
「そうなんですか? 結構知りたそうにしてるように感じたんですけど」
俺、そんなにがっついてた覚えないんだけど……って、あれ?
「どうかしましたか?」
口に出してた?
「言葉が伝わってきたんですけど、話しかけてたのではないんですか?」
え、筒抜けだった? 美少女の髪、最高とか思ってたことも?
「美少女とか、褒められると、その、言葉が返しにくくて。聞こえない振りを……」
一度離脱じゃい。
おーい聞こえるかー?
……うん、聞こえてないな。
うっわ、めっちゃ恥ずい。顔があったら真っ赤ですよ。茹でだこみたいになってますよ。
契約でミリアとつながったから、物理的に接触すると、心の声が筒抜けになってしまうようだ。
あっぶね、早めに気付いてよかったぁ。アレな妄想とかしてたら取り返しのつかない事になってたんじゃないですかね。
ミリアが少し頬を赤らめたまま、こちらを不思議そうに眺めている。
契約してから俺の居場所が完璧にわかると言っていた。だからこっちの居場所はわかっているが、突然離れたので驚いているのだろう。
ハルトの肩に乗って味を占めたから、天罰でも食らったみたいだ。ってか、あいつは契約してないから聞こえてなかったよね? 大丈夫だよね?
これは、肩に乗っても心が伝わらないようにする訓練をしなくては、おちおち妄想……考え事もしていられない。どうしよう、聞こえてるか、って言って、聞こえてない振りをされてたら困るし、何かいい方法は……あった。
スッとミリアの肩に戻る。
ただいま。
「? おかえりなさい」
よし、伝わらないように意識しながら、
ミリア、とてもかわいい
横顔が赤くなっていく。失敗だな。
どんどん行くぞ!
そうやって、ひたすらミリアを褒め殺した。ミリアが、真っ赤になった顔を手で覆って蹲ったころにようやく成功した。
ミリアー、大丈夫か?
……聞こえてないな。
「ミリアー、大丈夫?」
か細い声が返ってくる。
「はい、大丈夫です」
なんか小さい子を泣かしたみたいになってる気がする。これ第三者から見ると、そう見えちゃうよね。
前にもこんなことあったような……。
格下相手になると強気でいじめ始める俺、マジ格好悪い。
いや、前世でもそうだったけども、最近は他人とかかわりあってなかったから、ちょっと他人との距離感が分からなくなってるだけだから。俺そんなに悪くないから。
すっごい惨めになった。体の無い俺の心に痛みが走っている。気持ち悪い。
先に落ちつたミリアが心配して声をかけてきた。
「どうかしましたか? お腹痛かったりするんですか?」
そんなわけないだろうに、これは少しとぼけて元気を出させようとしてくれているのだろうか。
この状況も更に惨めさに拍車をかけている。でもあんまり心配させるわけにはいかない。大丈夫だ。別にいじめたのではない。ちょっと実験がてら褒めまくってたら楽しくなっちゃっただけだ。悪いことはしてない。
「ちょっと自己嫌悪に陥ってただけだ。大丈夫」
もう一度、自分に言い聞かせるように言う。旅の初日からこれでは身が持たない。
そうだ、今は人間ではないのだから、少しくらい悪いことをしたって問題ない。そう思うことにしよう。
「そうですか、もう声は隠せるようになったんですから、あんまり褒めないでください」
そう言ったミリアの頬は、再び赤くなっていた。
にしても、なんたってこんな気分のアップダウンが激しいんだか。美少女の登場で舞い上がったのは否めないが、それにしたって、落ち込み過ぎた。唐突過ぎて皆びっくりしちゃうよ。思春期のガキかよ。
思春期……うっ、頭が。
それは置いといて、
「分かってるよ。ごめんな、調子に乗っちゃって」
「いえ、悪口を言われたわけではないので……とても複雑な気分ですけど」
眉根が寄って、口元は緩んでいる。何とも言えない顔だ。
とりあえず話を戻そう。えーと、何の話をしてたんだっけ。
「そういえば、ミリアっていくつなんだ?」
「15ですよ。ローさんは?」
嘘だろ? もっと下だと思ってた。精神的に子供っぽくない? 日本で言えば15なんて子供なんだけど。
「まだ生まれて二ヶ月だよ。だから呼び捨てにして構わないぞ」
「分かりました」
そう言ってこちらを向き、にひっと笑って、
「ローは赤ちゃんなんですね」
さっきの仕返しとばかりに言ってくる。くっ、かわいい。
ここは強引に話を戻してスルーだ。
「それにしても、15にしては子供っぽくない?」
「んー? 子供っぽいですか? 初めて言われました。村の友達もそんなに変わらないと思うんですけど」
別に怒った様子もなく、不思議そうに言う。
この世界の人ってこんななの? あー、でもハルトは違ったな。あいつが大人びているのか?
おー? そういえば、忘れてたことがあるぞ。ミリアはエルフだ。寿命が長い分、精神面の成長が遅いんじゃないか? それなら納得できる。
それを伝えてみると、
「なるほど、そうかもしれませんね。私の村にはハーフエルフしかいませんでしたから、人間よりも成長が遅くても気づきませんね」
ハーフエルフだけの村かぁ。普通の人が入っても、顔面偏差値一桁なんじゃないかな。
って、ミリア、ハーフエルフだったの?
「はい、そうですよ。ひいおばあちゃんはエルフだったらしいので、お祖母ちゃん達が作った村なんですよ」
少し誇らしげにそう言うミリア。
聞いた感じで考えると、その村最低でも100年以上存続してるよな。地味にすごい。




