10.自由への一歩
名前考えるのが大変だった(小並)
唐突に辺りが光りだした。
うおっまぶしっ。
いや、強い光があっても目で見てるわけじゃないから眩しくはないんだけどな。
今日はいつも通り、パトロールをしてたんだけどな……。
俺は木の精霊「ロー」だ。もともと、日本に住んでいたのだが、ちょっとしたことで死んでしまって、いつのまにかここ「東の森林」に精霊として転生した。パトロールは、俺の雇い主ともいえる、神木「エストイア」に森の南側を任されているのだ。
いまだに残る光の中、辺りを見回すと、三方を囲む木材でできた壁と一方向だけ二枚の板がはめ込まれた壁が見える。普段は木の向こう側のくらいは余裕で見えるが、壁の先はなぜか透視できない。どこかの室内のようだが……。
思い当たる場所が一つだけあった。
神木の祠だ。
そこなら、何があってもおかしくはない。まあ、この部屋の中は何も無いのだが。
光が収まった。そしてすぐに、二枚の板の壁が奥へと観音開きに開かれる。
開かれた先には、一人の少女がいた。
白をベースにほんのりと桃色がかった肌、整った顔立ち、小豆色の瞳を持つ垂れ目、短く明るいブラウンの髪。そして、最も特徴的なのが、髪の間から飛び出すとがった耳。
間違いない、エルフだな。
急に世界が華やいだ気がするよ。ありがたやぁ。
今の位置からだと、肩より上しか見えないが、エルフの少女は不思議そうにこちらを見ている。……かわいい。
奥の景色はよく見たことがある。やはり、神木の祠の中にいるようだ。なんでだろ。ちょっとエストイア(様)に聞いてみるか。
『これどういう状況?』
『その娘に聞くといい』
投げやり過ぎじゃない? 何かしら教えてくれてもいいのに。
エルフの少女は祠の中を見回してから、首をかしげている。かわいい。
この少女と俺はどうしてここにいるのか。現状からはっきりと言えることは、「少女がこの祠が光るのを見て、扉を開けてみたら何もなくて不思議に思っている」と言う事だけだ。
エストイア(様)が言うのを信じるなら、この少女がこの状況が起こる原因のようだ。でも、何か知ってるようには見えないけどな。
ああ、そういえば、昔やったゲームで、精霊を使役するエルフが出てきたから、召喚されたとかもあり得る。この祠はなかなかに神秘的な場所だし、そういうことができてもおかしくなさそうに見える。
召喚されたと考えれば、「祠が光り、召喚が成功したと思って扉を開いてみたのに何もいなくて不思議がっている」といえるし、そういうことなのかな。
少女は辺りを見回す。そして、ボソッと、
「何もいない……」
と呟き、考えるような顔をする。
すごくかわいい。
こっそりと祠から出て、少女の全身を見る。
身長は140センチほどで、白いシャツに丈の短いこげ茶色のショートパンツを着て、上から薄い生地の布を羽織っており、膝まであるブーツをはいている。腰には剣と短剣がそれぞれ左と右に付いており、片手に一メートルくらいの長さの杖――ただの棒とも言う――を持っている。そして、体に対してやや大きめなバッグを背負っている。
この格好と、辺りに誰も居ないことを鑑みるに、一人でここまでの50キロはある道のりを来たようだ。ララストルから来たという前提なので、もっと遠くから来た可能性はある。
生前の俺には真似できんな。ハルトといい、この辺は一人旅が基本なのか?
いつの間にか、少女が難しい顔をしたままこっちを見据えている。動くのに魔力を使うから、見つかったのかな。
少しの間見つめあう、もとい、睨みあう。
「あなたは私が呼んだ精霊?」
先に声をかけたのは少女のほうだった。
誰が呼んだかなんて知らない。でも、多分あってる。美少女と話すとか、緊張する。
「おそらくな。気が付いたらその祠の中にいたよ」
少女の顔がパーッと明るくなる。とてもかわいい。
ちょっと偉そうにしゃべると、大分話し安くて楽だ。
「じゃ、じゃあ私と契約してくれますか?」
必死にそう言ってくる。
契約? 何の? 俺と?
いろいろと分からないことが多い。
「契約とは何だ?」
少女は、今度は少し驚いて、
「えっ、精霊契約です。私も一人前になるために、精霊と契約してくるように言われました」
僕と契約して魔法……は立場が逆か。
説明が端折られていてわからん。まあ、何となくはわかるが、一応詳細を聞いておくか。
「具体的には、何をする契約なのだ?」
「契約をすると、精霊と契約者の間につながりができて、いつでも魔法を使ってもらえるって聞きました」
聞いたのかぁ。そっか。この娘、ちゃんと予習してないな。
こんな時こそ、教えてエストイア先生。
『この娘は、ものを知らないようだな。だが、儂がお前が適任だと判断して呼んだのだ。お前なら問題ない』
どういうこっちゃ。なーぜそんな回りくどい言い方をするのか。これが分からない。
そういえば、非常に重要な問題がある。
『もしかして、契約したら、この森での仕事と、この娘との契約と両方やらなきゃいけなくなります?』
『いや、お前はさんざん森から出たがっていたからな。この森の仕事は免除してやるから、一度外の世界を見てくるがいい』
先生、ありがとう。俺も、ついに自由になる時が来たんだね。心の汗が、流れ出そう。
エストイア先生の考えが変わる前に、さっさと契約して、森を出てしまわねば。
「契約はどうやってやるのだ?」
「契約を許可してくれた精霊が勝手にやってくれるって聞いたので、やり方は知らないです」
少ししょんぼりしながら言う。
今後が不安になってくるな。だが、かわいいから許す。
とりあえず勘でいこう。
契約者とのつながりがどうとか言ってたな。うーん、とりあえず適当にやろう。
つながれー。
少女とつながるイメージをしてみたが、ダメだった。
契約書みたいなものが必要なのかな。ならそれをイメージして……あれ、そういえば、この娘の名前聞いてないや。
「お前の名を聞こう」
「え、あ、私はミリアです」
ミリアか。そういえば、ファミリーネームは無いのかな。ハルトも名乗ってなかったし。
「我は、ローだ」
「あ、はい。ローさんですね」
よし、じゃあもう一度契約書をイメージして、それを間に俺とミリアの間を繋ぐ……。
できてる気がしない。あっれー、やっぱだめか。
こうなれば、何度も手を煩わせたくなかったが、先生の力に頼るしかない。
『こういうのは、言葉で交わすものだ』
だそうです。
気を取り直して、
「ミリアよ、其方が必要とするとき、我は力を貸すことを誓おう」
こんなのでいいのか?
「あ、すごい。つながったのが分かる。契約成立ですね」
えっ、いつの間に。んー、確かにつながってる気がしなくもない。
これで俺も晴れて自由の身だな。実に清々しい気分だ。
「これからよろしく。ミリア」
「はい、よろしくお願いします」
ミリアは、笑顔でそう返事をした。この上なくかわいい。
修正点:章を作ったので一応自己紹介を入れた。




