令嬢は背負い投げで来世を無双する。
興味本意で書いたしっちゃかめっちゃかな悪役(?)令嬢の転生短編小説です。
思ったけど、もしかしてこれって悪役令嬢転生かも?と思ったが厄日。
アリア・ユーナシア。それが私の名前、なんでこんなに母音が3つもあるんだ!と思ったが弟の名前もエリオットだったので母音兄弟として仲良くしていこうと思った。
私はここに生まれる前は冴えないオフィスガール。社会人になって初面接した場所がかなーり黒い黒い企業で毎日パソコンとにらめっこ。お陰で20歳越えたばかりの張りのある肌はかさつき、目元には隈までできていた。畜生あのクズ上司め…!と何度上司のような豚を呪った事か。あ、豚のような上司か。思い出すだけで腹が立つ。ええい!忌々しいっ!あいつなんか脳天ハゲになってしまえ!
「ちっ…」
「…?どうかしたのか、アリア」
「い、いえカイン様…何でもありませんわ」
「そうか、よかった。私の愛しい婚約者殿が体調を崩したのなら…国中の医師を集めて治療をさせるよ」
この素晴らしい溺愛発言さらっと言ってしまう金髪碧眼の殿方はなんと我が国の王子殿下であり我が婚約者である。なんでも私が猫と遊んでいる時にビビッと来てしまったそうだ。なぜだか運命の出会い…をした私達は、いや。私は王子殿下や我が父母、さらには国王陛下の会話に流されとうとう婚約者という立場になった。なってしまったのだ。
出会って間もない頃は
「やあ、アリア殿」
「あら、王子殿下」
「王子殿下なんて、白々しいなぁ…キミになら呼び捨てでも構わないよ」
「いやですわ、とんでもない」
「いいんだよ、キミならね」
ははは、ふふふとお互いに微笑みながらも、やばいやばいやばい!名前呼びなんて王子様ファンのご令嬢に刺客を差し向けられるぅ!と心のなかで盛大に冷や汗をかきまくっていたのが懐かしい。
そしてとある日、王子殿下は私に爆弾を投下してくれた。
「最近、サーマルド男爵令嬢が私から離れてくれないんだ…」
「さーまるど…?」
「ああ、キミには言った事が無かったね。最近学園に平民出身の女の子が入ってきたのさ。魔力の量が多くて_______」
そこから先は耳に入らなかった。
え、ええ!ええ!?もしかして王道ヒロインか?平民と王族の禁断の恋ってか!?そして私は必然的に悪女か……や、やだやだやだやだぁ!私婚約破棄なんてされたくない!と心の中にもう一人の私を作り出して泣こうとしていた時。
「ふふっ、私には貴女だけだよ…アリア」
「…ぇ?」
油断をしたが最後。顔中にキスの雨が降ってきた。額に、瞼に、鼻の先に、頬に、そして…唇へと。うおおおおおおおああああ!!!!ふぁ、ファーストキスがっ!王子にっ!イケメンに!いぎゃぁぁあ浄化されるぅう!と、どこぞの悪霊になった気分でキスされた事に対する恥ずかしさを無理矢理消し飛ばした。
そして問題は起こった。カイン様の誕生日パーティー。カイン様は一時城へ戻るそうなのだが学園中のお偉いさんを呼んで盛大に誕生日会をするんだと。どういう訳か例のサーマルド嬢も参加していると困った顔のカイン様に言われた時は、正直どうしようもなかった。
「カイン様は、そのっ…こ、婚約者は」
「…」
「やっぱりいらっしゃらないのね…!」
「サーマルド男爵令嬢」
「やだ…名前で呼んでくださいって言ってるじゃないですか…」
えっと、この子がサーマルド嬢?え、何だろう、え…えっ気持ち悪い普通に。やめて。私のカイン様に気安く触れるでない!!
「姉上、いいのですか」
「エリオット…」
「あの女、姉上を盗み見ては勝ち誇った笑みをしていますよ」
「…ぇ」
それから弟の話を相槌を打ちながらよそ見をしているとツカツカとヒールをならしながら誰かが近いてきた。え、誰。
「ねぇあなた!」
「…初めまして、私はアリア・ユーナシアと申します」
「?は?なにやってるんですかぁ?」
「…?貴女こそ何をしているのですか?」
「…っ!あなた調子乗らないでよね!」
えっと、ごめん何に対してかな。近いてきたサーマルド嬢に淑女としての令をとれば珍獣を見るかのような目で見られた。解せぬ。
少しばかりイラッとしたのでこっちも珍獣扱いさせてもらった。ふはは、どうだ。
「いくらカイン様が私の事を好きだからって睨まないでください!!そしてもうカイン様に近づかないで!」
「あなた、誰に物を言っているのかわかっていらいて!?」
サーマルド嬢の非常に残念な勘違いに令嬢友達のレティシア様が怒鳴った。お嬢はレティシア様の怒号に怯んだ様子。お嬢でいいよ、名前が長ったらしい。
「え…?」
「この子は…いえ、このお方は王子殿下の婚約者ですのよ?まさかこんな常識すら知らないのかしら?」
「う、うそ…だって」
「サーマルド男爵令嬢」
「カイン様…!」
目の前で次々に展開していく出来事を客観的に見てしまい、なんだか劇でも見ている気分だった。
「カイン様、私はわかってます!その女に脅されて婚約をしたんだって!」
「サーマルド男爵、令嬢…」
「だから早く婚約破棄しましょう!」
「っ!?あなた何て事を…、!」
くってかかろうとしたレティシア様をカイン様が制する。止められたレティシア様は静かに腕組み、サーマルド嬢を睨み付けた。
「サーマルド男爵令嬢」
「もう、名前で」
「あなたは何故ここにいらっしゃるのですか?」
「えっ」
そこからかよ。
私は無性に突っ込みたかった。質問の意図を変に受け取ったらしく顔を赤らめるお嬢。
それを虫けらでも見る目付きのレティシア様。と眉間に皺をよせるカイン様。
「わたし、カイン様の誕生日をどうしてもお祝いしたくって…」
「すまない」
「いえ、とんでも…っ」
「私は貴女を呼んだ覚えが何も無い」
「う、うそ…だって…お義父様が言ってたの!」
「それは何かの間違いでは?私が呼んだのは我が親族、それから級友、親しい友人と愛しい婚約者殿」
「うそうそうそうそ…だって…ちゃんと好感度上げる会話して、それで今日があの女と婚約破棄して私にプロポーズするはずだったのに!!!許せない…!」
ゆらりと立ち上がってごそごそと淑女らしからぬ動作でドレスをまさぐる。そして、どこからだしたのかナイフを取り出して私に躍りかかる。おおお目が血走ってる来るなぁあ!!
ドンっ!!
時既に遅し。
「アリア…!」
「アリア様!!」
レティシア様と王子が私を見て泣きそうに顔を歪める_____のでは無く。歓喜に頬を薄く赤く染め私の足元を見る。足元には屍よろしくお嬢が倒れ伏している。実は私中高と柔道部でさ、迫り来る人を見ると背負い投げせずにはいられないんだ!
「ああ、アリア…アリア…私の可愛くて強いアリア」
「ふふっ…」
「結婚してくれ!!」
「…まあ、よろこんで」
その後私達は無事に婚約を果たし、3人もの子宝に恵まれ、人生を謳歌しまくって生涯の幕を閉じた。
それから私またどこかに生まれ落ち、国一番の美女と呼ばれた私は今日も今日とて迫り来る下劣な輩をあの時のように背負い投げ無双で一掃するのであった。