93話 周囲は色々あるけど、こちらは平常運転でいくだけです
それぞれの思惑はあるものの、利害の衝突はない。
概ね歩調を合わせる事が出来る事が確認されていき、先々の事が決定されていく。
ハルオミは鋼鉄支隊の本部に現状を報告し、一団全体でこの地域の利益に進出する事を進言。
得られる利益の大きさと、今後この近隣における活動範囲の拡大などを伝えていった。
それらがすぐに受け入れられる事は無いが、鋼鉄支隊は前向きに検討を始めていく。
今現在取り組んでる仕事があるのですぐには動けないが、進出については前向きに考えていった。
もちろん中枢の考えが下に漏れるわけもないが、動きはだんだんと明確になっていく。
一ヶ月二ヶ月と経つ頃には、それがはっきりと分かるようになるだろう。
カナエ達も今後増える冒険者に対応するべく、村の受け入れ体制を拡大していく。
もう村の中だけでは足りないので、別の場所に宿泊地を作る事すら検討されていった。
それだけ大規模な作業になる。
また、その作業を支える事が出来るだけの収益も期待出来る。
村の規模の拡張拡大はカナエだけでなく領主も含めた一大事業となりつつあった。
それだけでなく、この地方の統治者、さらには政府すらも巻き込む事になっていく気配すらある。
一地方の収益改善が理由ではない。
その先にあるモンスターの移動経路が国を動かしていた。
そこを通過されたら、国内情勢が更に不穏なものとなってしまう。
食い止めるために国も注視せざるを得ない。
地理的な要因が王家を始めとする政府を動かしていた。
動かざるを得ない状況になっていた。
ただ、政府が即座に動けるはずもなく、当面はこの地方の統治者が中心となって動く事になる。
それすらも簡単に動く事が出来ず、当面はカナエの一族である十条家が活動の中心となっていく。
責任は重大だが、十条家はこれを好機と受け止め、中央に売り込む事を考えていた。
こんな時に権勢争いなぞしてる場合ではないが、そこには心理的な負担を誤魔化す意図もある。
下手すればモンスターとの最前線になりかねないという恐怖。
それを阻止する為の責任。
そこから逃避したいという気持ちが内側に向けた権勢争いに発展してもいた。
どのみち逃げる訳にはいかないので、真っ正面の問題に取り組むしかないのだが。
そこは腐っても貴族、やるべき事はわきまえている。
今も続いてる村の拡張強化を更に推し進めるべく
当面の戦力として期待する冒険者を入れる器を用意するために。
同時に常駐する兵士を確保する為に動いていく。
兵士の確保が困難な懐具合であるが、上方修正された税収はそれを可能とした。
いずれ村に、そしてモンスターを遮るために建設する砦に常駐させる為に兵力を確保していかねばならない。
まだ余裕があると言える状況ではないが、早め早めに動いていかないと、後で手詰まりになる。
そうならないためにも十条家は動いていった。
大小様々な動きが起こっていく。
始まる仕事に自分の利益をからめ、それでいて目的を達成しようとしていく。
不毛な駆け引きがそこかしこで始まり、打算のための算盤をはじいていく。
それでも大体において共同歩調をとっていった。
それが出来るくらいに大人であり、そうする事が当たり前なくらいに腹が黒い。
「ほんと、よーやるよ」
そんな状況にヨシフミは笑うしかない。
モンスターの中に殴り込みにいこうというのに、そんな事でどうするのかと思ってしまう。
人の集まりだけに仕方ないとは思うが、どうにも緊張感が足りないのではないかと疑う。
危機感と言っても良い。
「モンスターが迫ってるって言ってるのにこれかよ」
目的は、崩壊した最前線からのモンスター侵攻を阻止する事である。
そのための行動のはずなのだが。
どうにもその自覚が足りない。
この情報を知らない冒険者達はともかく、領主達の方はそれで良いのかと思ってしまう。
小出しにでも情報を出して全員に共通の認識をもってもらわねばならないだろうに。
せめてハルオミ辺りには話しておくべきだとは思う。
なるべく早いうちに。
(まあ、このあたりは信用の問題か)
なんだかんだでハルオミ(というより鋼鉄支隊)を警戒してるようだし、下手に情報を出せないと思ってるのかもしれない。
それも仕方ないと思う反面、それで良いのかと思ってしまう。
やる意味が分からなければ冒険者は冒険者の考えで行動する。
悪いというのではない。
優先するべき事がはっきりしないなら、独自に行動しはじめる。
今は急いで先へと進むべきなのだが、そこまで急ぐ理由が分からなければ、冒険者達がそれに協力するかどうか。
山の中に出来上がった中継地点でモンスター退治に勤しむ事も考えられる。
護衛の任務で支払われる料金より、モンスターを倒して得られる利益が大きければそちらを選ぶだろう。
鋼鉄支隊としても、収益をあげられるならそちらを選ぶ可能性が高い。
そうならないようにするためにも、何故やるのかを説明しておいた方が良いと思えたのだ。
しかし、そんなヨシフミとて結局は、
(まあ、俺が考える事じゃないけど)
という考えに落ち着く。
忠告や警告はしたいところだが、それを届ける場所がない。
カナエに呼び出されれば伝える事も出来るだろうが、そういう機会もなかなかない。
接点を持とうにも、その機会が無い。
身分差というのが阻んでしまう。
(まあ、村長経由でいくか)
どこまであてになるか分からないが、意見をしたためた手紙を村長に渡すのが精一杯だった。
「そんじゃ、今日もがんばろうか」
頭に浮かんでくる心配や不安をあえて忘れて仲間に声をかけていく。
周囲がどうあろうとやるべき事がある。
そちらをこなしていかないと稼ぎが増えない。
どれだけ危機感があっても仕方が無い。
今は仲間と共にモンスターを倒しにいくのが先である。
「今日もおびき寄せてる所を回っていくから気をつけていこう。
何せ数が多いしな」
「はーい」
「ま、レベルも上がってるから余裕でしょ」
「サキ、そういう考えがまずいんだって。
自信を持つのはいいけどな」
「慢心はするな、ですねー。
いつもいつも言ってるからおぼえちゃいましたー」
「油断はない」
「そう願うよ。
ハルとミノリもな」
「はい、分かってます。
こっちはロバさん達と後ろにいますから」
「私は一緒に突入すればよいだけだろ」
「ああ、そうしてくれ」
各自からの返事をもらいながら出発を待つ。
なんだかんだでやる事はわきまえててくれるから助かってる。
「それでミノリ、新人は本当にこっちでいいのか」
「ああ。
先日正式に決定したそうだ。
五人ほどこちらにやってくる」
カナエからの依頼である。
兵士を鍛えて欲しいという。
その為に人員をこちらに回すという事になっていた。
「まあ、人が増えるのはありがたいけど」
どうやって使っていくのか悩むところだった。
レベルが上がるまでは直接戦闘は危険なので、クロスボウで遠距離攻撃になるだろうが。
「ちゃんと俺のいう事を聞くように伝えておいてくれ。
こっちの命令に従えないんじゃ話にならないからな」
「分かった。
伝えておく」
少しでも早くそれが伝わるよう願った。
問題を起こされたらそれこそ目もあてられない。
(というか、俺がなんでこんな苦労をせにゃならんのだ)
やるならカナエ達の中でやってもらいたいとは思った。
そんな余裕がないからなのだろうが。
(それならそれで、別の依頼としてやってほしいよ……)
訓練名目で別の場所で行動した方がよっぽど楽である。
それこそモンスターはそこらにいるのだから、この村でやる必要も無い。
色々と都合があったり思惑があったりするのだろうが、なかなかにやるせないものがあった。
そうこうするうちに出発の時間となる。
最近更に増員してきた鋼鉄支隊の者達と共にモンスター退治に向かう。
増えた分だけおびき寄せの場所も増やし、あちこちを回る事になっている。
冒険者だけで八十人を超えるようになったのだから当然であろう。
おかげでこの村の近くでモンスターを見る事はほとんど無くなった。
また、確保された安全圏の中で村の拡大が為されていっている。
住居用地として適切な場所に更地を作り、塀と小屋の建築がはじまっている。
進出決定から二ヶ月、村は、山の中は慌ただしくなっていた。
そんな流れに飲み込まれないよう意識して、可能な限りいつも通りを演じていく。
周りが慌ただしいときにはのんびりと。
手を止めはしないが、無理をしないで作業を進めるように心がける。
余計な失敗を生まないように。
目先の利益のために後々の大きな失敗にならないように。
そんな事を思いながらモンスター退治へと赴いていく。
「そろそろ出発ですよ」
アヤが告げる声に、ヨシフミは頷いて仲間を振り返る。
「よーし、じゃあ行こう」
頷く仲間からの返事を聞いて、一歩を踏み出していった。
今日も冒険者稼業は忙しくなりそうである。
こちらもこれにて一区切りをいれる。
もっと先まで書きたいとは思うけど、さすがに時間がとれない。
新しく始めたものにもう少し没頭したい。
機会があれば、こちらも続きを書きたいとは思うけど。
当分時間がとれそうもない。
新しいのも異世界転生であるので、楽しんでもらえればありがたい。
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