76話 派閥争いなら他をあたってもらいたい
また、理解しにくいのは、村における多数派と少数派云々という考えである。
確かにこの村において鋼鉄支隊は多数派であろう。
多数派は、そのつもりがなくても物事を主導してしまうというのは分かる。
それは仕方が無いものがある。
だが、どうしても有利になってしまう事と、思うがままに動いていく事は違う。
ハルオミがこの村において主導権を握り、思うがままに全てを動かしていくというのだろうか?
あり得ないと思った。
そもそも、そういう発想が出て来るのが信じられなかった。
(無駄すぎるだろ)
そう思うしかない。
たかだか村一つを好きなように出来たとして、それで何が得られるのか。
作物や収穫を好きなように用いる事が出来るかもしれないが、それで得られる利益はどれほどなのか。
おそらくそれ程ではないはずだ。
そんな事するより、モンスターを倒してきた方がはるかに良い。
山奥の裕福でもない村なんぞを手に入れるよりよっぽど稼げる。
利点らしい利点が全く無い。
強いていうなら支配欲を満たせるくらいであろう。
気分が良くなるという理由だけで手間暇をかけるほどハルオミは暇ではないだろう。
収奪するにしても得る物のないこの村を襲ってどうするのか。
多数派と少数派という考えもばかばかしい。
この山奥の村だけをみれば、確かにハルオミ達が大多数だろう。
しかし、この村を含めた領主と比較して見れば圧倒的少数派である。
局地的な部分だけ見ても意味が無い。
何かしらハルオミが馬鹿げた事をしたとしても、それでこの差が埋まるわけではない。
また、小さな村一つをとる事で、領主とその支配地全体を敵に回すのも割に合わない。
ハルオミだけで五十人近くまで膨れあがってる鋼鉄支隊であるが、それだけで領主を敵に回せるわけがない。
また、そうする事が出来るなら、より大きな冒険者の一団がどこかの町や村を支配している事だろう。
そういう事もあるにはあるが、滅多にある事ではない。
既に述べたが、よっぽどの悪徳領主に対抗する為、といった場合でなければ冒険者が動く事もない。
そうであったとしても確実に冒険者が動くわけでもない。
冒険者にとって、倒したモンスターから得られる核を売りさばく場所がなくては困るのである。
その支払いが確実であるならば、別に領主がどれほどふざけた奴であっても構わない。
というより、そんな所に長居する事もない。
冒険者は根無し草で渡り鳥である。
住みにくい所に無理しているより、もっと良い場所を求めて移動する。
何も一カ所にこだわる必要がない。
無理して支配者を倒し、その後も手に入れた支配地を苦労して運営するなどごめんであろう。
レベルを上げ、教養や学問を身につけた者ほどこれらが顕著になる傾向がある。
入り口は様々だが、たいていの場合は支配したりする事による手間と面倒が見えていってしまう。
なので、余計な事をしないで自分の領分で頑張ろうとする。
だからこそ、下手な軍隊よりよっぽど強力な武装集団である巨大な冒険者集団などが謀反や蜂起をしないでいる。
全ての冒険者に尋ねたわけではないが、大半がそういった考えでいるのだろう。
だからこそカナエのいう主導権や多数派・少数派の話がばかばかしく思えてくる。
心配なのは分かるが、問題にするのはそこではない。
主導権やら支配やらよりも優先するべき事がある。
こういった事をヨシフミは可能な限り説明していった。
「────というわけだ」
話を終えた所、ヨシフミは大きなため息を吐いた。
同時に肩から力が抜けていく。
無意識に力が入っていたようだ。
それでもまだ言ってない締めくくりを口にしていく。
「賭けるほど確かじゃないけど、まず間違いなくハルオミさんはそんな事考えてないよ。
それより、村の方の整備を急いでくれ。
受け皿がない方がよっぽど問題だ」
ハルオミに限らず、ヨシフミも気にしてるのはそこである。
「寝泊まりする場所に、食事とか。
あと、日用品に補充品。
そういうのが無いと困る。
そっちの手配を優先してくれ。
そうすりゃ俺達冒険者は勝手にモンスターを倒しにいくから」
実際そんなもんである。
くだらない権力争いごっこなんぞをやってる暇などない。
お山の大将なのかなんなのか知らないが、そんなものを目指して本業を疎かにしてるわけにはいかない。
何せこれで食ってるのである。
稼ぎにならない騒動なんぞに巻き込まれるつもりもないし、自ら作り出す気もなかった。
「はあ……そういうものなのですか?」
今一つ信じがたいという顔でカナエが尋ねてくる。
「俺はそう思うよ。
ハルオミさんも同じじゃないか?
聞いてみないと分からないけど」
「いえ、でも、そんな事が?」
「だから聞いてみないと分からんよ。
でも、俺ならそんな面倒な事しない」
「そういうものでしょうか……」
「色々危惧するのは分かるけどさ。
でも、主導権握って何かするなんて面倒な事してどうすんの」
「でも、そういうものなのじゃないですか?」
「なにが?
貴族の権力闘争とか?
派閥争い?
女同士の修羅場とかみたいなもん?
俺らそんな事してる余裕なんてねえよ。
モンスター相手にしてるんだから、そっちに全力投球だ」
そう言われてカナエも口をつぐむ。
納得したかどうかはともかく、理解はしたかもしれない。
このあたりの考えは貴族ならではだろうか。
いささか考え過ぎではあると思う。
そういう派閥のような考え方をするのもどうかと思った。
というより、それすら超えた、あからさまな敵対関係を前提としてる。
どちらかが生き残るか、というものでしかない。
ヨシフミには無い発想である。
信頼や任せるという考えがないとしか思えない。
自分が上にいないと許せないというか、そんな考えであるように思えた。
(あれ、ってことは……)
そこで思い至る。
もしそうならば、カナエが何をしようとしてるのかを。
(もしかして、自分の派閥とか陣営に引き込もうとしてる?)
そう思えてきた。
兵隊だけでなく、冒険者として使える駒を確保しようとしてるのかと。
そこまで来てうんざりした。
ばかばかしい事このうえない。
結局、派閥争いや権力闘争の延長で物事を考えてるという事になる。
女同士の衝突もこんな調子だと聞く。
つまりは、競争相手というあるいみ共存関係ではなく、完全な敵対者としてみているという事になるだろう。
とすれば、今回の事はどちらが上位かをはっきりさせるための騒動となる。
実際どういう考えでいるのか分からないが、そういう考えで動いてるのではないかと感じてしまった。
自分が一番であり、それ以外は下についていないと気が済まないというような調子の。
もしその通りなら、今までの発言がばからしくなる。
(言い訳か、本音を隠す為の)
本来の目的は別にあるが、それを隠す為にもっともらしい言い訳をする。
よくある事だ。
だったらば、そんなものに乗るつもりは無い。
「とにかく、まずは村の方をどうにかしてくれ。
こっちもモンスター退治に専念したいから」
「ええ、それはもう」
「その上で、兵隊さんの訓練つーか、レベルアップはするから」
「してくれるのですか?」
「その方がこっちも助かる」
何も慈善事業でやるのではない。
「兵隊が強くなれば村の方を任せてられる。
俺らはモンスターを倒して稼ぎにいける」
結局、それが一番の理由である。
「だから、ちょいと頼みたい事がある」
「なんでしょう?」
「出来るだけ人手をこっちに回すから、村の方よろしく」
ヨシフミとしても、なるべく自分が有利になるように話をしていく。
このあたりお互い様と言えるだろう。
向こうが利用しようと思ってるならばなおさらである。
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