72話 なるほど厄介だ、上手くいけば楽に倒せるにしても
「来る!」
短い大きなナギの声が全員の注意を引く。
同時に周囲に目を向けていく。
何が来るのかは分からないが、何かが迫ってるのは間違いない。
「武器を構えろ」
ヨシフミも剣を手にしながら叫ぶ。
とにかく何も持ってないのが一番危険である。
「向こう、注意!」
言われた方向に目を向ける。
立ち並ぶ木と張り出す枝葉しか見えない。
だが、ナギが言うのだから何かあるだろうと思い見つめる。
その中でシイナが一番早く反応する。
「いつもの奴ですかー?」
「うん、猿、多分」
何が近づいてくるのかがようやく分かった。
「前に言ってたやつか。
面倒なモンスターって」
「うん」
「飛び回ってると大変ですねー。
こっちで魔術を使ってもいいですか?」
「やってくれ。
やり方はまかす」
今まで何度も相手をしてきたであろう二人にそう言って言われた方向を見る。
初めての相手なので勝手が分からない。
ならばやり方を知ってるであろう二人にやらせた方が無難だった。
ついでにやり方も聞いて見る。
「俺はどうしたらいい?」
「それは……どうしましょう?」
「落ちたら、倒して」
あまり参考にならない答えだった。
落ちたら、というのは猿を木から落とすという事なのだろうが、それからが分からない。
具体性に欠けている。
なのだが事細かに聞いてる余裕も無さそうだった。
シイナは魔術を使う為に集中をはじめ、ナギも弓を構えている。
迂闊に声をかけて集中を乱すわけにいかなかった。
(出たとこ勝負だな)
遭遇戦だから仕方が無い。
こちらが主導権を握るというわけにはいかないだろう。
その分不利だが、それを承知でやるしかない。
逃げられればそうしたいが、そう簡単にいくか分からない。
あえて立ち向かう事で活路を作るしかないように思えた。
機動力はモンスターの方が上なのだろうから。
予想を裏付けるように相手はすぐにあらわれた。
木々の間を飛びながら接近するそれは、地上十数メートルの高さを伝って来た。
猿、という呼び名の通り木を伝うのが得意のようだ。
だが、姿は猿に似ても似つかない。
遠目なので大きさははっきりしないが、通常の猿より大きいだろう。
そんな大きさの猿などいない。
いっそゴリラか何かの方がよっぽど近い大きさをしてる。
また、頭も猿と言えないものだった。
モンスターがそもそも動物とは似ても似つかないものではあるから当然だ。
それでも強いて似てるものをあげるなら、犬などに近いだろうか。
その耳が、頭の上ではなく人間や猿のように横についてるのが違いと言えるだろうか。
その分頭は大きく、額にあたる部分も広い。
頭が大きく発達したから耳の位置も変わったのかもしれない。
何にせよ通常の動物とは違う。
そんなモンスターが頭上を飛び回っている。
不気味でしかなかった。
その猿が飛び回る空間に霧が発生していく。
シイナの魔術だった。
それが一つ二つと増えていき、周囲の木々を覆っていく。
木の間を飛び回っていた猿も、だんだんと霧を避けるように動いていく。
警戒してるのかもしれない。
それくらいの智慧はあるという事なのだろう。
実際、霧の中に突っ込んでしまったら、周囲の様子が分からなくなる。
飛び移るにしても、方向が分からなければそれも出来ない。
なので霧が増えれば増えるほど移動する場所が限られていく。
その霧も時間と共に消えていくので、継続して発生させなければ効果は薄い。
根気の勝負になっていく。
猿が立ち去るか、シイナの魔術が途切れるか。
そのせめぎ合いになる。
霧がひろがれば猿の動きも狭まっていく。
そうなればナギの弓で攻撃する事も出来る。
だが、猿がこの場から離脱するか、一気に勝負をかけてきたら違ってくる。
なのだが、いまだに木々の上に留まり距離を一定に保っている。
隙をうかがってるのか、別の狙いがあるのか。
妙な緊張が漂ってくる。
だが、霧につつまれた状態で見晴らしも悪く鳴り、ヨシフミ達も攻め手を欠く事となる。
もとより接近戦の出来る距離ではないが、視界が阻まれたために弓での攻撃も出来なくなる。
逆にそれが今一つの道を選ぶきっかけにもなる。
「逃げられるかな?」
頭上を見渡しながらそんな事を口にする。
今なら猿の目にもうつってない。
逃げだそうと思えば行けそうな気がした。
しかしすぐに止められる。
「危ない。
猿、追ってくる。
森の中、無理」
「……森の中じゃ猿から逃げられないって?」
「うん」
言葉少ないナギの言いたい事を補足して逆に尋ねたら、素直に首を縦に振ってくれた。
言われてみれば確かにそうである。
ここで目をくらませてるから猿を押しとどめられてるのである。
動いたらまた振り出しに戻る。
「ここでやるしかないのか……」
でなければ常に頭上を警戒していなければならなくなる。
だったらここで倒すのが一番妥当であろう。
「大丈夫」
ナギが弓を引きながら言う。
「これで終わる」
そう言って矢を放った。
立ちこめる霧の中に飛び込んでいったそれは、続いて苦悶の声を引き出してきた。
「当たったのか?」
「たぶん」
はっきり見てないから断言は出来ないが、おそらくそうなのだろう。
悲鳴を上げた猿が霧から飛び出してくる。
しかし、それは先ほどと違い目的を定めたものではなかった。
あわててその場から飛び退いたのだろう、飛び出した方向に木はない。
かろうじて枝が飛び出してるに過ぎない。
それを器用に掴んだ猿は、そこから木の幹へと向かおうとする。
しかしナギがそこに二本目の矢を放つ。
怪我のせいで動きが緩慢になってた猿に、それは難なく刺さった。
「動き、止まれば、当たる」
三本目をつがえながらナギが言う。
「霧、包まれても、動かない」
まだ枝に掴まったままの猿は、体を貫かれたせいか動きが更に鈍くなっている。
「そこに撃てば、当たる」
ぶら下がってた猿はそれでも幹の方へと向かっていったが、三射目の矢が貫き、ついに動きを止める。
「一発当たれば、鈍る」
動きが、という事なのだろう。
確かにその通りで、猿は一本当たるごとに動きを損なっていった。
今はもう枝にぶら下がってるだけだ。
これならヨシフミにすら当てられそうである。
「霧、立ちこめたら、勝ち」
「だんだん動かなくなりますからねー」
四本目の引きながらの説明にシイナの声がかぶさる。
「あそこから逃げられたら面倒でしたけどー。
こっちを狙ってくれてたようでしたから、逆に助かりましたー」
「なんで?」
「警戒してだんだん動かなくなるんですよねー。
だから、この場にいてくれる方が助かるんです。
外に逃げられたら終わりでしたけどー」
「魔術の射程から外れるってこと?」
「はいー。
そうなったら、なかなか捕まりません」
言われてみればその通りだろう。
魔術の射程から外れた所にいれば、様子を伺う事も出来る。
逆にそうなった方がヨシフミ達は動けなくなっていただろう。
いつ、どこから襲ってくるかわからない猿を警戒しなくてはいけないのだから。
「今回は助かりましたー」
「今回は、ね」
毎回こうではないという事なのだろう。
なかなか厄介な相手だというのが感じられた。
今回、シイナの魔術が上手くはまったから簡単に感じられたが、次はどうなるか分からない。
そもそも魔術がなければ今頃どうなっていたのかという事になる。
厄介な相手という評価は間違っていないようだ。
そう思ってる間に猿はナギからの矢を何本も受け、ついに地上に落ちていく。
駆け寄ったヨシフミは、ふらつく猿に叩きつけるように剣を振る。
それを腕で弾こうとした猿だが、刃は剛毛に覆われた腕を切り裂く。
大して切れ味が良いわけでもない剣だが、この化け物を切り裂くには十分だったようだ。
抵抗らしい抵抗もなく、かなり楽に斬りつけていく。
木の間を飛び跳ねる俊敏さは脅威だが、それ以外は大したものではないようだった。
事前にナギの攻撃があったればこそであろうが。
とどめに頭を剣で砕かれ、モンスターの猿は倒れた。
あとは核を切り取るだけである。
ナイフを取り出し、核を抉ったヨシフミは、猿の体が消え始めたのを見てその場を後にした。
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