69話 買い取る以外に道があれば良かったのだけど
「おかげさまで、こいつを買い取る事が出来ました。
お礼を言います」
「それには及びません」
カナエの口からため息が漏れる。
「もっと良い方法があれば良かったのですが」
「ですね」
言い分は分かる。
奴隷を買い取る事になったのだから、あまり気分は良くないだろう。
出来るなら、そうならない方向で動ければ良かったのだが。
「けど、奴隷商人も商売ですからね。
買い取ったものをおいそれと放出する事もないでしょうし」
「やはりこうするしかなかったんでしょうか?」
「あったかもしれないですね」
方法は思いつかないが、もっとよりよい手段もあったかもしれない。
ハルを奴隷にせずに済ますやり方が。
「けど、金で解放するにしても、結局は同じだったんじゃないですかね。
こいつは自由になったかもしれないですけど、一人で食っていけるわけじゃないし。
村に戻っても、同じような事になるだろうし」
仮に奴隷として受け取らず、そのまま解放したとしても同じ道を辿る可能性はあった。
食うに困って奴隷商人に売ったのだろうし、そうであるならば家に戻った所でよりよい結果が待ってるとは限らない。
むしろ、もっと悲惨な所に再度売り飛ばされる可能性もある。
ならば独り立ちして働こうとしても、十一歳の女の子に出来るような仕事などないだろう。
あと一年二年すれば何かしら見つかるかもしれないが、それまでは乞食になるしかない。
あるいは、そこらから食い物を盗んで生きていくか。
いわゆるストリートチルドレンになるしかないだろう。
これはカナエが引き取ったとしても大して変わらない。
小間使いとして抱えるにしても、その分の負担がかかる。
使えるようになるくらいに教育するのも手間がかかる。
その為に二百銀貨を使う必要があるのか、という問題も出てくる。
貴族と言えども費用を勝手に用いる事は出来ない。
自分の所持金から払うならともかく、カナエが用いる事が出来る範囲でそんな金はない。
いくら貴族と言えども、公金と私有財産の区別はある。
用いる事の出来る資金の大半は、公的に用いる事が求められるものだった。
だからこそ横領や私的流用などが発生しやすい。
そこをしっかり線引きしてる者の方が多いが、それでも欲に負ける者もいる。
カナエはそういった人種ではないし、彼女の親族である領主もそうではない。
だからこそ、金の使い方には一定の制限がついていた。
奴隷商人に買われた女の子がかわいそうだからと、そうそう簡単に金を用立て出来るものではない。
ヨシフミへの貸し付け──それが思いついた唯一の手段だった。
もともとヨシフミがそれだけの金を求めていたというのもある。
そこにカナエが貸し付けという形で資金を供出したのだ。
これならば、どうにか資金を融通する事が出来た。
それでも二百銀貨というのは、冒険者に貸し出せる限界を遙かに超えている。
返済が滞ればカナエの責任問題になる。
裏切る気はないが、ヨシフミの責任は重い物になった。
(絶対に返さないとなあ……)
縁もゆかりもない人間にわざわざそれだけ用立ててくれたのだ。
期待を裏切るわけにはいかなかった。
それに、こういう所で信用を稼がねばならない。
冒険者というのは、なかなか信用されないものである。
だからこそ、確実に売り込んでいかねばならなかった。
『自分は信用出来る存在である』という事を。
借金してる分際で何をという話だが、それを滞る事なく返済するなら、約束を守る人間だという事にもなるかもしれない。
だからここから逃げるわけにはいかなかった。
第一、逃げれば借金を踏み倒した者として追っ手がかかる。
そうなれば信用どころの騒ぎではなくなる。
それだけは絶対に選べない道だった。
(その為にも……)
今まで通りのやり方でやっていくわけにはいかない。
もっと確実に稼げなくては意味が無い。
多少危険でも、それなりの手段でやっていくしかなかった。
(あいつらを引きずり込めればいいんだけど)
まだここで頑張ってる高槻と萩浦。
その二人と、彼等が率いてる冒険者達を引っ張り込めれば勝算はある。
この交渉をしくじるわけにはいかなかった。
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