58話 いきなりの就任、大変ご苦労様です
一週間が過ぎ、カナエの仕事も終わったようだった。
徴税官によれば、納税は適切に行われているとの事。
追加徴税もないし、取りすぎた税金の還付もない。
ただ、冒険者相手に振る舞ってる酒や小料理などの利益には気をつけるようにと注意もされた。
こういった所だと、色々とうっかり帳簿をつけ忘れたり記載漏れが発生したりする。
そこから計算が合わなくなる事もある。
そういった事はどうしても発生するが、出来るだけ気をつけるよう言われた。
買い出しの馬車と共に村を去るカナエ達に、村の者達全員が見送りに出る。
難癖をつけられたり袖の下を要求されたりという事もなく、全てが淡々と終わった。
カナエ自身も気さくな人物で、偉そうな態度をとるという事もなかった。
問題らしい問題もなく全てが終わり、村はいつも通りに戻っていった。
しかしそうそう簡単に物事が終わるわけもなかった。
翌週、町に買い出しに出向いた者は、村長宛の手紙をもらってきたという。
それを読んだ村長は色々と驚いた顔をした。
更に翌週、村長が町に行く者に手紙を渡した。
それを町の役場に持っていき、しっかりと郵送するようにと念を押して。
そして、その次の週。
およそ一ヶ月ぶりに貴族御用達の馬車が村にやってきた。
皆が目を疑った。
この前、納税の調査のためにやってきたのに、また来たのかと驚いてる。
そして、今度はいったい何が目的でと疑問を持つ。
また何か問題でも発生したのかと誰もがいぶかっている。
それに答えたのは村長だった。
「これからこの村に滞在なさるそうだ」
それが来訪した理由だという。
だが、それはそれで疑問がわく。
どうして滞在するのだと。
それにも村長は答えていった。
「この村の今後に関わる事だと仰られている。
まあ、詳しい事はご本人に聞くしかないがな」
分かったような分からないような答えだった。
ただ、本人に聞けというのもごもっともな事だった。
理由を一番よく知ってるのは本人しかいない。
説明がなされるのを村の者達は待つしかなかった。
「皆さん、お久しぶりです」
村人達の前に出て来たカナエはそう言って頭を下げた。
「今日、私がこちらに赴いた事で疑問の出ているかと思います。
その答えになるかどうかは分かりませんが、ここに来た目的については説明をしたいと思います」
それを聞いた村の者達は、続きを聞こうと口をつぐむ。
居合わせた冒険者も同じである。
わざわざ貴族がこんな村に何の用があるのだと疑問を持っている。
「現在、こちらでは冒険者の方々によって、数多くのモンスターが倒されてます。
おかげで村は潤い、危険も低下してきております」
確かにその通りである。
冒険者が二十人近くいるおかげで防衛も稼ぎも増えている。
「ですが、それだけに細かな所で問題も発生していくやもしれません。
問題とは言えませんが、前回は徴税についての疑問が発生しました」
それもその通りである。
人が増えればそれなりに問題も増えていく。
まして地元の人間と他所から来た人間が同じ所にいるのだ。
大なり小なり問題は出て来るだろう。
「それを出来るだけ小さな所で止めるべく、私はやってきました。
出来る事はさしてありませんが、多くの事に対処していきたいと思います」
そう言って頭を下げる。
「実務を共に来た者達が執り行います。
ですが、私にも出来る事があるやもしれません。
何かありましたら、気兼ねなく声をかけてください」
そう言ってカナエは説明を終了した。
村人や冒険者達から拍手が起こっていく。
それからの村は大変な事になっていった。
まず、カナエの住居が必要になる。
それを建てるために大量の建材が求められた。
狭い村の事、適した土地がそうそうあるわけもなく、まずは造成からとなる。
それまでの間は村長宅にて滞在となるが、明らかに手狭であった。
とにかく住む所だけでも、という事で大量の職人や資材が運び込まれる。
もちろん山の中、木々に囲まれてる場所の事、適した木材は現地で調達となっていく。
それが村の者達にも賃金となって渡っていく。
とはいえ、木々が生い茂ってるとはいえ、使えるほどまっすぐな木が多いわけでもない。
モンスターがやってくる前はそういった木を植樹していたようだが、今はそうも言ってられない。
その為、周りに木があるのに木材を麓から持ってこなければならない、という事にもなっていった。
その運搬だけで毎日荷馬車が行き交っていく。
それに伴い、護衛の冒険者も村に出入りする事になる。
村にて一夜を過ごさなければならない者も増え、村の外にテントが並ぶ事になっていった。
意図したわけではないが、村の周りの木々を伐採していたおかげで場所には困らなかった。
しかし、それもすぐに手狭になっていく。
資材置き場に増えた人間の居場所と、どんどん場所をとっていく。
その為、村の者達は更に村の周囲を更地にしていく為に伐採をしていく事となった。
予想外は他にもあり、冒険者の中にはここに居着く者も出てきた。
周りにモンスターが多い事で、逆に稼げると思ったものが定住していく。
その為の住居の確保も必要になっていった。
テントでの生活を何時までも続けるわけにはいかない。
ただ、そういったものをすぐに用意する事が出来るわけもない。
とりあえずは空き家に入ってもらう事にしたが、すぐに手狭になる。
建築職人と違い、作業が終わればすぐ帰るというわけでもない。
冒険者には冒険者のための場所を用意せねばならなくなった。
そんな状況だからどうしてもいざこざも起こる。
特に新しく来た者達は、村にある唯一の小さな酒場で騒動を起こしがちだった。
その度に以前からいる高槻や萩浦が止めに入ったり、カナエが連れてきた兵士が取り押さえたりした。
放り込んでおく牢屋もないので、一日経ったら麓の町におろし、そこの牢屋に入れる事になる。
いずれ落ち着くまでの事であろうが、寂れた村には似つかわしくない騒ぎが多発していった。
かつてヨシフミが懸念した騒動が起こってしまっている。
それを横目にヨシフミは一旦村を後にする。
当初の契約期間の二ヶ月になり、仕事から解放されたからだ。
モンスター退治の方は他の冒険者がいるので抜けても困らない状況である。
だが、村長を始めとした村の者達は立ち去る事を惜しんでくれた。
やはり、一番最初に来てくれたということで思い入れがあるようだ。
高槻や萩浦を招き村に活気をもたらしてくれたというのもある。
他の冒険者に比べて騒ぎを起こさないからというのもあるだろう。
何にせよ、村に変化をもたらすきっかけになったのが大きい。
その言葉に甘えるというわけではないが、ヨシフミはまたこの村にやってくると伝えた。
実際そのつもりだった。
理由もある。
こちらの話もよろしく
「金持ちに転生したので親のすねをかじって冒険に挑戦します」
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「クラガリのムコウ -当世退魔奇譚-」
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