55話 こんなお客さんを連れて帰る事になるなんて
「ああ、ちょっと待ってくれ」
呼び止められたヨシフミ達は、振り返って相手を見た。
他の町民より身なりのよい男が立っていた。
この町を治めてる町長だった。
顔をしってる村の者は驚きながら対応する。
「どうしたんですかいったい。
何かあったので?」
「いや、儂がどうこうという事でなくてな──」
言いながら後ろに立っている者達を紹介する。
「──この方々がお呼びなんだ」
そう言ってその場を退く。
村人の前に更に身なりのよい娘があらわれた。
一目で貴族だと分かるくらいに異彩を放っている。
身につけてる物がそもそも違う。
「はじめまして」
相手は丁寧に会釈した。
「このほど、この先の村に向かう事になった十条カナエと申します」
「はあ」
「聞けばその村から来て、これから帰る所だとか。
恐縮ですが、道案内をかねてご一緒させていただけないでしょうか?」
その言葉に村の者達は驚いた。
十条というのはこのあたりを治めてる領主の名字である。
カナエと名乗った娘は、その縁者であるという。
直接の領主ではないが、一族なのだとか。
今回、村の方に用事があるので領主の名代としてやってきたという。
「あくまでお飾りですけどね」
自らそう言うカナエは、実際の作業を行うという男を紹介した。
だが、村の者達にその話がどこまで通じたか。
わざわざ貴族がやってくるという事で大きく混乱してしまっている。
とりあえず、言われるがままに馬車を走らせて村へと戻っていく。
その後ろを、カナエがのる豪勢な馬車、それから兵士を乗せた幌馬車がついていく。
予想もしてなかった同行者を引き連れる事になり、ヨシフミ達も驚いていた。
(いったい何なんだか)
後ろをついてくる馬車を見ながらヨシフミは首をかしげる。
貴族がわざわざやってくるような事があるのか、と思った。
何もない村であり、行楽の行き先にもなりはしない。
かといって産業らしい産業なんてものもない。
そんな所でいったいどんな用があるのか疑問しか出て来ない。
そのあたりについては全く話に出てこなかったので今も謎のままだ。
(村につくまでお預けか)
どうせ用件はそこで分かるのだろうとは思うが、気になってしまう。
何事もなくとはいかないだろうが、面倒な事にならねば良いが、と思うしかなかった。
そんなヨシフミの隣で、
「貴族様なんて初めてみた」
「すげー綺麗だな、あれ」
と感動の台詞をアヤとサキが口にしている。
ヨシフミの目からすると、無駄に派手な格好をしてるようにしか思えないのだが。
それに、綺麗や豪勢と言ってもあくまでこの世界での話である。
前世に比べればそれほど目立つ格好でもない。
なので、そういった方面への感動は無かった。
(そういうもんなのか)
と思いつつ聞いていた。
それでも、女というのはこういう時に黄色い声をあげるのだと感じる。
これはこの世界でも同じようだった。
道中も穏やかではなかったが、村にたどり着くと騒ぎは更に大きくなっていった。
小さな村に貴族がやってきた衝撃は相当なものだった。
「ありゃまあ……」
「たまげた」
そんな声が起こっていく。
中には手をあわせて拝む者もいた。
よほど貴重な体験なのだろう。
村長はさすがに少し落ち着いているが、強ばってるのが伝わってくる。
「いかが為されました、こんな山奥に」
という声はいつもより固い。
カナエは笑顔で、
「少々用事がありまして。
申し訳ありませんが、お話しをさせてもらいます」
と告げる。
用件については、まずは村長に話してから、という事のようだった。
そんな彼女に頷いて村長は自宅へと入っていく。
その後ろにカナエと、同行してきた男、そして護衛だろう女の兵士が一人。
それらが入っていったあと、他の兵士が村長宅を囲む。
ものものしい事だと思いつつ、ヨシフミは時間が経つのをまった。
いずれ結果は発表されるだろうと思って。
およそ一時間も経つ頃にはそれがなされる事となる。
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