54話 やる事やったからあとは帰るだけ
双六が思った以上にうけたおかげで、酒場でもある食堂はかつてない程の人を集めた。
一夜明けるとその人の流れは隣り合うくらいの近さにある商店へと向かった。
紙とサイコロを買う為に。
すぐさま様々な双六が作られ、あちこちで遊ばれていく。
ヨシフミからすれば単純な遊びでしかないが、この世界においてはそうでもないようだった。
(これなら、他の遊びもいけるのかな)
独楽にメンコに凧揚げなどなど。
遊びとして思いつくものが幾つか浮かんでくる。
似たようなものはこの世界にもあると思うのだが、それらを目にする機会はなかった。
あってもそれ程普及してないのかもしれない。
そういったものであっても、結構楽しんでもらえそうな気がした。
(将棋やチェス、それと囲碁……はきついかな。
でもオセロだったら……。
いや、もうこの世界にあるかもしれないけど)
庶民はともかく、そういった高尚とおもえるものは上流階級にはありそうな気がした。
世間にひろまってないだけで。
もっとも、それらの遊び方を全部知ってるわけではない。
あまり馴染みがなかったので、詳しい事は分からない。
なのでそれらをこの世界に伝える事は出来ない。
(オセロくらいかな)
それがヨシフミの知ってるゲームの限界でもあった。
そんな事を考えてるうちに昼が近づいて来る。
鍛冶屋では武器の調整も終わっており、出向いたらすぐに受け取る事が出来た。
見た目にはさほど違いがあるようには見えないが、本来の性能をいくらか取り戻してる事だろう。
残念ながら、新品の時ほどの能力は無い。
どんな道具でも、摩耗していけば本来の能力は失われる。
それを取り戻す手段はない。
使い込んで目減りした中で最善の状態に戻すのがせいぜいだ。
それでも刃の刃こぼれなどはかなり消えている。
当分は使えそうなので安心する。
これが折れたり曲がったりしたら仕事が出来なくなる。
その場で死ぬ事にもなるだろう。
(予備が欲しいけど……)
さすがにこの鍛冶にそこまで求めるわけにはいかないと思えた。
今回は武器の手入れをお願いしたが、基本的には生活用具を扱うのが専門のようだ。
この辺りだと、鍬や鋤、それとちょっとした金具などを作ってるようだ。
そこから逸脱してるものを頼むわけにはいかない。
手に入れるには商人に頼んで取り寄せてもらったほうが確実に思えた。
契約はあと一ヶ月程度なので、わざわざここで取り寄せる必要があるとは思えない。
しかし、モンスターの出現数を考えると、可能な限り留まりたいとも思う。
それが出来るなら、ここで購入するのは悪い事ではない。
多少なりとも長い期間居座る事になるなら、むしろここでの購入を継続した方が得になるかもしれなかった。
ヨシフミ達はともかくとして、村の者達の購入は結構な量になっていた。
冒険者を相手に酒と小料理を振る舞うようになって金が入るようになった。
その収入が今まで木炭を売っていた時より多い。
結果として、冒険者相手の商売の方に力を入れていく事になる。
伐採と木炭作りは継続されているが、それらも用いられ方が変わってきている。
もともと作った木炭は村でも使っていた。
使い切れない分を町で売っていたのだが、今はその木炭を使って冒険者相手の料理作りに用いられている。
その冒険者相手に必要になる物が多くなっていた。
また、多少潤沢になった資金で、様々な道具も購入している。
それらに工具や補修材料なども見える。
今まで後回しにせざるえなかった建物の補修を行うのだろう。
ようやくそこまで手がとどくようになったようだった。
それを積み込んでるのを見て、何かが改善されてるようで安心する。
同時に、荷物を積み込んだ馬車が山道を進んでいけるのか不安になる。
(途中で押していく事になるんじゃ……)
あながち間違ってもいない予想だった。
だが、それよりも面倒な事が迫っていた。
ヨシフミ達が出発しようかというあたりで、町にちょっとした規模の一群がやってくる。
二台の馬車で登場したそれらは、居合わせた者達の目を引いた。
一台は幌馬車なのでさほど珍しくはない。
かなり大きく、四頭立てなのは一目を引いたが。
ただ、乗り込んでいた者達を見て多くの者はぎょっとする。
いずれも武装した兵隊だった。
数は六人程度なのでさほど多くはないが、物々しさに誰もが驚く。
武装した人間は冒険者などがいるのでさほど珍しくもない。
また、行商人など人の集落を行き交う者達もたいていは武装している。
モンスターがいるために、これらへの警戒をせねばならないからだ。
しかし、そういった者達とは趣が違う。
やってきたのは、家紋をつけた貴族の配下。
正規の武士である。
身分はその中でも低いほうだが、庶民や平民とは立場が違う。
更に目を引いたのが、もう一台の馬車だった。
荷物の運搬用とは違う、しっかりした作りの馬車である。
貴族あたりが移動用に用いるものだ。
(どこのお偉いさんだよ)
僻地の町にやってくるような者が乗ってるとは思わなかった。
上等な馬車に乗れるような身分となると、貴族でも一定以上の階層になる。
小さな町や村を治める程度の地方領主ではまず無理であろう。
どこの誰が何を目的でやってきたのかが気になってしまう。
といってもヨシフミには関係のない事ではある。
多少気にはしても、所詮は関係のない世界の話と思って自分達の馬車の方へと戻っていく。
豪勢な馬車も無視して自分達の荷物の方へと戻っていった。
馬車から出て来た誰かも、出迎えに出て来た町の責任者らしき者に迎えられている。
何があるのかは知らないが、そちらで全てが始まって終わっていくものだと思っていた。
町から出発する直前に引き留められるまでは。
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「金持ちに転生したので親のすねをかじって冒険に挑戦します」
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