53話 ちょっとした遊びで結構な大騒ぎ
やってきた店では、店長を兼ねてる職人が厳つい顔をしていた。
その目は手に持ってるヨシフミの剣に注がれてる。
「まあ、研ぐくらいならどうって事ねえが」
「ないが?」
「他の部分はな。
柄とかそのあたりの修繕までは手が回らねえぞ」
「分かりました」
しょうがないとヨシフミは納得する事にした。
無理を言ってるという思いもある。
「それじゃ、明日までにお願いします」
「おう、昼までには確実に終わらせておくよ」
そう言う職人に武器を預ける。
武器が専門ではないようだが、ちょっとした修繕くらいはどうにかなりそうだった。
そこが職人の職人たる所以であろう。
一緒に来ていたサキも、そんな職人に武器を預け、
「じゃあ、こいつもお願い」
と頭を下げる。
それを職人は無言で受け取った。
今回、町に来る事になったヨシフミが最も興味を持っていた場所、鍛冶屋における頼み事は、これにて終わった。
それなりに手入れはしてるつもりであるが、どうしても専門職ほどの事は出来ない。
素人でも出来る程度の事はしてるが、それでは本来の性能を維持する事も難しくなっていく。
大きな損傷があるわけではなかったが、どこかで鍛冶師に見せて武器の調整をしておきたかった。
幸い麓の町には鍛冶師がいるとは聞いていた。
なのでそこで頼む事が出来ないかと思っていた。
それがかなった事で、少しだけ安心をする。
万全ではないにせよ、多少は切れ味が戻ってくると信じたいものだった。
やっておきたい事が終わると本当にやる事がなくなる。
余った時間で遊びに行こうにも遊ぶものがない。
ゲームセンターも携帯ゲーム機もないし、カラオケなども当然ない。
この世界における遊びは、電気が無くても出来るアナログなものだけしかない。
それか、飲む・打つ・買うになってしまう。
ただ、ヨシフミは飲まない・打たないので、それらのうち二つは最初から論外となる。
残り一つについてはやぶさかではないが、そこまで金をかけるのもばからしいと思っていた。
全くやった事が無いわけではないが、数えるほどしかたしなんだ事がない。
そもそも小さなこの町では、そういった商売があるのかどうかも疑わしい。
あっても行く暇があるかどうか悩ましい。
さすがに他の者達を放置していくわけにもいかない。
(どうすっかな……)
手っ取り早く欲求を解消する、娯楽にひたるなら、やってやれない事は無い。
そうしても良い対象がヨシフミにはいる。
(いや、さすがにそれはなあ……)
アヤを呼びつけて命じればそれで済むが、そこまで要求は出来ない。
しても問題はないが、今後の人間関係を考えると尻込みする。
奴隷は確かに主の好きにしてよいものではあるが、やってしまえば今後に引きずる問題を作る。
そうなってしまっては意味が無い。
奴隷であるアヤはそれでも手元においておけるだろうが、他の者はそうはいかない。
迂闊な事をすれば非難をあびるし、袂を分かつきっかけになる。
それはさすがに得策ではなかった。
戦力として考えると、サキ・シイナ・ナギはかなりのものである。
これらと引き替えにアヤに無理強いするわけにはいかなかった。
それでも手をつけたければ、それにふさわしい何かを持ち合わせてなければならないだろう。
最低でも、やってしまった事への責任をとらねばなるまい。
そこまでして手を出したいか、と考えるとそうでもない。
引き替えにする面倒を考えると、命令や指示は仕事に関わる部分に制限していた方が良い。
公私の区別をつけるという事になる。
奴隷と言えども、そう簡単に好き勝手して良いわけでもないのだ。
(どうすっかな)
暇をもてあます。
何もしないでゆっくりしてるのも大切だが、無為に時間を消費してると思うと幾らか焦る。
こうしてる間に何か出来ないか、何か積み上げていけないかと考える。
ただ日々に追われるだけだった前世よりも今生は充実させていたい。
それがどうしても何もしないでいる事を無駄に思わせる。
確かに無駄ではあるのだが、常に何かしているわけにもいかない。
積み重ねも毎日やっていけるわけではない。
そういった事も分かってはいるのだが、やはりどうにか出来ないかを考えてしまう。
紙とサイコロを買ってきたのは、そんな事が理由でもあった。
B5サイズの紙をノリで貼り合わせて大きくする。
そこにマス目と書き込み線で結んでいく。
出来上がったますに、スタートとゴールを書き込み、途中のマスの幾つかに言葉を書き込む。
「二つ進む」「一回休み」「もう一回サイコロを振れる」など。
何の事はない、双六である。
それを仲間を呼んでやっていく。
意外とこれがあまり知られてないようで、皆は興味津々となっていく。
「何ですか、これ?」
「どうするんだ?」
「はいー?」
「ふむ……」
反応はそれぞれだが、机の上に広げられたそれを見つめている。
そんな彼女らに、実際にやってみながら説明をしていく。
最初は何がどうなってるのかよく分かってなかった一同だが、やっていくうちにやり方をおぼえていく。
一通り一回やり終わり、順位が出る頃にはかなり入れ込んできた。
「次は勝つ!」
「ここを通った方が早いのか」
「でもー、近道は休みもありますしー」
「回り道、それが早いことも」
書き込まれたマスのつくりを見ながら、最善の道を考えていく。
二回目はやり方をおぼえながらだった先ほどよりも円滑に、そして熱く展開していった。
食堂かつ酒場のテーブル席で行っていたそれは、三回四回と続いていった。
それを見ていた客も、興味を引かれて一同が動かす駒を見つめている。
そんな彼等にヨシフミは、
「なんだったらやります?
簡単に作れますし」
と言ってみた。
居合わせた者達は例外なく首を縦に振る。
それを見てヨシフミは再び商店に行き、紙とサイコロを買ってきた。
その後は、双六に興じる者達で店はかなり賑わっていく事になる。
店はこの日、今まで最高の売り上げ……とはいかなかったが、滅多にない程人を集める事となった。
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「金持ちに転生したので親のすねをかじって冒険に挑戦します」
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