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4話 とりあえずこっちにしたのだが、それで終わる事もなかった

(どっちにするかな……)

 あらためて二人の女の子を見る。

 十三歳と十一歳。

 どちらもまだ子供である。

 もちろん、結婚してもおかしくない年齢だし、完全に子供として見るのも正しくはない。

 しかし、大人として扱えるわけではない。



 どちらも購入するには不適切とはいえた。

 少なくとも労働力としては期待が出来ない。

 力仕事に至っては論外であろう。

(けどまあ……)

 それでも選ぶなら十三歳のほうになる。



 実働年数でいけば少なくなるが、即戦力としてはまだこちらの方が使えるはずだった。

 必要な技術や能力を身につけていってもらわねばならないが、それでも更に幼少の子供よりは役立つはずである。

 奴隷でなくても、単純に労働者として考えれば、どうしてもそういう結論になる。

 ただ、それだけで決める事は出来ない。



「なあ、親爺」

「なんだ?」

「少しばかりテストをしてもいいか?」

「かまわんが、商品に傷をつけたりするなよ」

「しないって、それは」

 さすがにそんな鬼畜な事は出来ない。

 ヨシフミが確かめたいのは、もっと単純な事だった。



「さてと」

 あらためて二人に向き直る。

「聞いておくけど、二人とも字は書けるか?」

 その質問に、二人の少女は少しばかり驚いたようだった。

 なんでそんな事を聞くのか……と表情が心情をあらわしてる。

 ヨシフミからすれば、これくらいも出来ないと困るのだが、二人には意図が分からないようだった。

 もちろん二人の理解や納得などどうでも良い。



「書けるなら、これから俺の言う事を書いてみてくれ」

 そういって、それなりの大きさの板の端切れと、木炭を渡す。

 字を書く道具としてはあまり適切ではないが、能力を推し量るだけなら丁度よい。

 それを手にした二人に向けて、ヨシフミは口を開いていく。

「今日は良い天気だ────さあ、書いて」

 それを聞いて二人は首をかしげながらも板きれに木炭をはしらせていく。



『きょう は よい てんき だ』

『きょう は 良い天きだ』

 やはり、十一歳よりは十三歳の方がしっかりと書ける。

 この世界、最低限の読み書きや計算方法などを教育している。

 そのおかげで、統治者からの布告や、民衆間での連絡などに障害が発生する事はほとんどない。

 しかし、習熟度においてはやはり差がある。

 ヨシフミが知りたいのはそこだった。



「それじゃあ次は……」

 それから何度か言葉を書かせていく。

 その都度二人は板きれに文字を書いていく。

 数回ほど繰り返したところで、ヨシフミはそれを止めた。

 文字の書き取りについてはおおまかな能力差が分かったからだ。



 それから、ヨシフミが書いたものを読ませていく。

 書くことが出来るのだから読むこともそれほど問題はない。

 だが、難しい部分にかかるとさすがに両者で差が出てくる。

 同じような要領で計算もさせていく。

 ここでもやはり十三歳の方が上手く出来ている。

 その結果がヨシフミの考えをまとめていく。



「決めたよ」

「そうか」

「こっちを買う」

 指したのは十三歳の方だった。

「分かった。

 じゃあ、手続きをしよう」

 たいして感動もなく親爺はそう言う。

 人を売り買いするというのに何の感慨もないようだった。

 そうでなければ人を商いの品にする事は出来ないのだろう。

 ヨシフミとしても、感情が全く動かなかった。



 転生前の記憶もあり、人を売り買いする事に釈然としないものはある。

 しかし、現状での生活を考えればそんな事を省みてる余裕もない。

 他にもっと良い手段があるにしても、今のところ思いつくのがこれしかないのだからどうしようもない。

 買い取る娘にしても、残った少女にしてもかわいそうという気持ちはあっても、これも世の定めと割り切る事が出来た。

 情けは大事だが、情けだけでは世の中を渡っていけない。

 それよりも、買い取った後の事で頭がいっぱいだった。



 何せこれからの衣食住はヨシフミが用意しなければならない。

 仕事を手伝わせる事で手間は減ると思いたいが、それでも二人分の稼ぎを出せるかどうか。

 何とかなる見通しはあるのだが、こればかりはやってみないと分からない。

(上手くいくといいけど)

 つとめて明るい未来を描こうと思うが、さすがにそうはいかなかった。

 奴隷商人の親爺に至っては全くの無関心、少なくともそう感じられる態度である。

 そんな二人に、後ろから声がかかった。



「待って……」

 大きい、とは言えない。

 しかしはっきりとした声が二人を振り向かせる。

 今しがた購入が決定した十三歳の娘の方である。

 それが必死な顔で二人に訴えてくる。



「お願い、どうせなら私たち二人を買って」

 意外な意思表示に、そして予想外の提案にヨシフミは驚いた。

 まさか買われる方からこんな事を言われるとは思ってもいなかった。

 ただ、奴隷商人の方はそれほどでもない。

 やれやれ……といった風情でヨシフミに語りかける。



「まあ、たまにこういう事もある。

 親子だとか兄弟だとか、同じ所の出身同士だとな」

「そうなのか?」

「ああ。

 やっぱり離れがたいんだろうな。

 それに、見知らぬ人間だけだと心細いだろうし。

 それよりも顔見知りが一人でもいれば、ってもんだろうよ」

「だから、一緒に買い取ってくれ……ってなるのか」

「そうだ。

 まあ、金があるやつは本当にまとめて買っていく事もあるが。

 お前じゃ無理だろ」

「まあな」

 懐具合を考えれば、とても二人なんて無理である。

 多少の余力はあっても、その余力でもう一人を買うなんて不可能だ。

 だが、そんな事が分かるはずもない娘は請願を続ける。



「お願い、一緒に買ってよ。

 わたし、何でもするから」

「そうは言ってもなあ……」

 出来るならそうしたい。

 人手が増えれば助かる。

 出来れば気持ちよく仕事もしてもらいたい。

 だが、財政事情という厳然たる事実がそれを許しはしない。



「俺にはそこまでの金がないんだ。

 悪いけど、諦めろ」

「お願いよ!」

 聞き分けのない子供が駄々をこねてるようだった。

 しかし、出来ないものは出来ない。

「どうにかなる?」

 無理は承知で尋ねてみる。

 奴隷商人は首を横に振る。



「無理だな」

 当然の答えだ。

 ヨシフミもそこは分かる。

 だが、さすがにここで情にほだされた。

 自分が陥りたくなった境遇になってしまってる二人への同情なのかもしれない。

「どうしても?」

「俺も商売だ。

 金にならない事はしない。

 そっちの売れ残りも、別の買い手がつけば売る」

 商売人としては当然だろう。

 ヨシフミも、さすがにこれ以上の無理強いは出来ないと思った。

 だが、ふと前世の記憶が少しだけ浮かび上がる。

 借金、ローンといったものが。



「なら、それならさ」

 思いつきである。

 だが、言うだけ言ってみようと思った。


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