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3話 奴隷の存在意義と価値

 奴隷。

 人間でありながら人間扱いされない存在。

 主人に生殺与奪の権限をとられ、命令に服従する事を求められるもの。

 一般的にいって、奴隷はそういったものであると考えられている。

 それほど間違ってるわけではない。

 ただ、思ってるほど奴隷を好き勝手に出来るわけでもない。



 労働力としてまともに用いるつもりなら、それなりの扱い方を心得ねばならない。

 これが牛馬のような家畜であっても同じだが、働かせ続ければ疲れる。

 そして、疲れてしまえばそれ以上動く事は出来なくなる。

 それでも無理をすれば、やがて過労によって死にいたる。

 長持ちさせたければ、休息などを適度にとらせなければならなくなる。



 また、当然ながら衣食住を用意しなければならない。

 このあたりは所有者の責任になる。

 また、仕事をさせるにはそれなりの技術をおぼえさせねばならない。

 その為の教育や訓練も所有者の負担となる。



 何より、相手は人間である。

 喜怒哀楽があるし、考える智慧もある。

 不当な扱いには気分を害するし、そうなれば効率は否応なしに落ちる。

 動物でもこれは同じであるが、人間であるならなおのこと考えねばならない事になる。

 結局のところ、不当に扱えばその分だけ作業効率を落とす事になる。

 多大な金を支払って手に入れるにしては割のあわない事になる。



 もちろん奴隷が奴隷たる所以は、主人への服従である。

 それを強いるために、魔術を用いた強制を施される。

 これにより主人の命令に逆らう事が出来なくなる。

 ただ、これも基本的には効果期間が定められている。



 通例で、五年ほどで効果が切れる。

 人が奴隷でいる期間をその程度で区切っている。

 特に誰が決めたというわけではないが、なんとなく慣例や通例からそうなっていた。

 それに、この強制も死に関わるような命令は出来ない。

 さすがにそこまでの強制は出来ないように施されていた。

 命令の重ね方によって死に至らしめる事も出来なくはないが、直接的な死を命じる事は出来ない。



 とはいえ、非道な行いを全て拒否できるわけでもない。

 見目麗しい女子が奴隷となれば、その体を蹂躙される事など珍しくもない。

 逞しい肉体を持っていたり、軍事的な経験やモンスターとの戦闘をした事のある者が、闘技場の殺し合いに用いられる事もある。

 限界ギリギリの労働を強いられて朽ち果てていく場合もある。



 支払った金額に見合うだけの働きをさせる、という事で多くの所有者の考えは一致してる。

 しかし、そもそもの財力や奴隷を用いる目的によって、それは様々な差が出ていた。

 過酷な使い方をしても、見返りが支払った金額をはるかに上回るなら弊履のごとく投げ捨てられる。

 それが奴隷であった。



 悲惨な用いられ方をするのはごく一部であるにしても。

 それでも奴隷の実体は、どちらかと言えば長期契約の労働者と言っても良いものではある。

 もちろんこの労働には『過酷な』という言葉が付く事が当たり前ではあった。



 ヨシフミが求めてるのはそこまでの事ではない。

 自分の作業の手伝いをしてくれれば、という事である。

 使い捨ての道具ではなく、長期雇用の労働者としてといったものだった。

 モンスター退治に一緒に出かけてくれて、作業の手伝いをしてくれれば良い。

 なおかつ裏切らない、少なくとも自発的に逆らったりしない。

 そんな存在が欲しかった。

 危険な場所に赴く事になるので、そう簡単に頼めるような事ではない。 

 だからこそ、大金を支払ってでも奴隷を買おうと思った。



 しかし、である。



「まさか女の子とは……」

 男女差別ではない。

 危険な場所にいくのだから、体力のある男の方が良かっただけである。

 どうしたって男女による体力差がある。

 女冒険者もいないではないが、やはり基本は男の仕事である。

 それなのに、目の前にいるのは両方とも女の子。

 さすがに考えるものがあった。



「だがな、お前の出せる金だとこれが精一杯だぞ」

「マジかよ……」

 信じられなかった。

 彼が呈示したのは銀貨で二百枚。

 この十年でどうにかやりくりして貯めた金である。

 さすがに全財産とはいわないが、かなりの多くが消えていく事になる。

 ちなみに、銀貨二百枚で人間一人が一年間慎ましく暮らす事が出来る。

 それだけの金で買えるのが女の子一人だという事実に愕然とする。



「ちなみに、これくらいの年頃の男だと幾らになるんで?」

「まあ、三百から四百だな。

 もちろん、銀貨でだ」

「そんなにかかるのかよ」

「買い手が多いからな。

 もっとも、その年頃の女も売れるけどな」

「スケベな親父とかがか?」

「まあ、そうういうのもあるな」

 否定はされなかった。



「けど、女給とかメイドとかで使われる事もある。

 そのあたりは人それぞれだな」

「なるほど」

 割と納得出来る話だった。

 確かに女ならばそういう仕事の方が向いているかもしれない。

 逃げ出したりしないで働き続けるというなら、下手に雇用するより奴隷の方が安上がりなのかもしれない。

 だが、ヨシフミの求めてるのはそういう事ではない。



「これでモンスターの所に行けるのかよ」

「それはお前が考える事だ」

 奴隷商人の親爺はにべもない。

 実際、彼にはヨシフミの苦悩などどうでも良い事である。

 大事なのは商品が売れるかどうかなのだから。



「で、どうするんだ。

 買わないなら他の者に紹介するだけだ」

「それもなあ……」

 今、彼が手に入れられるのはこれが限界だと言われてる。

 おそらくその通りなのだろう。

 実際には他に商品があるかもしれないが、それらはより有力な買い手にまわしたほうが得である。

 それに、ここで買うのを見送ったとして、次によりよい掘り出し物が出て来るとは限らない。

 迷ってる権利など無かった。



「わかった、買うよ」

「まいど」

 とりあえずこれにて購入は決定した。

「それで、どっちを買うんだ?」

「あ……」

 まだそこまで頭が回ってなかった。

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