26話 それが終わって新たな流れが出てくる
事が終わった後はひとしきり感激した。
悪名高い連中を倒した事と、彼等に捕らわれていた者達の解放。
それらが参加した冒険者達を盛り上げていく。
救われた者達は絶叫し、泣き出し、震えて歓喜をしていった。
そんな彼等に周りの冒険者が次々に言葉をかけていく。
おめでとう、大変だったな、もう大丈夫だ…………。
その一つ一つが、赤布旅団にいた者達を救っていく。
もう全てが終わったのだという実感していきながら。
そんな者達を見ながら、ヨシフミは倒れた赤布旅団の中心人物達を見下ろしていく。
大勢の冒険者に囲まれた彼等の最後は悲惨なものだった。
矢だけでなく、剣を体に突き刺され、見るも無惨といった有様だった。
日頃の態度がこういった形になって返ってきたのだろう。
自業自得である。
何の同情も出来なかった。
哀れみも抱かなかった。
それよりも、同業者の面汚しが消えて清々していた。
また、勢力が拡大する前に潰れてくれて良かったとも思ってる。
脅威になるほど大きくなれるかどうかは分からなかったが。
好んで彼等を助けようとする者はいないだろうし、すすんで仲間になろうという者はもっと少ない。
それだけに、十五人という人数にまで膨れあがったのが奇跡と言える。
だが、万が一の可能性もある。
出来るなら潰れて欲しかった。
存在が目障りだったのも確かである。
何かの機会に接触して面倒になる可能性もあった。
とても小さな確率であっただろうが、それでも意識する事はある。
そういった面倒な事から解放された。
それがありがたかった。
町に戻った一行は、そのまま周旋屋の食堂に移動して祝賀会をひらいていった。
いつも通りにメシを食べ、いつもより多めに酒を消費する。
盛り上がった気分が周りにいる者達との会話を弾ませていく。
そこかしこで乾杯が行われていく。
普段なかなか話しをしない他の一団との会話も進んでいく。
何はともあれ、今回の一件が一つのきっかけにはなったようだ。
すぐに仲良くなっていくというわけでもないだろうが、今後の関係になんらかの変化が出て来るかもしれない。
今はただ、成し遂げた事を喜んでいるだけであるが。
そういった流れの中で、幾つか決まっていく事がある。
まず、救出した赤布旅団の者達である。
彼等はそのまま鋼鉄支隊に入る事となった。
これにより鋼鉄支隊は一気に三十人近くまで人数を増やす事となる。
とはいえ、これはさして驚くような事でもない。
解放された者達の今後を考えればそれが妥当であった。
大半がレベル1になるかどうかというレベルの者達ばかりである。
そんな者が何もない所に放り出されても上手くやっていけるものでもない。
また、他の冒険者達もそのレベルの者達を引き受ける余裕は無い。
鋼鉄支隊もそれは同じだろうが、それでもまだ余力はある。
大手だけに教育の仕方も心得てるので安心出来る。
だが、それだけでは終わらない。
今回、一番に赤布旅団への制裁に賛同した二人。
高槻と萩浦であるが、今後鋼鉄支隊に加わる事となる。
彼等だけではなく、彼等が率いていた冒険者達ともどもだ。
これはヨシフミが考えていた事で、鋼鉄支隊を引き込む為の材料としていたものである。
赤布旅団を倒すにあたり、鋼鉄支隊の分かりやすい利益として何が用意出来るか。
そう考えた時に、まず赤布旅団にいた者達の吸収が考えられた。
これで人数は膨れあがる。
だが、それだけでは鋼鉄支隊にとってもそれほど旨みがない。
確かに人数が増えればその分戦力も増大する。
しかし、レベルが低い者が一気にそれだけ増えたら混乱する。
成長させていくにしても時間がかかるし、その間まともに活動が出来なくなる。
それを避けるために、新人の加入については人数に気をつけながら行われているくらいだ。
そこで、高槻と萩浦達である。
彼等は五人程度で活動している者達であるが、レベル4に到達してる者もいるくらいに経験を積んでいる。
それだけの質を持った者達が合わせて十人加わればどうなるか。
それらを統率する手間は確かに増えるが、戦力の減少はさほどでもない。
これならば、低レベルの者達を加えてもそれほど心配する必要がない。
人手が増える事で引き受けられる仕事の幅も拡がる。
負担の増大を考えても決して悪い話というわけではない。
これを条件にヨシフミは鋼鉄支隊との交渉にのぞんだ。
高槻と萩浦の二人に確認しておいてもらいたかった、仲間への意思確認はこれだった。
今の独立を捨てて鋼鉄支隊に加わる気はあるのか、という事を。
結果は賛成だった。
独立してやっていくというのは結構大変なものだ。
手に入る利益よりも負担の方が大きい場合もある。
まして小規模な集団であれば、どうしてもやれる事に限界が出来てしまう。
レベルはそれなりに上がってはいるが、先々の事を考えると不安も出てくる。
そういった限界を彼等なりに感じていたらしく、鋼鉄支隊に入る事への反発はほとんど無かったという。
むしろ、ここで大手に入れるならその方がありがたい、という者すらいたとか。
決して仲間や自分達の集団が気に入らないというわけではない。
ただ、先々への不安を考えると、何らかの措置が必要だと思っていたのだろう。
そこに今回の提案が来た。
渡りに船だったに違いない。
そんなわけで、鋼鉄支隊への加入はすんなりと決まった。
これで鋼鉄支隊は四十人ほどの集団になる。
それがもたらす影響力は以前とは比べ者にならないほど増大していた。
規模の大きな仕事は鋼鉄支隊が引き受ける事になる。
そうでないものも、鋼鉄支隊の方が優先的に引き受けていく。
少なくとも周旋屋も話しを持っていきやすい。
人数が多いから、小規模な仕事でも鋼鉄支隊の中で割り振りが出来るからだ。
もちろん鋼鉄支隊だけで全てを引き受ける事など出来ない。
鋼鉄では手が回らない部分は他の冒険者達に流れていく。
当然ながら仕事の難しさは下がり、報酬も下がる。
だが、もとより鋼鉄支隊ほどレベルの高い者達はいないので問題にはならなかった。
むしろはっきりと棲み分けが出来た事で、これはこれで上手く回るようになっている。
鋼鉄支隊としても、あまりにも小規模で報酬の低いものを選ばなくて済むので助かっている。
むしろそういう仕事が回ってきたら他の冒険者に回すほどだった。
彼等の所帯を考えると、それなりの報酬でないと割にあわない。
おこぼれのようなものであるが、そうやって仕事を回す事で他の冒険者との軋轢を回避出来ていた。
そんな中で鋼鉄支隊との連携を強化する冒険者も出てくる。
そういう者達はとりあえず協賛集団として鋼鉄支隊と連携していく事になった。
鋼鉄支隊に入りたいという所も当然ながら出てくるが、さすがにそれらを引き受ける事は出来なかった。
先に加わった高槻と萩浦達との調整がある。
それらが落ち着くまで新規の加入は難しい。
だが、いずれ何組かの冒険者を加える事になると言われていた。
そうなれば五十人を超える一団となる。
この町の冒険者の過半数を占める事になる。
こうなると完全に独占状態と言って良い。
狭い範囲であるが、業界の人間を半分以上擁し、仕事を優先的に受注出来る。
他の冒険者達はそれらの影響力を逃れられない。
殊更対立する事もないだろうが、反発していく事は得策ではない。
同じような大手であっても、そんな所に参入するのは難しい。
それなりに幅をきかすなら、同程度の人数を投入しなくてはならないからだ。
それが割に合うかどうかと言うと微妙なものである。
町の規模からして、舞い込んでくる仕事の量や質はおのずと限界がある。
奪うほどの価値がそこにあるかどうかは悩ましい。
熾烈な競争をしてまで参入しても、得るものは少ないだろう。
鋼鉄支隊にとって、何よりこの町にいる彼等を仕切る建部ハルオミにとってこれほど有り難い事は無い。
これがヨシフミが呈示出来た最大の利益であった。
そのまま赤布旅団が巨大化した場合におこるであろう事。
それがそのまま鋼鉄支隊のものとなる。
彼等を引きずり込むにあたり、示す事が出来る利益はこれだった。
21:00に続きを公開予定




