23話 策というほど大したものではないが、やるだけやってみる
(相変わらずだな)
目の前の建部ハルオミを見て思う。
レベル10の技術を持つ戦士であるが、一見してそうは思えない。
標準よりは背丈も肩幅も広い方かもしれないが、筋骨隆々という感じではない。
しかし、発する威圧感は半端ではなく、近くにいるだけで存在感に圧倒されそうになる。
性格は粗暴というわけでもなく、粗雑な感じもないのだが、何となく尻込みしてしまう。
仕事で何度か助っ人に入った時に接した事があるが、どうにも慣れる事が無い。
同じくらいのレベルになれば自分もこうなるのだろうか、と思ってしまう。
(無理だろうな……)
単純な技術とかそういったものの差ではないように思える。
それ以外の人生経験や持ってうまれた素養の部分で差がある気がした。
そんな人間を相手に対談をしようというのだから、ヨシフミも相当なものであろうが。
(早く終わらせてえ……)
本音を胸の中にしまいこむ。
とにかく今は目の前の男を上手く引っ張りこむしかない。
果たして出来るのか、という疑問が際限なくわいてきた。
「それで、何をしろと?
何をくれると?」
「して欲しい事は一つ。
赤布旅団を潰すので、協力を」
「……なかなか面白い冗談だな」
「本気です」
ヨシフミは言い切った。
「このまま放置できません。
だから、潰します」
「出来るのか」
「出来ます」
断言した。
「おまえ一人で?」
「鋼鉄の協力があれば」
「それは協力じゃないだろ。
俺らだけでやる事になる」
「そうですね」
「……違うと言わないのか」
「嘘を言っても仕方ないですから」
実際その通りである。
嘘を吐いても始まらない。
事実ははっきりと伝えねばならない。
「それじゃ、俺らが損をするじゃないか。
衝突すれば怪我はする。
負けはしないだろうがな」
実際、赤布と鋼鉄がぶつかればそうなるだろう。
レベルでは鋼鉄の方が上だが、赤布も人数はいる。
十五人を相手にするとなれば、怪我人の一人や二人は出る。
その治療費がもったいない。
魔術を用いて治療する事も出来るが、特に利益のない衝突で魔術師に負担をかけるのもばからしい。
だが、ヨシフミはそれを否定する。
「なりません」
「衝突にはならないでしょう。
相手が相当な馬鹿ならともかく」
その言葉にハルオミは「ほう」と軽く驚く。
視線が鋭くなり、ヨシフミの目を見つめる。
言葉の真意を問うように。
それを真っ向から受け止め、ヨシフミは言葉を続ける。
「赤布から離脱したがってる奴がいます。
今、そいつが中に入って仲間を説得してます。
ほぼ十中八九賛成するでしょう。
わざわざ赤布にいたいなんて酔狂はいませんから」
「そりゃそうだろうな」
「そこで鋼鉄が出てくれば、彼等はすぐに離脱します。
残るのは中心になってる五人くらい。
それで数の差は一気にひろがります」
「そうなればな」
ハルオミは慎重だった。
「だが、確実にそうなる可能性は?
そうならなかった場合はどうする」
「やるしかないですね」
そうなったらどうしようもない。
正面からぶつかるしかなかった。
「だが、そうなったら俺達だって奴らを全員つぶせるわけじゃないぞ。
そうなったら後が面倒だ」
勝ったとしても後始末をどうするかという事である。
逃げた連中が恨んで襲いかかってくる事を懸念してるのだろう。
その可能性は十分にある。
だからこそ、しっかりと根絶しておきたいという事だった。
何にしても、負けると思ってないのは確かである。
ハルオミが気にしてるのは、勝ち負けのどちらに転ぶかではない。
どうやって確実に勝つか、という一点である。
その確証がなければ下手に動けないし動かないつもりなのだろう。
「それなら……」
とヨシフミは提案を一つ出す。
高槻と萩浦の一団の事を。
「なるほどな」
話しを聞いてハルオミも多少は納得する。
「それなら、手勢に心配は無いな」
「もっと増える可能性もありますよ。
鋼鉄が動いたとなれば、尻込みしてた連中も動くでしょうし」
「だったら良いがな。
確実でない事は期待できんよ」
その慎重さにヨシフミは好感を抱いた。
「確かにそうですね。
でも、そう思う奴らは出てきますよ。
鋼鉄さんが承諾してみたら、もう一度声をかけてみるんで」
「ま、期待しないで待ってるよ」
「なるべく努力します」
今はそう言うしかなかった。
「けど、それはそれとしてだ」
ハルオミはそこで話しを一旦区切る。
そして、あらためてヨシフミを見つめる。
「わざわざ手間をかけて俺達が得るものは何だ?
そりゃ奴らの噂は聞いてる。
放っておきたいとは思わん。
だけど、俺達だって無料奉仕なんかする気は無いぞ」
「そうですね……」
ヨシフミも背筋をただす。
相手がもっとも気になってるであろう事はそれだろう。
やる事でどんな利益があるのか。
その一点についてが問題であろう。
「まあ、正直これが利益と言えるかどうか分からないですけど」
そう言ってヨシフミは考えていた事を呈示していく。
「まずはやらなかった場合の損失について」
前置きとしてそこから語っていく。
「まず、赤布を放置してたら、連中に吸収される所も出てきます。
そうなると、この町での奴らの勢力は最大になります」
現状で十五人。
そこに五人加わる事で鋼鉄支隊と並ぶ。
更に五人が加われば、上回る事になる。
あくまでこの町での話しだが、迂闊に手を出せなくなるのは確かだ。
「まあ、強引に傘下におさめる事になるでしょうから、不満は続出するでしょうけど。
それでも、数は増えます。
そうなったら他の者達も赤布に同調していくしかないでしょう。
直接傘下に入らなくても、逆らったりはしなくなる。
消極的にであっても協力するようになりますよ、きっと」
嫌々従うだけであろうが、それでも言いつけ通りに動く手駒は増える。
それだけで十分脅威になる。
「そうなったら鋼鉄さんも無視は出来なくなるかと。
もちろん、他の町から応援がくればすぐに逆転するでしょうけど。
でも、わざわざこんな小さな町のどうでもいい集団相手に、そこまで大げさな事をするでしょうか?」
「…………しないな。
そんな事をするくらいなら、他の町や村に移動した方が早い」
「ですよね。
でも、そうなったらこの町での仕事は受けられなくなるでしょう」
「まあ、そうだな」
「拠点を一つ失う事になるでしょうが、それは気にしないでいられるほど小さな事ですか?」
「…………」
さすがにハルオミも無言になる。
「そうなる前に、今のうちに潰しておく方が良いかと。
今でも面倒な連中なんです。
これから更に大きくなったら、手間がかかるなんてもんじゃないですよ」
それはヨシフミの懸念でもある。
確かに冒険者としてやっていくなら、この町にこだわる必要はない。
ハルオミの言うように、別の町や村に行けば良いのだ。
だが、利用できる町が減るのは損失に違いない。
もしこの町における冒険者への依頼を、赤布が独占的に受注するようになったらどうなるか。
鋼鉄が失う利益は大きくなる。
収入の全てが周旋屋などからの依頼でないにしても、稼ぎの口は可能な限り大きくしておきたいものだ。
まして大所帯になればなるほど、確実な支払い先は大事になる。
大手であるからこそ、それは無視する事は出来ない。
「なるほど、分かった」
ヨシフミの言葉にハルオミは頷く。
「確かにそれは無視出来ないな。
そうなったらだが」
「ええ、そうなったらです。
ならない可能性もある。
何せあいつらですからね。
そんな風にでかくなるとは限らない」
「そうだな」
「でも、連中はあくどいですから。
あくどい連中はどんな手でも使ってきますよ。
いずれ、今言ったような事になるかもしれません」
「まあな」
それはハルオミも危惧しているようだった。
「だが、それはあくまで損害だ。
俺らが得る利益じゃない」
「確かにそうですね」
それはヨシフミにも分かっている。
「いったい何がある。
連中を放置出来ないっては分かったが」
「ええ、それを潰した場合の利益ですが。
それについてはもう説明してあります」
「なに?」
驚くハルオミに、ヨシフミは説明をしていく。
ここからが正念場だった。




