16話 モンスター退治の実際はさして劇的でも何でもない
「おー、起きたかー」
間延びした声で木からおりてきたアヤに声をかける。
幾分眠そうな顔をしながら、「おはよう」と返してくる。
「眠れたか?」
「全然、無理」
「そうだろうな」
予想通りの答えだった。
「木の上なんて、寝床として最悪だからな」
「本当に、最悪だった……」
よほどお気に召さなかったのだろう。
「どうにかならないの?」
「こればかりはな。
もっと人数が増えて、交代で見張りが出来るようになればいいんだけど」
今の所は現実味のない理想である。
仲間としてやっていける者と巡り会えるかどうかすらあやしい。
「それより、メシにしよう。
急がないと日が暮れる」
「はーい」
まだ眠気もさめやらぬ調子ながら、食事の支度を初めていく。
一度おりてきた木を再びのぼり、木の間にかけた網に置いてる食料を取る。
その間にヨシフミは、火種に被せておいた土をほりかえしていく。
炭となった薪を寄せてその上に火種を置いていく。
ナイフで細かく切り刻んだ木片が出来上がり、その上に集めておいた小枝を置いていく。
着火用具を使って火を点け、徐々に太い薪をくべていく。
アヤはその間に干し肉などを適度に切っていた。
もう少しすれば、適度に切った肉を火であぶる事になる。
そうしたら乾パンをあわせた朝食になる。
簡素すぎる食事だが、屋外ではこうするより仕方が無い。
それでも空腹を満たす事は出来る。
それだけで十分であった。
「それじゃ、今日から本格的にやっていこうか」
そう言ってヨシフミは、武装をしていく。
同じように武装しながら、アヤは緊張を高めていく。
いよいよモンスターとの戦闘になると思うと、どうしても体が強ばっていく。
用意してもらった革の上着や籠手などを身につけようとするが、なかなか上手くいかない。
町で身につけた時より少し時間がかかってしまう。
ようやく全てを装着した時には、ヨシフミの準備が完全にととのっっていた。
装備品はさほど違いはないはずだが、やはり手慣れているのだろう。
「じゃあ、行こうか」
弦を張ったクロスボウをアヤに渡してヨシフミは進んでいく。
その後をアヤはクロスボウを抱えてついていった。
基本的に森の中であるが木々が密集してるという程では無い。
割と開けてるというか、人が歩くのに邪魔になるほど生い茂ってはいない。
木々の間はだいたい三メートルは離れている。
草も生えてはいるが、足をとるほどでもない。
そんな中を進んでいきながら、ヨシフミは最初の仕掛け場所に到着する。
「こいつを仕掛けるから、周りを見ていてくれ」
そう言ってヨシフミは昨日しかけておいたロープに肉をつり下げていく。
木の間に渡されたロープの中央からたれてる紐にそれを結び点ける。
そらからロープを渡した木の一方に歩いていき、その端を引っ張る。
紐に結い点けられた肉の塊は、高さ二メートル余りの所までつり上げられた。
「なんなんですか、これ?」
アヤが疑問を口にする。
「ま、それは後でな。
時間がないから次にいくぞ」
そう言ってヨシフミは歩き出す。
仕方なくアヤもその後ろについていった。
(うーん)
それでもやはり考えてしまう。
こんな事をしてどうするつもりなのだろうと。
同じような事を離れた所で数カ所ほどやっていく。
いずれも二メートル以上の高さに肉をつり上げ、そのまま放置していく。
五カ所ほどで肉をつり下げたところで、一旦野営地に戻る。
その間説明をされてなかったアヤは、ここで再び尋ねた。
「あれって何なの?」
「おびき寄せるための罠だ」
木の上にのぼって荷物から別の道具を取り出しながら、ヨシフミは答えていく。
「ああやって吊しておくと、鼻のきくモンスターが近寄ってくる。
で、餌に気を取られてる間に、後ろから攻撃するって寸法だ」
「はあ……」
「単純だけど、これが結構上手くいくもんでね。
わざわざ探して回る必要もないし、少人数でも意外と上手くいく」
そう言いながら、道具を抱えて下におりてきた。
「あとはこいつを使えば、もっと効果的にやれる」
抱えたものをアヤに見せてそう付け加えた。
「これは?」
「警戒用の道具だ。
引っかかってくれると、派手に音が鳴る」
「それが、役に立つの?」
「ああ、すごく便利だ」
言いながら再び歩き出す。
「じゃあ、行くぞ。
ただ、今度はさっきより注意しておけ」
「……?」
「もうモンスターが出てきてるかもしれないからな」
言われてアヤは、ようやく思い至った。
既に餌をつけてるのだから、もうモンスターが近づいて来ているだろう。
おびき寄せの罠を仕掛けた所まで何百メートルかあるが、もうこの辺りも危険地帯である。
全身の毛が逆立っていくような感覚をおぼえた。
先ほどより慎重に進んでいきながら、二人はおびき寄せを仕掛けた場所の一つへと向かっていく。
その足が止まる。
「いるな」
腰を低くしてヨシフミが前を見つめる。
つられてアヤもその場にしゃがみこんだ。
動きを止めた耳に、前方からのざわめきが聞こえる。
うなり声、草をかき分ける音。
確かに何かが前方で騒いでいるようだった。
「クロスボウを用意しておけ」
持ってきた罠をその場に置いて、ヨシフミが指示を出す。
腰から剣を抜き出し盾を構えなおす。
それを見て、アヤもクロスボウに矢をつがえた。
「本当は、木の上とかから狙えればいいんだけどな」
頭上を見ながらヨシフミが呟く。
そこから狙えばモンスターの反撃を考えなくて済む。
アヤもそれは残念だった。
このままだと、アヤも攻撃される可能性がある。
「ま、しょうがない。
もう少し進んだら、お前はそこで待機していろ。
俺はもう少し先に進む」
「うん」
「そしたら、こうやって合図をするから、一番近い所にいるのに向かって撃て」
「うん、分かった」
上げた手を下ろす動作をするヨシフミに頷く。
今は従うしかない。
「よし、それじゃ行くぞ」
ゆっくり、静かに進んでいく。
音を立てないよう注意をしながら、二人は騒々しい方向に向かっていった。
向かった先には、犬のような頭をしたモンスターがいた。
黒一色の毛並みをして、吊された餌に向かって前足をのばしている。
基本的には四足歩行のようだが、短時間なら直立する事も出来るようだ。
後ろ足で立ち上がり、腕を一生懸命伸ばしている。
だが、あと少しの所で届かない。
それを狙って高さを設定している。
犬型のモンスターが直立した場合の身長は、だいたい一百六十センチ代の真ん中ほど。
手足を伸ばしても二メートルの高さには届かない。
飛び跳ねたりするが、あまり得意ではないらしく、ギリギリの所で届かない。
そうやって取れない餌に集中してるので、ヨシフミ達の接近にも気づかない。
知能はあっても人間ほどではない、あるいは本能が優先するといわれるモンスターだからだろう。
だからこそ都合が良い。
それを見ながらヨシフミは、手を上げて、おろした。
数秒ほど遅れて風切り音が鳴る。
放たれた矢は、飛び跳ねる犬型モンスターの胴体を貫いた。
それを見計らってヨシフミが飛び出す。
仲間が倒れて驚いてるモンスターに一気に接近し、一番手前にいたものを切り裂く。
横を向いていたモンスターの腹から背中にかけて剣を叩き込んでいく。
その一撃でモンスターは、腹の横半分を切り裂かれた。
中から内臓が飛び出していく。
戦闘不能になったそれを無視して更にもう一体に向かっていく。
今度の相手はヨシフミに向かって突進してきていた。
それを盾で受け止め、勢いを殺す。
そうしながら体を横にひねり、相手の勢いを流していく。
体勢を崩したモンスターの背中ががら空きになる。
すかさず、その背中に縦斬りの一太刀が叩き込まれた。
体を両断、とまではいかなかったが、体の内部を切り裂いた事で致命傷にはなっている。
即死するかいずれ死ぬかの違いしかない。
更にまだいるモンスターがヨシフミに襲いかかる。
振りおろした剣をヨシフミは、体を半回転させて横に振る。
頭から突進してきたモンスターは、大きく開いて噛みつこうとしていた口ごと頭を吹き飛ばされた。
残すは一体。
アヤが射貫いたものだけ。
胸を貫かれていたそれは、苦しそうにもだえながらもヨシフミに向いている。
しかし、仲間が瞬時に倒されたのを見たせいか戦意をかなり失っているようだった。
逃げ出さないのはモンスターの本能のせいだろうか。
そんなモンスターにヨシフミは容赦なく一太刀をあびせる。
戦闘と言うにはかなり一方的な展開になったそれは、それで終わった。
20:00に続きを投稿予定




