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World Observer ~罪深き異世界の観測者~  作者: 7%の甘味料
贖罪する父親と自らの殻に籠る娘の観測記録
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贖罪する父親と自らの殻に籠る娘の観測記録 Part1


「頼む! 後一週間だけ待ってくれ!」


目の前の男は泣きながらどけ座をして俺に対して懇願をしている。


「そしたら絶対金は返す……だから……たの……

 えっ……!?」


その瞬間、俺は横に存在した観葉植物を黒炎の力で一気に燃やし尽くした。


ここはマンションの扉の前で、この位置の部屋なら遠くから見られる心配はない。


周りに人がいないのを横目で確認してから俺は自分の持てる能力を有効に活用したのだった。


「ひぃいいいいいい!!……ば、化け物ぉ!!」


「確かにこの仕事の取り立ては強引だな……金利も違法な物だ……

 しかし、おまえはそれを承知で金を借りたんだろう?

 なら返すのが筋ってもんだ……1週間待ったらおまえ夜逃げするんだろう?

 裏は取れてるんだよ……とっとと金を出した方が身のためだ、それくらいは分かるよな?」


「な、なななななんなんだよおまええええええ!!

 わ、分かった……か、金は出すからこ、殺さないでくれっ!!」


男は隠していたお金を持ち出し、俺に手渡した。


俺は目の前で素早く金利を含めて借りた額と同額分を数え、残りの金を男に投げつけ、取り立てた額を懐にしまった。


「最初からそうしてれば良い……では取引成立だ……」


男は怯えながら投げつけたお金を拾い集め、うずくまっている。


俺はその姿を横目で見ながら、その場を後にした。







「おっ……塚元からしっかり取り立ててきたか……

 あいつは業界でも返済期日を引き延ばして夜逃げで借金を踏み倒す事で有名だからな……

 良くやってくれたよ……」


「いえ、自分の仕事をこなしたまでです」


スキンヘッドに黒い髭を蓄えた男が椅子に足を乗せて本を読みながら、俺の功労を労っている。


「それにしても……どんな裏技使ったんだ?

 うちの若いもんが粘りに粘っても取り立てられなかった相手に対してこんな短時間で取り立てしちまうなんてよ?」


「やり方はこちらに任せると言ったはずです

 無用な詮索はやめていただけますか?」


「わりぃ、わりぃ……まぁ結果を出してるなら文句はいえねぇわ…… 

 おまえが普通のもんじゃねぇのは分かった上で雇ってるわけだからな」


今の会話の通り、俺は目の前の男に雇われている。


始まりは3ヶ月前の事だった。


その日辿り着いた街は俺が元の世界にいた頃に近い雰囲気の街だった。


魔法の様な力はTVゲームの中の世界の話であり、科学が全てを支配している。


この区画の外などまるで知らないので、魔法を見せると化け物扱いされる様だ。


ただし、その分他の街よりも科学の発展はかなり進んでいる様だ。



魔法が使われる地域はその分科学技術は遅れている様に見える。


外から来た旅人から言えば、ガラパコス的で、他の地域に関する情報をシャットアウトしている様にも見る事が出来る。


目の前の男との出会いは、俺はこの街に辿り着いてからしばらくしての事だった。


この街は技術の進歩により、多くの事が機械的に処理されており、身元の確認に厳しい地域だった。


そんな地域でどこから来たのかも分からない旅人を雇ってくれる場所などありはしなかった。


俺は仕方なく、ホームレス達の集まる公園に足を運びそこでしばらく暮らしていたのである。


そこはその地域の社会の除者ばかりが大勢いた。


そんな奴らと暮らす事は珍しい事ではなかった。旅人は外から来る異端者だ。邪険に扱われる事も少なくなく、弾圧される事だって珍しくないだろう。


しばらく、ホームレスとねぐらを共にしていると俺は目の前の男と出会ったのだ。


目の前の男は低賃金でホームレスに仕事を与えてみて、使える奴がいたらそのまま引っこ抜く事を行っているらしい。


その男、『大江』は俺にただならぬ物を感じたと言ってきて俺に仕事を頼んできた。


俺はその仕事を悠々とこなし、次の仕事ではしっかりと取り立てができる事を証明すると、俺は大江の闇金会社に入社する事になった。


おかげで今はホテルでまともな飯を食べながら、働いて暮らせている。


「今日はちょっと飲み付き合え

 心配すんな! 金は期待しちゃいねーから

 とっとと帰る用意して付いてきな」


「あぁはい……」







帰宅の用意をして、大江の後に俺は付いていく。


「旅人さんはやっぱり金を借りず、貸さず、持たずって感じなんだろうな

 うちは金だけは糞共から取り立ててるおかげでいくらでもあるからな

 遠慮するな、”人生の先輩”からの驕りだ」


「ありがとうございます」


大江は40後半から50くらいの男だった。


会社の社長だから当然であるし、そもそも雇い主なのだから、失礼な真似はできない。


しかし、俺は大江よりも遥かに生きている。


ただし、姿は30代前半くらいの男なので傍から見れば若くもなければ年老いてもいない普通の男である。


人生の先輩として奢られるのであれば、それは誤りであるのだが……


それを目の前の男に説明しても混乱してしまうだけなので俺は一言お礼を言ってありがたく奢られる事にした。







「酒は強い方か……こっちも驕りがいがあるな!」


元の世界にいた頃酒に強かったのか、そもそも飲んでいたのか俺には分からない。


今の俺は、どれだけ飲んでも二日酔いにもならずアルコール中毒にもならない。


しかし、酒を楽しめないわけではない。酒を飲んで良い気分にはなれるのだから。


「それにしても、先ほどから高いお酒ばかりですが

 本当に財布は大丈夫ですか?」


大江にそう聞くと大江は酔いが回ったせいか大げさに笑ってこう返した。


「はははははははははははっ!! 

 心配ない、俺に金の心配は不要だ!

 おまえも遠慮せず飲めば良い、心配ご無用だ!」


そう言って俺の肩を叩いて、酒を追加で頼む。


しかし、そう言った直後に……


「金の心配なら不要だ!

 金で解決できる心配ならな……」


先ほどまで意気揚揚としていた大江は突然声のトーンを下げてこう言った。


酔いが回ってるせいか、抱えている本音が出てきたのだろう。


「お金の心配以外で何か心配な事が?」


「ふん……あまり話したくはないんだが……

 せっかくだし、話しておくとするか」


大江は話したくはないと言いつつも誰かに聞いて欲しかったのか、饒舌になってそれを語り始めた。


「うちの駄娘の事だ」


「駄娘?」


「あいつは馬鹿だよ、本当にな……こっちの言う事何一つ聞きやしない

 妄想に取りつかれて碌な人生なぞ送れんわ!」


どうやら、大江は娘について悩んでいる様だ。


俺は聞きに徹して大江の話に耳を傾けた。


「中学生くらいまでは、普通の小娘だったんだがな……

 高校くらいから……何やら妙な妄想をする様になってな……」


「妙な妄想ですか、それはどの様な?」


「自分はなんちゃら機関に監視されているとか……

 自分が何をやっても上手くいかないのは機関の陰謀で、自分は被害者なんだとか

 ちょっと目が合っただけで、あいつは機関の手先で自分の事をストーカーしているとか

 何でもかんでも被害妄想をする様になっちまって

 ついには部屋から出てこなくなっちまった」


「ひょっとして……統合失調症ですか?」


「そう、それだ……明らかにそうだから病院に連れて行こうとしたんだが……

 病院も機関の手先だ、もし私が行けば人格を改造されて機関の手先にされてしまうだとか……

 くっそ! 何言っても通じねぇんだよ! あの馬鹿娘はよぉっ!」


その病気は病院に行かなければ治らないものだ。


ただ、それを本人が理解する事はまず不可能であるし、周りが何とかしなければならない。


ただ病院に行けと言われても、自分は健常だと思っているから素直に行くはずもないし、病気が進行してれば病院にすら不信感を持っている可能性もある。


鬱病と同じ様な物で、特定の環境やストレスによって誰もが掛かる可能性のある病気だ。


よく明るい人間は鬱病に掛からないだとか、暗いから鬱病に掛かるのだとか精神論を振りかざす人間がいるが、鬱病は誰でも掛かる可能性のある病気であると言う事は忘れてはならない。


天真爛漫で明るい人間が、環境が変わって数年したら鬱病に掛かっていてもおかしくないのが人間と言うものだ。


「はぁぁぁああ……

 でも……分かってんだよ……

 俺が全部悪いんだってな……」


大江は大きな溜め息をついて、重たく口を開いた。


「うちの妻はな……あいつが小学生の時に

 男と浮気して逃げやがった……娘残してな……

 それから裁判とか色々やって後腐れなく離婚したのがあいつが中学生の頃だ

 俺は起業したこの会社が忙しくて、母親もいなくなっちまったあいつは独りだ

 あいつを独りにしちまったのは俺たち大人の責任なんだよ」


大江は目に涙を溜めながら、俺に話すのではなく何かに懺悔する様に呟いていた。


「そして、気づいたらあいつはもう……悪い妄想に取りつかれちまってた

 もしかしたらこれは罰なのかもしれねぇな

 俺があいつとしっかり接して、あいつのケアをしてやれなかったから

 俺が死ぬまであいつに少なくともお金では不自由させない様にサポートするのが俺の唯一の償いなのかもしれねぇ……」


大江はふと前を見ていた視線を別の方向に移した。


自分の家の近くのお気に入りの店を選んだと言っていたので、自分の家の方角に視線を移したのかもしれない。


「すまんな……こんな話してな……

 なぁ……こんな良い歳した親父が、若造に何聞いてんだって思うかもしれないが……

 おまえはどうすれば良いと思う?」


大江は涙を溜めながらすがる様な目つきでこちらを見つめてくる。


俺は藁にもすがる様な思いで俺に意見を求める大江に対してこう言った。


「正直……俺には息子や娘がいた事はないので分かりません

 大江さんが悪い、駆け落ちした妻が原因であると認めれば解決する単純な問題じゃない

 娘さんの今後も大江さんがそうするべきだと思うなら、そうすれば良いと思います

 その選択は恥じるべき事ではないですし、俺の様な外野の意見でその選択を否定する事なんてできませんから」


「だから、この問題の答えがあるとしたら、ただ一つです

 大江さん……あなたは娘さんを本当はどうしたいんですか?」








続く


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