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プロローグ:永遠に観測し続ける事を課せられた大罪人

「はぁ……ったく……

 記録って言うのは何でこうも面倒くせぇんだろうなぁ……」


一冊の手帳を片手に持ち、もう片方の手でペンを走らせながら俺はこう呟く。


二人掛けのベンチの右側に座り、左側に荷物を置く。


俺は何時も通りやらされている意識しかない作業を行っていた。


暫くペンを走らせるとようやく全て書きこめたので、俺はそのまま手帳とペンをコートのポケットに乱雑にしまった。


フゥウウウウゥ……


俺は大きな溜息をつく。


「おい、兄ちゃんよぉ~!

 あんま溜息ばっかついてっと幸せが逃げるぜぇ~!」


散策をしていた陽気な男が俺の溜息に気づいて声を掛けてくる。


「幸せが逃げるかなんてのは知らねぇがな……

 ストレスが溜まっている時は溜息はついた方が良い

 疲れやストレスが溜まってる時に溜息つかねぇ方が健康に悪いぞ」


「マジかよっ!? 知らなかったわ!

 俺、今度から疲れてる時は溜息つくようにするわ」


どこの誰とも知らない陽気な男はそのまま走り去ってしまった。


ベンチでのんびりする様な気分ではなくなったので、俺はそのまま荷物を持って来た道を戻る事にした。







街中の公園からしばらく歩くと、塗装の剥がれた古びたレンガで形作られた家が見えてくる。


まるで街の外に追いやられたかの様にこの建物だけが建っている。周囲に建物がある様子はない。


俺は家の前に立ちドアに手を掛ける。


キィィィィィィィ……


ドアを開けるにも木が大きく軋む音が響き、壊れてしまう事を何時も心配してしまう。


戸を開けると、そこにはこの家の家主である青年が間食のお菓子を食べながらこちらを見る。


「おかえり……」


「ああ、ただいま」


口数の少ないその青年は最低限の挨拶を済ますと、そのまま間食で水分を欲している喉を潤すための飲料水を古びた冷蔵庫から取り出しに椅子から立ち上がる。


青年は甘い炭酸飲料を両手に一つずつ持ち、こちらに戻ってくる。


「飲むか?」


「ああ、ありがとう」


青年は炭酸飲料を俺に手渡しした。


俺は外出して乾いた喉に甘ったるい砂糖水がいきわたる様に、一気に飲料を飲み干す。


「散歩して……何か収穫はあったのか?」


「何時も通りさ

何時も通り、”この世界の日常”が続いてるだけだ」


「そう……」


青年はそう言って俺から視線を外して窓から外を見る。


水色の縁の眼鏡を掛け、本人曰く床屋に行くのが面倒くさいらしく髪は長髪と呼べるくらい長くなっている。


少し髪の短い女くらいの長さはあるだろう。


この青年の名前は、杉山(すぎやま) (あきら)と言う。


俺は訳あってしばらくの間、杉山の家に居候させて貰っている。


「杉山、居候の件、本当に無償で良いんだよな?」


「今更何を言ってるんだ……あんたは……

 最初に言ったじゃないか、霧崎さんが話をしてくれる事が

 あんたの出せる代価だと……」


「言われたな……」


杉山は呆れ顔のまま話を続ける。


「それにあんた……

金銭的に差し出せる代価なんか持っていないだろ」


俺はその言葉に苦笑する。


「俺はあんたが、本当に”異世界から来たこの世界の観測者”だと確信した

 だからこそ、俺は話を聞きたいのさ

 その為に俺は良い年した大人を居候させてるんだ」


「やれやれ……物好きな奴だな……」


杉山は大真面目に俺を居候させている理由を説明した。


杉山の言う様に俺の名前は霧崎と言う。フルネームなら霧崎(きりざき) (じゅん)だ。


彼の言う様に俺は異世界からこの世界にやってきた観測者であり、この世界を何百年もの間観測し続けている。


先ほど公園で記録をしていた事も俺の観測者としての仕事の様なものだ。


「今日も話を聞かせてくれよ

 まだあるんだろう、面白い話がさ」


「そうだな……

せっかくだし、今日はこの世界に来た話をしようか」


「ああ! それ聞きたかったんだ!

 話してくれよ!」


杉山は俺の話に食いついてきた様なので、俺はふと天井を見上げあの時の事を思い出しながら口を開いた。







「お目覚めかな……」


それは夢を見ている様な感覚だった。全てがおぼろげでこの時の俺は頭が回転している状態ではなかっただろう。


当たりは白紙の紙を見る様に真っ白であった。遠近感も何もなく、その先に進めるのかどこまで続いてるのかすら分からない。


しかし、目に映る白さは例えどれ程の空間がそこに広がっていようとそこには無しかない事を教える様な光景だった。


そんな戸惑いの中、唯一存在する物であると分かるのは俺の脳内に直接語りかける様な声だけだった。


「お前は喋らずとも良い……

 ただ、私の話に耳を傾けていろ」


俺はあまりの事に状況を飲み込めていなかったが、状況を把握するためにもここは黙ってこの声に従う事にした。


「単刀直入に言う、おまえは先ほど死んだ

 生涯で犯した大罪を償うことなくな……」


死んだ……俺が……


しかし、自分が死んだ記憶など……あれ……記憶……


「今おまえは必死に自分が死んだことを思い出そうとしているだろう

 しかし、それは無理だ

 私がおまえの生前の記憶を奪ったからだ」


「おまえへの罰は長期間に渡る地獄での苦しみでは生温い

 そこで大罪人であるおまえへの罰を私が決める事にした」


俺は既に死んでいて、死後の世界へと連れてこられた……


どうやら俺は生前に罪を犯したらしい、しかしその記憶は俺にはない。


思い出そうとすると、あと少しで自分の中の記憶が見えて来そうなのだが、まるで黒い靄が掛かった様に俺自身の記憶の閲覧を邪魔してくる。


「おまえには犯した罪の記憶すらない状態で

 私の作り出した世界で永遠の生を受け、永遠に私のために働いてもらおう

 おまえに拒否権はない、おまえは私の作り出した世界の”観測者”となるのだ」


俺の罪……その罰は、永遠の生を脳内に直接語りかけてくる謎の声の主のために使う事。


とは言われても記憶を無くしている状態の俺には何が何だか分からない。


何故俺がそんな事をしなければならないのかも分からない。


「”観測者”よ……私の世界へと今こそ向かうのだ

 その世界でやっていく術は全て整えている

 それがお前の犯した大罪を償う手段だ」


「断ったら……どうなるんだ……」


俺は脳内に語りかける声に対して、初めて口を開いて質問する。


「おまえが、”大罪を犯してまで守りたかったもの”

 その全てが無になる……それだけの事だ……

 先ほども言ったがおまえに拒否権は一切ない」


大罪を犯してまで守りたかったもの……俺は誰かや何かのために罪を犯したと言うのか。


確かに俺に記憶はない。しかし、身体や本能的がそれを覚えてるのか……分からないが俺に対して警告をしてくる。


この申し出を断る事はしてはならないと……


「正直、何一つ分からない、どうすれば良いのかすらもだ

 だが、どうやら俺には本当に拒否権がないらしい……」


「分かれば良い……呑み込みの早い人間は助かるな」


その声は俺の返事を聞いて満足気に語りかけてくる。


「もう一つ質問して良いか……おまえは誰なんだ……」


「私か?……私はそうだな……

 おまえの観測する世界の……

 

               "世界の王"とでも名乗っておこう」








「なるほど……霧崎さんがメモしている事も……

 その世界の王の観測としての仕事ってわけ?」


「その通りだ、観測者には記録義務がある

 だから、今日身の回りで起こったこの世界の出来事を書いているわけだ」


何時も通り、俺の長い話を杉山は黙って聞き続けていた。


話が終わると杉山はこの様に疑問に思った事を質問してくる。


あの世界の王に気になった事を報告する時の何倍も話しやすい相手だった。


あいつは黙って人の話を聞く事ができないのか、よく人の話の腰を折ってくる。


「後、疑問なのは霧崎さんって死んだ時の姿のままこの世界に来たのかな?

 見た所、20代後半から30代前半くらいだけど……」


この姿が死んだ時の姿を投影しているのか、若い頃の姿を投影しているのか確かに謎の一つではあった。


しかし、俺にはこの世界に来る前の記憶がないので分からない。


とは言えこの世界に来てからずっとこの姿だ。


改めて言われなければ考える事すらなかった事だった。


「まだ時間はたっぷりあるし、何時も通りこの世界を沢山見て来た時の話をしてくれよ!

 俺、あんたの話まだまだ聞きたいんだ!」


杉山は好奇心にスイッチが入ったのか、早く次の話をして欲しいと頼んできた。


窓の外を見るとすっかり暗くなってしまった空を見て、俺は夕食の準備をして夕食を取りながらでも話すことにした。


「そうだな……今日は……あの話をしてやるか」


「どんな話だい?」


「家族の話さ……

 互いに相手を思いやる気持ちが、逆に相手を苦しめてしまう……

 そんな家族の物語だ……」


俺はメモ帳を取り出し、ペラペラと捲りながらあの家族達と出会った事を思い出しながら口を開いた。




続く


お久しぶりです。新しく小説を書かせていただきました7%の甘味料です。

今回の作品は私の主義や主張自分の中にあるものを全て詰め込み、読んでくださる皆さんにも共感して頂ける様な内容を書いていきたいと思っています。

恐らく沢山の人に読んでもらう事は叶わないと思っております。

しかし、私はこれが書きたいんだという事を全力で執筆して、少しでもその熱意が伝わってくれる人が一人でも多くいれば良いと考えております。

商業デビューを考え、漠然と多くの人に見てもらおうと考えて作った作品はあまりにも自分が無く、完結させられたものもありますが挫折してしまった物も多かったのです。

そこにはやはり芯がなかったのだと思っています。自分が本当に書きたいものを書いているのではなく、かと言って依頼して頂いたり、作品を心から期待している人もいない。その様な状況で作られた作品に芯などあるはずがありません。

ならばせめて芯だけは持って書きたいと思ったのが今作です。私は今度こそ芯を持って書き続けたいと思っております。


では、初心を表明した所で今回の後書きとさせて頂きます。


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