第六話 ドキドキ!初野宿でまさかの展開!
「こちらの方向です」
彼女が指し示す道の通りに進み始め、はや一時間が経過した。未だに砦のとの字も見えない。
そうなると、ある可能性に嫌でも思いあたり、他の三人の様子を伺ってみたところ、どうやら同じ事を考えていたようだ。それぞれの顔には戸惑いやら苦笑いやら、あまりよろしくない表情が浮かんでいた。
「あの……案内して頂いてるところで申し訳ないのですけど……迷ってませんか?」
途端、前を歩いていた少々の身体が思いっきり強張るのが見えた。見えてしまった。
やっぱり図星か……。まずいことになった。
時間だけがどんどん過ぎてしまい、空には赤みが差してきた。これは野宿を覚悟しなければならないだろう。
「ごめんなさい……。私も気付いたのはほんの少し前でして……」
「気にしないでいいさ。俺たちもそんなにすぐに見つかるとは思ってなかったし」
「そうだ。過ぎたことは仕方がない。これから出来ることを考えればいいのだ」
舞と義一が優しく、ドヤ顔でフォローを入れる。まったく……すぐに調子に乗るやつらだ。俺と彩でなんとかしないと……。
それから少し歩くと、岩の窪みのような場所が見つかった。
「今日はここで休むことにしましょう。寝るときは交代で見張りをします。二人一組ですよ。私とケイト、シンとナムでいいですね?」
「一人ずつでいいと思うが? その方が長く寝ていられるぞ」
「そうですね。でも、皆さん疲れていますから、眠ってしまわないように、お互い気をつけないといけません」
「そういうことなら構わないが……そうか、シェリーは自分が寝てしまわないか心配なんだな」
一人で納得しているところ悪いが、お前と舞のためにやるんだからな?
「あの……私は……?」
「君はゆっくり休んでいてくれ。俺たちよりもうんと疲れているはずだよ」
舞はそろそろイケメン勇者にも慣れてきたのか、喋り方が板についてきたな。
「すみません……ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて」
奥の方で横になったと思いきや、すぐに寝息を立て始めた。もはやギリギリだったのだろう。色々なことがあった後だ。無理もない。
「さて、みんな。いつも通りに戻っていいぞ」
「はいよ」
「はーい」
「わかりました」
元の口調になると、みてくれと本当に似合わないな。まあ今更か。
「現状、この子の道案内があてにならないと分かり、さらに森から出る方向も分からなくなった。正直、かなりまずい状況だ」
全員が押し黙り、険しい雰囲気が場を包んだ。
「選択肢は二つ。一つは、一度街に戻って装備を充実させる。この子には申し訳ないけど、仕方ない。もう一つは、このまま砦探しを続ける。正直、こちらの方がリスクが高くなる。どちらもほとんど賭けみたいなものだが……みんなはどうしたい?」
「私は戻るべきだと思います。街の皆さんから何か言われるかもしれませんが、無理をして命を落とすより何倍もマシです」
「俺も彩に賛成。死ぬなんてまっぴらだ」
「私も!」
そうだな。俺たちの役目は魔王を倒すことかもしれないが、俺たちの目標は元の世界に帰ることだ。優先順位を間違えちゃいけない。
「よし。夜が明け次第、この森を抜けよう。この子も分かってくれるはずだ。今夜を無事に過ごすための準備をするぞ」
とりあえず火つけることか始める。魔法が使えれば苦労しないが、残念ながら今は使うことができない。小さい頃にやった、木と木の摩擦で火をつけるあれをうろ覚えながらやってみた。
時間はかかったが、なんとか焚き火が程度まで火を大きくすることができた。
非常に目立つし、魔物が寄ってくるかもしれないが、真っ暗よりはいいだろう。
「さっき話したペアで見張りをするぞ。まずは」
「はいはい! 私やりたい!」
何が楽しいのか分からないが、やりたがっているならやらせてやろう。……俺も道連れだが。
「じゃあ俺と舞からな。この世界には時計ってものがないから時間がわからない。眠くなってきたら交代しよう」
「おっけー」
「分かりました」
二人は背負っていた荷物を枕にすると、少女と同じく、すぐに寝息を立て始めた。
「みんな疲れてるよな。俺たちもウトウトしないように……っておい!」
「ふぇ⁈ なに⁈」
既に舞は隣で寝かけていて、慌てて飛び起きたのだ。
「お前がやりたいっていうから見張り番になったんだぞ!しっかりしろ!」
「ご……ごめん……」
そう言いつつも、今にも寝そうな舞を見て、諦めるしかないことを悟ってしまった。
「分かったよ。お前も二人と一緒に寝ていいぞ」
「うん……ありがと……おやすみ」
その場で寝入ってしまった。奥に運んでやろうと思ったが、この身体はいかんせん非力だった。仕方なく隅の方に転がしておく。
「結局俺一人か……」
喋る相手すらいないというのはなかなか暇だ。パチパチと弾けるような音を奏でる焚き火を見ながら、暇つぶしがないかと考え始めた。
空にはたくさんの星が浮かんでいる。日本の東京では見られなかった景色だ。あまり星には詳しくないが、この世界にも星座とかあるんだろうか。
そうだ! この星にも北極星に近いものがあるかもしれない。それを見つけておけば、何かの役に立つかもしれん。
もちろん分かるはずはないのだが、どうせ暇なのだ。時間が潰れればそれでいい。
焚き火の音をBGMにしながら、星々をじっと見つめる。
パチ、パチパチ、パチ。
そういえば、最近ボクシングできてないな。
パチパチ、パチパキッ、パチパチ。
この身体じゃあ大して動けないし、厄介なことだ。
パキッパキッ、パチパキッ、バキッ!
……おかしい。さっきから少しずつ、焚き火とは違う音が混ざって……まさか!
音の正体は姿を現した。近くの茂みから出てきたのは、魔物と化した狼の群れだった。
「みんな! 起きろ! 敵襲だ!」
大声で叫んでも、三人は全く起きる気配はなく、ひたすらに夢を見続けていた。
「くそっ!」
ナックルを身につけ、迎撃しようと構えたものの、この数相手に勝てるとは思えない。
狼たちは洞窟の入り口を、半円の陣形で囲みながら、少しずつ滲み寄ってきた。一人も逃さないという意図がひしひしと伝わってくる。
「おい!みんなどうした⁈ いい加減起きろって!」
流石におかしい。これだけの大声でピクリともしないなんて有り得ないだろ!
唸り声をあげながら、今にも飛びかかろうとする狼たち。その恐ろしい形相が、一瞬揺らめいた。
「な……くそ、こんな時に!」
急激に視界が歪み、膝には力が入らなくなった。
こんな時に眠気が……そんなはずはない! この感じは、無理矢理眠ら……され……て……。
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気がつくと、おれは広大なお花畑の中で横たわっていた。すぐそばにはケイトーー舞が座り込んでいた。というか、膝枕されていた。
「やあシェリー。目が覚めたかい?」
「あ、ああ。なんか悪いな」
すぐに起き上がり、舞と距離を取る。何か違和感を感じたからだ。
「今日は君に話があるんだ。大切な話が」
「そ、そうか。で、何の用だ?」
なんで二人きりなのにケイト口調なんだ? それに、若干気持ち悪い。距離が微妙に近いんだよ!
「俺さ、シェリーのこと好きなんだ!」
「へ? ……ごめん、なんかよく聞こえなかったわ。もう一回頼む」
「君のことが好きだ!」
そう叫ぶと、突然俺に抱きついてきた。
「ちょっ、おまっ、離れろって!」
義一じゃないが、男に抱きしめられても全然嬉しくないんだよ!
「俺と結婚してくれ!」
おいおいおいおい! キスとか迫ってくんな! 俺にそういう趣味はないんだよ! やめろ、やめろって!……ぎゃああああああああ……。
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「ぎゃああああああああ!…………夢か」
お婿に行けなくなる前に、なんとかこっちに生還することができた。
悪夢の後の荒い息を落ち着かせながら、周りを観察する。
前後左右、上下に至るまで、全てが石造り。前には鉄格子のドアが嵌められている。すぐ隣には三人も寝かされているが、服以外のものは全て無くなっていた。
これは……。どうやら、俺たちは野宿を免れたらしい。
牢屋という部屋のおかげで。




