第二話 どうやら俺たちは勇者パーティーらしい
果てしなく続くかと思われた草原もだんだんと整備された道へと変わり、二時間ほど歩いたころ、ようやく街が見えてきた。
たくさんの人で賑わいを見せているこの街は、『ベルサ』という名前らしい。
入り口に書いてあった文字を見たことはないはずなのだが、自然と頭に浮かんできたのだ。どうやら文字が読めなくて苦戦する、ということはなさそうだ。それは他の三人も同じようで、なんとも煮え切らない表情をしていた。
それにしても、先程から周りの人がこちらを見て歓声を上げたり、握手を求めてきたりするのだが、一体何事だ? 俺たちはこの街に来た何十万人目か何かなのか?
その疑問は、すぐに解消されることとなった。
「これはこれは勇者様、それに御仲間の方々も。ようこそ、ベルサにいらっしゃいました!」
突然出てきたお年寄りは、舞の手を握るなりそう叫んだのだ。
「私はこの街の長、ベイリンと申します。精一杯おもてなしさせて頂きますので、どうぞ、ごゆるりとお過ごしください!」
舞は呆然とした顔で固まっているし、俺と義一の周りには男が群がってくるし、彩の周りにもコアな女の子のファンが集まってるし……。
これは一度落ち着く必要があるな。
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用意された宿で集まり、会議を開く。
「この街一番の宿って言うだけあって豪華だよなぁ」
「超高級ホテルって感じ!」
「こらこら、はしゃぐんじゃない。ここまでたどり着く間に得た情報を共有するんだ。どうにもまずいことになりそうだからな」
「そうですね。失礼して、私から。どうやらこの身体の持ち主は『ナム』という名前だったようです。私の周りに集まっていた方々がそう仰っていました」
「私の名前は『ケイト』!女の子が絶叫してたから、いやでもわかったよ」
「俺の名前は……確か『シン』だったかな? 寄ってきたのが男ばっかでむさ苦しかったよ……」
「そういうな。俺の周りも男だらけだったんだから。あ、名前は『シェリー』だ」
不思議な自己紹介だ。
「それで、もう一つ大事なことがある。ベイリンさんの言葉を覚えているか?」
「うん……勇者って言ってたよね。私のこと」
「それで、俺たちはその仲間なんだよね」
「どういうことなんでしょう……?」
『勇者』。単語ならもちろん知っている。ゲームとか漫画とかに出て来る、異常に強い奴ら。大抵魔王を倒す使命かなんかを背負っているのだが……。
「もしかして、ドッキリか何かかな。私達をビックリさせようとしてるのかも!」
「それにしちゃ大規模すぎるだろ。まるごと街一つに百単位のエキストラなんてさ」
「まず間違いなく、ここは日本ではないと思います。どこか外国にいるのか、もしくは……」
「もしくは?」
「世界自体が、私たちの住んでいる所とは違う、という可能性も捨て切れません」
「……平行世界ってことか?」
「そうなります」
「ねぇ翔。傘の世界ってなんのこと?」
「……は?」
ただの聞き間違いだと信じたい……。
「とにかく、ここは俺たちの住んでいた日本とは繋がってないんだよ。どれだけ歩こうが走ろうが、自分の家にはたどり着けないんだ」
「ええ⁈ 困るよ! 私、マイ枕がないと寝むれないのに!」
「……マイ枕?」
それは親父ギャグの類いか?
「とりあえず、これからのことを考えよう。どうしてこんなところに来てしまったのかは分からないが、ここが平行世界と仮定するなら、まずこの世界で生きていかないとだめだ。
元の世界に帰る方法を探すにしても、ちゃんとした準備が必要になる。まずはこちらの基本的なルールや、生活するためのお金の稼ぎ方だ」
「それは問題ないんじゃねぇの?」
口調の通り、なんてだらけた顔をしやがる。せっかくの整った顔が勿体無い。
「その根拠は?」
「さっき言ったじゃねぇか。俺たちは『勇者』なんだろ?それを利用すればいいんだ。
いいか?そもそも、勇者なんてものが世に現れたんなら、必ずセットで付いてくるだろ?『魔王』って奴がさ。そいつを倒すのは人間側の悲願。その為の資金を惜しむはずがないんだ。俺たちが勇者のふりをしている限り、金に困ることはないさ」
こいつはまた腹黒いことを……。
「それは嫌です!勇者といえば皆さんの希望の光です……その立場を利用してお金を貰うなんて、最低です!」
「な……最低……」
ショックを受けた顔と同時に、チャラ男のハートが壊れる音が聞こえてきた。ちょうどいい報いだ。
「とにかく情報が必要だ。外に出るのはもううんざりだからな……。ここの宿の責任者に来てもらって、いろいろ聞いてみよう」
電話は見当たらない。自分で探して、呼ばなければ。
「それと、人を呼ぶ前に、一つ決めておこう」
「なんでしょうか?」
「俺たちの喋り方、口調についてだ」
これは重要だ。今の俺たちの口調では明らかに見た目とミスマッチだ。この街の住人が、以前勇者達と会っている可能性もある。少しでもバレないように工夫が必要だろう。
「舞はとりあえず簡単な敬語を使って喋ればいい。見た目は爽やかな超イケメンだからな。それだけで様になる」
「本当? なんか照れちゃうな」
「舞自体を褒めてるわけじゃないぞ。次、義一の見た目はクールなお姉さんって感じだな。冷静沈着に振る舞え」
「ドSなお姉さんみたいな感じでいいんだよな?」
「……普通にいけ。普通に」
「私は……どのようにすれば良いでしょうか?」
「彩は……見た目は完全にマフィアだな。顔の傷とか凄い怖いし。荒っぽい口調とか似合いそうだけど……」
「彩には難しいんじゃない? 家がお金持ちのお嬢様だし!」
「あ、あまり言わないでください。そんな良いものでもないですから……」
日本有数の財閥の一人娘だからな。さぞ苦労も多かっただろう。
「なら……この際、完全に無口でいこう。その方がボロも出難い」
「そう……ですね。それなら私でも出来そうです。頑張ります!」
「よし、最後は俺だが……どんな感じだ?」
「翔はな……とにかく巨乳だな」
「もうお前黙ってろ」
「翔は凄く可愛い顔してるよ!包容力もありそう!……胸とか」
「そうですね……見ていると気分が安らぐ顔、でしょうか? ほんわかとしています。……胸、羨ましいです」
なんでこいつらは仇のように俺の胸を見つめるんだ? そんなに欲しいならくれてやるのに。
「胸のことはもう分かったから!俺の見た目とどんな口調が似合うんだ?」
「……彩みたいな感じかな?」
「私なんかよりも数段可愛いお顔ですが……」
「いいんじゃねえか? 簡単に言えばお嬢様っぽいってことだよ」
「なるほどな……見本もいるし、分かりやすいな。それでいこう」
全員の方向性(?)が決まったところで、早速行動を開始する。
まずはこの世界を知ることだ。