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ハードマネーオンライン  作者: 本宮傑
8/8

理性的な行動


(ティアマトの庭園、推奨レベル160)


 降り立った地はそう、天界とでも言おうか。

 空に浮かぶ島々の大きさはとてつもなく、上空にある島からは滝が降り注ぎ川を作り、さらに下へ流れていく。

 落ちる大滝はしぶきとなって水を運び、大地に緑を育む。大森林を形成するところもあれば、あたり一面多種多様な花で埋め尽くされ、みたこともない果物が群生していた。

 ナオトはそんな幻想的な島の丘に立っていた。


「綺麗だ」


 その絶景を眺めて形容できるのはそんな単純な二文字だけだった。

 ナオトは数多くのVRオンラインゲームを経験してきたが、ここまで心打たれる風景というのはなかった。

 島の端から外を覗けばそこは空、雲が悠々とナオトの隣を流れていく。

 人の気配はない、数々の島の奥にかすかに見える絢爛豪華な城以外には。


 これほどのおそらく秘境、を見れたのは大不幸中の幸いなのだろう。本来であれば数々の大冒険を経験してやっとのことで辿り着けるフィールド…ナオトはそんな場所だと感じていた。

 だが、眼福もほどほどに現実とは常に向き合わなければならない。


「これからどうすればいいんだ、これ」


 帰り方がわからないというレベルではなかった、まずどんな情報を集めればいいのかわからない。

 この天空島の全容を把握する、どうやって? かすかに見える城まで移動する、何日間かけて? 助けを待つ、そもそも人が降り立ったことのある地なのか? 島の端から飛び降りる、自殺行為だ。


 とりあえず彷徨うしかない、モンスターがいれば諦めて死ぬしかない。

 当面の方針を脳内で簡潔にまとめてナオトは行動に移す。


 その時だった、ナオトの立っている大地が暗くなったのは。

 空からの光を遮断しながら100m以上はあるだろうか、水色の流麗なへびのような生物が空を泳いでいく。

 その様は幻想的尚且つ、恐ろしいものであった。

 もしもあの生物が凶暴で、ナオトに襲い掛かってくるようであれば意識を向ける間もなく消し飛ぶであろうことは想像に難くない。


 丘を降り、草原に降り立つ。遠くには森があるが、そこはできるだけ避けるように歩を進める。

 草原を歩き、見渡して思う。異様に…というよりモンスターが見当たらない。

 ここがフィールドもしくはダンジョンの類なのであればモンスターの一匹程度いないとおかしいのだ。

 しかし、警戒をしてここから動かないのも愚か、ナオトは黙って歩を進めていた。


 バザッバザッバザッバザッ……


 今いる島の上空の島からドラゴンが翼を広げて降りてきた。

 ナオトは降下中のドラゴンを視界に収める。


(ムシュフシュ レベル130)


「これはさすがにきついな…」


 プレイヤーのレベルから大きくかけ離れたモンスターの名前は赤く表示される。

 さらにネームの横につくマークは普通のモンスターじゃない印、ネームドモンスターであることを示していた。


 ネームドモンスタームシュフシュは地響きを鳴らしつつ4つの足を地につける。

 ムシュフシュの尻尾は蠍のような針をつけ、頭には鋭い曲がりくねった角を2本生やしている。

 ナオトは必死に考えていた。死ぬのは確定だ、確定だができることは全てやる。明らかな格上のネームドモンスターの挙動や行動パターンをせめて視る。一撃で死んでしまうだろうから最初の行動パターンだけでも……。


 しかしナオトの予定はムシュフシュの行動で霧散する。

 ムシュフシュは長い首をナオトと同じ視線に伏せ、その青い理性的な目で見つめてきた。

 鼻息が頬を撫でるような距離の中、まるで相手を測るように。


 ナオトは反射的に剣を抜いて、ムシュフシュの顔面目掛けて振り下ろした。

 圧倒的な上位存在の重圧に負け、他の可能性を摘んでしまった。

 ギィィィィィィン!

 手が砕けたような感触と共に鈍い音が響く。システムログにはダメージ1の文字。

 当然だった。レベル2のナオトが130レベルのネームドモンスターに与えられるのは最低ダメージの1だけだ。

 斬撃を放ちはじき返されたナオトは大きくのけ反り、花の上に尻もちをつく。




 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

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 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 ………



 ナオトの周りで鳴るレベルアップの音が止まらない。

 理解が追い付かないが困惑に固まっている状況ではなかった。

 すぐさま剣を握り直し、ムシュフシュに斬りかかる。

 異変を感じたのは立ち上がり、走りだし、斬りかかる一連の動作の刹那。

 明らかに先ほどより動きが機敏、鋭敏になっている。レベルアップの恩恵だろうか。

 これなら……


 ギィィィィィィンン


 ナオトの自惚れを笑うかのようにダメージは1。斬りかかっている途中心なしか笑っていそうなムシュフシュの顔が見えた。


 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 ………


 相手にダメージを与えた途端にレベルアップのログが増える。

 相手にダメージを与えることでも経験値が入る、ならば格上相手にダメージを入れ続ければ?

 今度は尻もちをつかなかったナオトはさらに一撃をいれるべく、走り出す。

 しかしいつのまにか眼前にあったムシュフシュの前足に静かに押さえつけられる。


 仰向けに押さえつけられたナオトが最後に見たのは上空の島から落ちる大滝であった。


 ダァァァァン!

 ムシュフシュはナオトの顔のすぐ横、耳付近に尻尾を叩きつけていた。

 ナオトの鼓膜はやぶれ、出血。

 スタン状態となり意識を手放した。


 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 レベルが上昇しました、おめでとうございます

 ………


 戦闘終了

 合計89754621の経験値を獲得。

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