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ハードマネーオンライン  作者: 本宮傑
3/8

5人のプレイヤー


 視界が開ける。さきほどの広大な背景はそのままに、自分そのもののように見えるキャラクターが、ゲームスタート時によく着ている防御力の低そうな服を身に纏って立っていた。

 どうやらキャラクターを作る画面のようだ。


(おいおい、まじかよ。これじゃあ俺の容姿が筒抜けじゃないか……いや、クリアプレイヤーは一人だからそこまで気にすることじゃないか……?)


 そんな少しずれているようなことを考えながらキャラメイクができるか色々と探してみる。

 どうやら名前は『ナオト』で固定されているようで、変更はできないらしい。

 キャラクターの隣には初期職業と所属する国の設定欄しかなくこの2つしか変更はできないようだ。


(へぇ~、所属国もあるのか。まずは職業からだな)


 この時早くも加也直人はこれが自分の命を脅かすかもしれないゲームだということを意識から外しそうになっていた。

 非常時だということもよくわかっていた、わかっているが、それを霞ませるほどのゲーム好きの性というものはなかなか剥がせるものではないらしい。

 

 職業欄に意識を向ける、すると勝手に職業の一覧が視界いっぱいに広がった。

 あるのはRPGお馴染みのクラス。ファイター、ソーサラー、アサシン、アーチャー、テイマー、クラフター。

 ご丁寧にスキルなどの動画までも再生されている。


 ナオトの目に留まったのはクラフターという職業。

 今まで見たオンラインゲームでは見かけない職業だ。クラフトと言えば生産系なのだろうが、生産のシステムは全ての職業が使えるのが一般的だった。

 それがこのゲームでは専門職になっているということだろうか。

 さらに珍しいことに支援職にありそうな職業が見当たらない、支援職がないとなると回復はどうするのだろうか。


(情報がないからどれが強職か一切わからないな……どれも長所はあるんだろうけど)


 どのクラスを選択するのかを悩むのはMMORPGの醍醐味でもある、あれやこれやあることないこと熟考するのは正直楽しくてたまらない。


(ソロプレイ主体かパーティープレイが主体かで変わってくるんだろうけど……色々考えても無駄だなぁ、ははは)


 ナオトは個人的に魔法系のキャラが好きだった。

 大方のMMORPGで強職の枠組みに入ってることが多いし、火力が高い範囲攻撃を出せることが爽快で、好きだったからだ。

 しかし、その火力と引き換えに防御力が低く設定されていることも多く、一般的にはソロ狩りには不向きとされている。

 勿論例外もあり火力も防御面も完備しているぶっ壊れ魔法職はそこそこ見る。だがその賭けを失敗がログアウト不可に直結するかもしれないゲームに行おうとは思えなかった。


(ファイターにしておくか)


 加也直人はどのMMORPGでも比較的安定しているファイターを選択する。

 リスクを回避した甘い考えでトッププレイヤーとして君臨できるのか? と自分でも考えないでもない。

 しかし、そこは今までMMORPGを渡り歩いてきた身だ、直人はただのファイターを育てる気は毛頭なかった。


 次に所属国に意識を向ける。

 選択肢は二択だけだった。

 アルガルドとアルファイム。

 この世界は北のアルガルドと南のアルファイム、そして中央のドラグルムで構成されているようだ。


 中央の国はなんなのか、NPCで構成された国か。

 そんなことを思いつつ特に考える必要性を感じなかったのでなんとなく南のアルファイムを選択する。


(ま、気負い過ぎても良い事はないし、当面は楽しんでプレイするか)


 作成。三度の暗転。

 今度は少し暗転の時間が長く感じられた。









 目を、開ける。最初に目に入ってきた色は茶色。

 開けれるということはどうやらやっと自分として動かせるようだ。


「寒いな……」


 喋れるかどうか確認するように独り言を呟く。

 よく見れば自分の口からは白い吐息、気温が低いのは確定的だった。


「キャア!?」

「どうしたっ! ミウ! 大丈夫か!?」


 正直叫びたいのはこちらのほうだった、少し心地良いソファから身を起こしあたりを軽く見回す。

 どうやらここは木造の小屋の中のようだ。

 声のしたほうを向くと同年代だろうか、高校生ぐらいの見た目をした男女が引き気味にこちらを伺っていた。

 ナオトは少し考える。


(同じ被害者だろうな。俺がいきなりここに出現したから驚かせたか?)


「あー驚かせたのはすまない、俺も訳分からずここに放り込まれた身だ。君達もそうだろう?」


 パニックになっても仕方ない、そう考えたナオトは事態の収拾を図る。

 質問をすると、茶髪のイケメン(客観的に見ればナオトのほうが人気は出そうだが)が気の弱そうな、男には人気の出そうな女の子を庇うように前に出てきた。


「ああ、そうだ。俺はカズヤ、こっちの女の子がミウで、外の様子見をしている二人がケンとサクラだ」


 4人もいるのかと思いつつナオトも返事をする。


「俺はナオトだ。他のゲームで遊んでいたんだが訳のわからん女にこのVRMMO、ハードマネーオンラインって言ってたな...それにログインさせられたようだ」


「そうか、俺達と同じ境遇のようだな。じゃあ脱出方法を一緒に探す協力関係でいいか? それとも一人で行動するか? ナオト」


 脱出方法…ナオトの頭には自称GMの言葉が浮かんでいた。

 「1億円溜めること」この4人組はそれを信じてないようだ。

 だがわざわざ巨額のサーバーを設置し、プレイヤーを強制的に飛ばすような得体の知れない相手が抜け道を用意しているとはナオトにはどうしても思えなかった。


「いや、同行させてくれ。一人より複数人のほうが心強いしな。っとそれと驚かせて申し訳ない、ミウさん」


 ナオトはできるだけ優しそうな顔と声音でミウに語りかける。


「は、はいっ! こちらこそすいませんでした……大きな声をだして……」


 真っ赤である。若干噛んだか?

 その様子を見てカズヤが少しむっとした顔になるがナオトはそれを見なかったことにした。

 相手をすると色々とめんどうなことになるのは明白だ。


「さてと、じゃあ新しい仲間もできたことだし。おーーい、ケン! サクラ! 俺ら以外にもプレイヤーが来たぞ」


 カズヤは窓を開けて二人に手を振る、窓の外を見れば雪が降っていた、通りで寒いわけだ。

 辺りは森で、そこにポツンとあるのがこの寂れた小屋のようだ。

 そこに灰色のボロいマントを身にまとったケンとサクラが雪をはたきながら入ってくる。

 一人は特筆することもない眼鏡をかけている優しそうな男、もう一人は誰にでも分け隔てなく明るく接しそうな女の子だ。

 ナオトは緊張することなくこれに面と向かって会釈した。


「初めまして、さっきログインさせられたナオトだ」


 これに対して二人の対応はフランクで簡単なものだった。ナオトとしてもこれは色々とめんどうがなく正直有り難い。


「困っているのは皆同じだ。こんな時だから助け合おうぜ、ナオト」

「あら、ナオト君イケメン! 明るく行こうねー!」


 挨拶を済ませたナオトはすぐに自分のウィンドウを開く、色々と確認しなければいけないことがある。

 意識を向けメニューが空中に現れる、指でタップし、アイテム欄を開く。

 初期装備は普通だ、そして初期アイテムとしてステータス振り分けアイテムが1枠を埋めていた。

 

 そして……初期所持金は32万3千「円」だった。

 円であることにはあまり驚かない、しかし、初期所持金としては高額であり半端だ。


「どうした? ナオトさん」

 アイテム欄を見ながら考え事をしているナオトの横からケンがウィンドウを覗き込む。


「いや……みんなも所持金は32万3千なのか?」

 ナオトが所持金に指をさしながらみんなに聞く。


「違うよ? みーんな10万円だったけど」

「……10万円でした」

「どうしてナオトだけ俺らの3倍はあるんだ……」


 ナオトは場の空気が少し重くなるのを感じつつ頭を巡らせる。

 (32万3千……! 俺の口座金額か! 3日前ゲームに課金するために7千円ほど下ろしたな。まさか口座とこのゲーム内通貨はリンクしているのか? いや、それは考えすぎだ、あり得ない。このゲームの運営者が俺の口座金額を知っているだけということも考えられる、しかし、どうやって? それに他の4人が全員10万円なのもおかしい。口座金額が10万円以下の者は10万円固定スタートなのか?)


 次から次へと疑問が沸く。どうして、なぜ、どうやって……。


 「ナオト!」


 カズヤの怒気を含んだ声がナオトの意識を現実に引き戻す。

 はっとして顔をあげる彼を見る目は皆どこか不審な物を見る色をしていた。


 「すまん、俺にもわからない。だが、やはりこのゲームが金に重きを置いていることは確かだ、俺だけ所持金が多い意味はわからないが、GMらしき奴も脱出方法は1億円溜めることと言ってた。逆にマイナス方向、破産や借金をした場合どうなるのかも知っておきたいな、最悪一生ログアウトできない可能性もあり得る……」


 「やめろっ!」

 ナオトが大声を上げ。


 「やめてぇ!」

 ミウが悲鳴を上げながらしゃがみ込む。


 「俺はあんなGMの言うことなんか信じないからな! 脱出方法はきっとあるはずだっ!」

 「そうよ、ミウ、ほらっ落ち着いて」

 「……ナオトさん、確かに考察することは大事だ、しかし気の弱い人の前でそういうことを口にするのは頂けない」


 今までだれも口にしなかったこと、ここから出られないかもしれないということ。

 ナオトはそれを口にした。

 しかし、可能性があるのだから仕方ない。それをあり得ないと思い込むほうがむしろ危険だった。

 そう思っての言動だった。


 「……悪い。しかし、現状を見据えることは急務だと思う、そうしなければ助かるものも助からない」


 こういう非常事態において怖いから、現実を見たくないという人は高確率で不幸な道を辿ることをナオトは知っているし、そうなるのも当然だと思っている。少しでも助かる確率を高めるための進言のつもりだった。

 しかし、相手はそうは思ってくれなかったらしい。


 「やめろって言ってるだろう! この話は終わりだ! それにナオト、お前少しニヤけてないか? 脅かすために今の発言をしたのなら俺はお前をゆるさねーぞ」

 怒気を隠そうともしないカズヤの怒声。


 ニヤけている? ナオトは自分の顔に手を当ててみる。

 しかし、わからない。自分でニヤけたつもりはないし、楽しいとも思って……楽しい?

 この状況が? 現実に戻れないかもしれない、どんな敵が待ち受けているかもわからない、わからないだらけのこのゲームが楽しい? もし自分がこのスリルや考察を楽しんでいるのだとしたら……


 そこにずいっとケンが前に出てくる。


 「ほらっもういいだろ、カズヤもナオトさんも。この話は終わりだ」


 ケンの言葉で意識を戻す。

 カズヤはくそっと言いながらソファに座った。

 ナオトもこれ以上ことを荒立てないようにおとなしく頷いて着席する。




 ポン!

 突如部屋の中心に妖精と思われるものが出現した。

 「ヒッ」

 ミウだけが軽く声をあげ、残りはそれぞれのリアクションを見せながらながらそれを見つめる。

 それは軽くぺこっと一礼して喋り始めた。


 「ようこそハードマネーオンラインへ! 私、ガイドNPCのピクシーと申します。規定人数に達しましたのでチュートリアルの説明をさせて頂きます」


 「なっ」

 「しっ黙って聞いてみよう」

 カズヤが何か発言しようとしてケンがそれを制止する。


 「チュートリアルは簡単なものです、山道を進んでいけば始まりの街まで着きます。プレイヤー5人の皆様で協力してそこまで移動するだけです。道中、敵やドロップアイテムなどありますので、それで一通りゲームの特徴や感覚をつかめると思います、簡単な説明ではございますが、頑張ってくださいませ」


 再び一礼するとポンっとピクシーは消えてしまう。


 「待て!」

 カズヤが引き止めるがピクシーは戻ってこない。

 「質問をしようとしても無駄だろう、ガイドNPCと言ってたしシステム的な回答しか得られないと思うぞ」

 「いちいちうるせーんだよ、てめえは!」

 「ナオト君感じ悪いよ、正直」


 ナオトは正しいと思ったことを言ってるつもりなのだがこれも失言だったようだ、反感を買ってしまう。

 これ以上溝を広げてもいいことはないので、ナオトは少し黙ることにした。


 「わかった、すまない。これからどうする?」

 進行役になりつつあるケンに目配せすると、ケンは頷いて話を進める。


 「ピクシーのいってたとおりに山道を辿って行ってみよう。街につけばプレイヤーがわんさかいるだろうし色々聞くこともできる」


 この提案にナオト意外は頷く。

 「ナオトさんもそれでいいですよね?」

 「……あ、ああ」

 少し思うところもあったが現状そうするほかない。





 始まりの街まで行くことになった一行はそれぞれのボロマントを掴み外にでる。

 肌に突き刺さる空気と一行に流れる雰囲気は、重く冷たいものだった。


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