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初華、トロくないもん!

作者: 瀬川潮

「えー、転校生を紹介する。今日から我が高見原中学校に通うことになった山吹初華くんだ」

 さ、自己紹介を、と担任ののっぽメガネが言ってきた。

「や、やまぶきはつかと申します。よ、よろしくお願いします」

『もじもじしてると“また”男子から色目で見られるぜ』

 うるさいなあ、と思うけどうまく言葉に出来ない。言葉にしたところでクラスのみんなに変な目で見られるだけなんだけどね。

『ほらほら、顔を上げてみなよ。クラスの男子がかわいこちゃんかどうか、じっとこっち見てるぜ』

 再びみっくんに言われて顔を上げると、クラス中の好奇の視線とぶつかった。恥ずかしくなって、また顔を伏せる。

「やあ、山吹くんは純情可憐で内気な子だねぇ。そのへん踏まえて、みんな仲良くしてあげるように」

『このメガネのっぽ、見た目同様、のほほんとしてやがるな』

 私の左横に、漂うように浮かんでいる羽根を生やしたトラジマ猫「みっくん」は、私以外の人から見られないことを知っているせいかとっても口が悪い。困ったものだけどその声も私以外には聞こえないから、まあいいか。

「じゃ、山吹くん、あそこの空いた席に」

 私は教壇から下りて、のっぽメガネが指差した席へと移動した。

「や、よろしく」

 席に座るなり、左隣りに座る目許が涼しいスポーツマンタイプの好男子があいさつしてきた。

「よ、よろしく。は、はじめ……ま」

「あれ。もしかして君、超能力者?」

「え! え? え~。なんで~」

 いきなり私の最重要国家機密がバレバレじゃない。な、なんで~。

『おいおい、目を回している場合じゃないだろ。敵ならはやく俺に攻撃命令を出せよ』

 あ、そうか。きっとこの人も超能力者で、みっくんが見えるのだわ。

「……いや、自己紹介する前に俺の名前を当てたからさ」

「へ?」

「いや。俺、白鷺はじめって名前なんだよ」

「しろさぎ、はじめ……」

「そう。よろしくな」

 しろさぎくんは、それだけ言うと照れたように後頭部をぱりぽりとかいている。

「気にしちゃダメよ。今のって、このバカが十三年間使ってきたナンパネタなんだから」

 右隣りの席から、女子生徒が割って入ってきた。

「おいおいヨーコ、そりゃないだろう」

 私を挟んで、しろさぎくんとつり目の女の子が言いあっている。

「はいはい。あ、私は白銀ようこ。よろしくね」

「しろがねヨーコちゃん……」

「そう。後でいろいろ学校案内してあげるよ」

 ああ、よかった。なんだかヨーコちゃん、いい人っぽい。友達になれそうだな。


「ふうん。はっかちゃんて、可愛らしくて男子からモテそうだね」

 学校案内をしてもらってる最中、ヨーコちゃんからほめられた。

『あったり前じゃん。初華は可愛いんだよ。お前みたいな目のつった猫娘とは違うんだよ』

「こらこらみっくん、口が悪すぎるよ」

 と、たしなめたかったが、さすがにヨーコちゃんがそばにいるので口にできなかった。

 ここは女子用トイレ。

 洗面台の前には、大きな鏡。

 手洗いした後の私が苦笑いしている。

 ちょっと垂れた、いかにも眠そうな二重まぶたがのしかかる両目。

 小さな鼻に小さな口。

 少しふくよかなほっぺた。

 あんまり、可愛くないよなぁ。

 ちょっと落ちこむ私。うつむいた拍子に、あまり長くない黒髪がさらりと真下に垂れる。

 でもでも、ちょっとは可愛いところがあるとは思うし、そんないいところを見つけてくれる男の子って、きっといると思うのよね。そう。きっと、しろさぎくんだって……。

「はっかって、面白いわね~。急に落ちこんだり、顔を上げたりしてさ」

「え?」

「しろさぎはじめクンに可愛いって思われるかどうかで悩んでた、ってとこかなぁ。もしかして」

「あ、あはは。そんな……」

「あーあ、顔を真っ赤にして言われてもねぇ。ま、恋愛は自由だからいいんだけどさ」

 ヨーコちゃんは呆れたように両手を頭の後ろで組み合わせた。私は声も出せずに小さくなっているだけ。

「でもね、ホントーに、はじめだけはやめときなって。あとできっとがっかりすることになるから」

 諭す口調のヨーコちゃん。私は相変わらず、声も出せなかった。

「ま、いいんだけどね。……さ、学校案内の続き、行こ」

「好き放題言っちゃってまあ。ホントーに、嫌な女だよな」

 ついにたまりかねた様子で嫌味を言うみっくん。

 でも、ヨーコちゃんって、右も左も分からない私に学校案内してくれる良い人だよ。

 って、みっくんに言いたかったけど、声に出なかった。

 どうしてなのかな。言いたいのに、言えない。何だかもどかしい気分。

「や、ヨーコ」

 女子トイレを出たところで、しろさぎくんと出くわした。

「何だよ、はじめ」

「いや、俺もはっかちゃんの学校案内、手伝おうかなって……」

「女子更衣室とか覗く気だろ。帰れ」

 ヨーコちゃんの剣幕に、しろさぎくんは慌てて退散した。

「ね。ヨーコちゃんて、しろさぎくんと仲、いいんだね」

 聞いてみた。

「ばっかだなぁ。ただの幼馴染みだよ、幼馴染み」

「ふうん」

 いいな、あんなに自然に話ができて。

「ほ、ほら、次の場所に行くよ」

 じっと見てたら、ヨーコちゃんは私の視線から逃げるように先を急いだ。


「はあ……」

 その晩。

 学校の寮の自室。

 お風呂上がり。ピンクのパジャマに着替えてベッドにごろん。

「ふう……」

 寝返りを一つ。

 なんだかほっぺた、熱っぽいなぁ。

「はぁ……」

 枕を抱いて、またごろん。

『何を呆けてんだよ。この学校には重大な使命を帯びて派遣されたんだぞ』

 声の主を探すと、みっくんがぷんすか怒ってた。

「もちろん分かってるよぉ。潜伏している悪玉超能力者を見つけ出してやっつけるんでしょお」

 私は全国善玉超能力者協会のメンバー。敵対する全国悪玉超能力者協会をやっつけるのが、仕事。そんなこと、みっくんに言われるまでもなく分かってる。

『そんなんじゃやっつけに来たこっちが逆にやっつけられちゃうじゃないか』

 二足歩行もするみっくんが、空中でジダンダを踏んでいる。私が自分の超能力で生み出した、「見えない猛獣」なんだけど、我ながらやっぱり可愛いのよね~。

『初華、ちゃんと聞いてるのか?』

「大丈夫、大丈夫。こんなにトロい私でも大丈夫なように、師匠が特別な暗示をかけてくれたんだから。私が『この人、敵だ』って思えば自動的に超能力が発動して攻撃するのよ。私の意思は関係ないから、これなら絶対だよ」

『初華は思いこみが激しいから暗示にもかかりやすかったんだろうな。って、自慢することじゃないだろう』

 みっくんはがっくりと肩を落とした。シツレーな猫よね、まったく。

「敵も超能力者なんだから、みっくんは見えるわけでしょ。だから、みっくんをじっとみた人が、悪玉さん。他のメンバーがしてるみたいに、悪玉さんが悪事を働いている現場を押えなくてもいいのよね。らっくちんじゃない」

『能力的には悪玉狩りに向いてるけど、性格的には全然向いてないよな』

「今回は使命が終っても、ずっとこの学校にいよっかなぁ」

 みっくんのぼやきは放っておいて、私は仰向けに転がり直ると天井に向かって枕を放った。

「あ」

 枕をキャッチした後、がばりと起き上がる。

 突然、重要な事を思いだした。

「そういえばもうすぐバレンタインデーだ」


 かばんの中に、ギフトボックス。

 ハートたくさんの紙で包んで、リボンでキュ。

 中には手作りチョコレート。

 今日はあまぁ~いバレンタインデー。

 よーし。初華、勇気を出してしろさぎくんにチョコを手渡すぞー。

 って、あの校舎の影にいるの、しろさぎくんじゃない。早速朝から渡すチャンス到来だぁ。

「お、俺に?」

「そーだよ」

 そっと近づくと、話し声が聞こえた。しろさぎくんと、女の子の声だ。

「いままでくれたこと、なかったよな」

「いーだろ、そんなこと」

 女の子の声、聞いたことある。

「この大きさといい、ハートの形といい、明らかに本命チョコだよな」

「いちいちうるさいなぁ。そのとーりだよ」

 え。そんな……。

「何だよぉ。ずっと、俺の片思いかと思ってたけど、両思いだったんじゃないかぁ」

「あんまりはしゃぐなよ。こっちが恥ずかしくなるじゃないか」

『あれ。あれって、ナンパしろさぎに猫娘ヨーコじゃん』

 あああ、みっくん。私が認めたくないことをそんなあっさりと言わなくても……。まさか、ヨーコちゃんが恋敵だったなんて。

 その瞬間、私の超能力で生み出した「見えない猛獣」みっくんの体が大きくなり、つぶらな瞳はぎらりと野性に戻り、鋭さを増した牙を剥いた。

 がぶり、とヨーコちゃんの上半身を食いちぎったのは、一瞬の出来事だった。後にはヨーコちゃんの腰から下だけが残り、吹き出た大量の血はしろさぎくんを朱に染め上げた。

 しばらくして、ヨーコちゃんの下半身と意識を失ったしろさぎくんが、ばったりと倒れた。

「ヨーコちゃんが、死んだ……」

 信じられないけど、事実。

『あれ。俺、今何してた?』

 横では、いつものサイズに戻ったみっくんも呆然としていた。

「そんな」

 そんな……。

 そんな。

 信じられない。あのヨーコちゃんが死んじゃうなんて。

 親友のヨーコちゃんを、私が殺しちゃったの?

「あ」

 その時、気がついた。

 視線の先に、空を飛ぶ羽根つきの犬を連れた女子生徒がいた。私とみっくんを、目をまん丸にして見つめている。

 見つけた。悪玉超能力者。

 目の前には、ヨーコちゃんの死体。

 悪玉超能力者の前に、ヨーコちゃんの死体。

 私は、なんにもしてないし、悪玉超能力者は、悪い奴。

 目の前で親友のヨーコちゃんが死んでいる。

 近くには、悪玉超能力者。

「よくも、よくもヨーコちゃんを」

 気付けば、私は悪玉に向かって走っていた。

「ヨーコちゃんのかたきぃ~」

 悪玉の女子生徒は、「なんで私が」といった表情を浮かべていたけど、そんなの知ったことじゃないわ。

「くらえっ!」

 ちょうど手にしていた箱を悪玉に向かって投げつける。こいつを倒して、ヨーコちゃんのかたきをとるのよっ。

『……頼むから「敵」って思えよ』

 みっくんが何か言ったけど、私、いま素手で戦っててそれどころじゃないのよ。



   ちゃんちゃん♪

 ふらっと、瀨川です。


 他サイトの三題縛り企画に出展した旧作品です。

 ええとたしか、「超能力転校生モノ企画」だったはずで、「転校してくる」、「超能力を一つ持っている」とあと一つ何か縛りがあってその条件下で執筆してます(400字詰め原稿用紙十枚制限付き)。

 2003年の作品で、当時は知人に引かれました(笑

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