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P52

 どうにも、妙な事になった。

 妹に、岡田のメールアドレスを知っていると伝えると、お礼のメールをしてくれと伝言を頼まれ、結局、なんだかんだで岡田と妹の瑞穂は俺抜きで直接連絡を取り合うようになった。岡田はいいヤツだし、妹の交友関係に口を出すつもりもない。けど、まあ、なんていうか、微妙な気分になってしまう。

 岡田は東京の大学に通っていて、わりと課題などが大変な学部らしいから滅多に地元には戻らないはずなのだが、ふいに実家に帰った時、うちのリビングで妹とテレビを見ていて、驚いた。まあ、それはしょうがない。が、一人暮らしをしているアパートで、妹と二人で勝手に料理を作っていた時には、さすがに唖然とした。

 合鍵は実家に預けてあった。妹はそれを持ち出したのだろう。


「あの、お前らさ、俺の部屋で勝手になにしているわけ?」


「何って、ご飯作っているんだよ」


「そりゃ、みてわかるけど」


「えっと、なんか、ごめん」


「いや、岡田はあれだろ、どうせ、瑞穂が無理やり連れてきたんだろ」


 妹を見ると満面の笑み。なんだよ、そのドヤ顔は。どうやら瑞穂は岡田が相当気に入ったらしく、俺とくっつけようと画策しているらしい。姉妹がいない分、淋しい思いをしていたようだし。かといって、なあ。

 受け容れる事も、きっぱり断る事もできず、曖昧なまま、三人でメシを食った。俺は、どうしたいんだろう。なんか、流されているよな。こういうのは、あんまり良くない気がする。

 と、玄関のドアを思い切り叩く音に、三人で顔を見合わせた。俺が席を立って開けると、立っていたのは。


「朝陽」


 弟はむうっとした顔でずかずかと部屋に入って来て、


「俺もメシ、食う」


 と、食器棚を開けて、適当な小鉢にご飯をよそった。


「ちょっと、朝陽、勝手になに? 足りなくなっちゃうでしょ、家で食べてよ」


「いいだろ、別に」


 言い争う弟妹に呆れてため息を吐くと、岡田がクスクスと笑った。

 瑞穂は納得できないといった風だったが、無理やり追い出すわけでもなく、


「なによ、ブラコン」


 と、文句を言うに留めた。朝陽はその言葉を無視して一片の遠慮するそぶりも見せず、ガツガツとご飯をかっ込んでいた。なんなんだ、こいつら。


 いつもより少し早めの夕食を済ませ、食事は作ってもらったわけだから、俺と、じゃあ自分もと席を立ってくれた朝陽とで食器を片付け、少しテレビでも見て食休み……なんて思っていると、瑞穂が朝陽を強引に立たせた。


「じゃ、遅くなっちゃうから、私たちはそろそろ」


「はあ? まだ七時過ぎだろ」


「いいから! じゃ、お兄ちゃん、さあやちゃん、またね!」


「ちょ、なんだよ、バカ瑞穂!」


「バカはそっち。大声出さないでよ、近所迷惑でしょ」


 ぎゃいぎゃい言いながら、弟妹たちが帰っていくと、部屋はしんとして、取り残された俺と岡田の二人、なんとなく気まずい空気に包まれた。


「騒がしくてごめん」


「あっ、いえ、ううん」


「えっと、これからどうする? 送っていくけど」


「うん、ありがと」


 まるっきりただの友人だったらまだしも、やはり、今の状況で俺の一人暮らしのアパートに二人きりというのは、少し悪い気がする。

 ちょっと緊張したような表情をやっと緩めて笑いながら、岡田は立ちあがった。

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