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妹と岡田と、三人きりになって、やっとほっとした。
「おにいちゃん、ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ」
妹のしょげ返った声に、驚いて聞いた。
「おにいちゃんの、働いているところの人だから、怒らせちゃったら悪いなって、がまん、しようと思ったんだけど、怖くなっちゃって」
いいながら、また涙をぽろぽろこぼす妹に、申し訳ない気持ちになった。
「お前が謝る事ないって。あの人たちの事は、秋元さんに任せておけば大丈夫だから。てか、岡田は、どうしてここに」
「なんとなく時間ができて、本屋さんに寄ろうと思って通りかかったら、女の子がもめているみたいだったから。まさか、ここが高城君のバイト先で、彼女が妹さんだったなんて」
岡田と俺が知り合いだという事に驚いたのだろう、目を丸くする妹に、
「高校の同級生。一年の時、同じクラスだったんだ」
と話すと、ぱっと笑顔になって、ぺこりと頭を下げた。
「そうなんですか? すごい偶然。あの、ありがとうございました。お礼言うの、遅くなっちゃって」
「ううん、いいの。私こそ、あんまり役に立てなくて。
びっくりしちゃったよね、大丈夫?」
「はい、私は、もう」
そう答えた瑞穂に、岡田はほっとしたらしかった。
「じゃ、私はこのまま帰るね。高城君、妹さんを大事にね」
「おう。ほんと、助かった、ありがとな。後で連絡する」
「うん」
手を振りながら、岡田は背を向けて歩きだした。
「さて、俺も今日はあがっていいって言われたし、送っていくよ。とりあえず着替えてくるから、本売り場あたりで待っていられるか?」
「んっと、お店の入り口で待っている」
店舗の中に入るのは、なんとなく気が引けるのだろう。従業員の通用口は建物の裏側で、薄暗く人通りも少ない。だったら、店舗入り口の方が明るく人目もあるから、まだ安心だ。
頷いて妹を伴い、来たのとは逆に路地をたどって店舗内に入ると、さっきチーフたちの行く先を教えてくれた本売り場担当のヤツが、俺に気付いて近づいて来た。
「さっき、あの二人、偉い人に連れて行かれたな」
「うん、みていたのか?」
「なんかさ、引っ掛かるところがあって。高城ちゃんが出て行ったあと、レンタルの方行って、偉い人に様子見に行ってくれないかってチクっちゃった。余計なお世話だった?」
そうか、それで。秋元さんの登場のタイミングが早すぎると思ったんだ。
「いやいや、サンキュ。次、外の自販機でなんか奢るわ」
「自販機かよ」
「遠慮するなよ、好きなの選んでいいぞ」
彼の言う「引っ掛かる事」の事など、もう少し詳しく聞きたい気もしたが、妹を待たせている事の方が気になった。手を挙げて挨拶をし、足早に着替えに向かった。




