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P48

 建物をぐるりと回る形で角を曲がると、喫煙所に二人の姿があった。

 正確に言うと、他二人を含む四人の。四人は、チーフと南塚さん、他の二人と言う形で揉めているらしかった。

 会話に割り込んでいいものかどうか、戸惑いながら近づいて、驚いた。チーフと南塚さんともめている二人は、妹の瑞穂と、岡田早彩だった。え、え? なんでこいつらが? 

 怒鳴るような大きな声のトーンは、離れたところに立つ俺の所にまではっきりと響いた。南塚さんが腰に手をあて、妹と岡田を見下すように顎を上げて言う。


「だからさ、わっかんないかなあ? アンタ、彼氏いないんでしょ?

 だったら、この人と付き合えばちょうどいいじゃない」


「そっちこそ何を言っているんですか? この子、嫌がっているじゃない。

だいたい、高校生くらいの子が、こんなおっさんと付き合うわけ、ないでしょ」


「おっさんだと! ばばあは黙ってろ!」


 岡田が冷静に言い返すと、それまでにやにやとやり取りを見ていたチーフが怒鳴り返した。

 さあ、と、血の気が引いた。いや、逆に、頭に血が上った、のかもしれない。とにかく、ぞくりと体が冷えた気がした。大股に近付くと、南塚さんが俺に気付いて、にこりと笑った。


「高城君、あのねえ、この子、昨日見た時から何か危ないなって思っていたんだけれど、聞いてみたら、彼氏いないっていうの。

 カワイコぶって、食事で釣って男を家に泊めたりしておきながら。

 高城君は、本命じゃないって事だよ。

 あなた、遊ばれていただけだったんだよ!」


「彼氏がいないって言うなら、ちょうどいいよね。

 ボクも彼女いないし。そんな軽い遊び人の女でも白蘭女子の子なら、まあ、妥協できるし。

 だからさ、高城君、もうこの子に付きまとうのはやめてくれるかな」


 南塚さんの勝ち誇ったような言葉に続けて、チーフも得意気にそう言った。

 岡田が、唖然と俺を見ていた。振り向いた妹の眼から、涙がこぼれた。緊張状態のせいか、青ざめて血の気の引いた顔を歪ませ、がくがくと震えだしながら。

 いつも、しっかりものの妹が。両親がケンカをしても、弟には笑って見せ、学校の勉強や部活だって大変だろうに、帰ってくれば何かと家の事を手伝ってくれている。テレビをみて感動した、とかいうのでない限り、もうずっと泣いているのを見た事はない。その妹が。


「おにいちゃん」


 弱々しくつぶやいて、声を上げて泣き出した妹の姿に、俺の中の何かがキレた。


「俺の妹に彼氏がいなかったら、なんだっていうんです?」


 なんとか感情を抑えようとしながら発した言葉は、逆に、強い怒りをにじませてしまった。妹以外の三人、南塚さん、チーフ、岡田が硬直して俺を見た。


「え、妹? 高城君って、天涯孤独の身だったんじゃ」


「どこ情報っすか。大学に入学したのを機に、一人暮らしは始めましたけど。

 両親も健在だし、妹だけじゃなく弟もいますよ」


 大股でずかずかと踏み出し、岡田と妹の前に立って、チーフと南塚さんをじろりとみながら、つい、嘲笑を含めて言ってしまったが、イライラが増してきて抑えが利かない。だいたい、かわい子ぶってだの、男を釣ってだの、白蘭女子に通っているから妥協できるだのと。うちの妹をなんだと思っていやがる。


「ええ、そうだったんだあ、勘違いしちゃった。

 妹さん、可愛いねえ。私たち、仲良くやれそう」


「高城君、きみね! だましたのか!」


 媚びるようにクネクネしだした南塚さんと、顔を真っ赤にして怒鳴るチーフに、イライラゲージ急上昇。騙したってなんだ。

 目の前に立つ二人が、揃ってびくっと怯んだ表情を浮かべた。俺の発する空気に、シャレにならない殺気でも感じ取ったのだろう。

 

「もう一回聞く。俺の妹に彼氏がいなかったら、なんだっていうんだ?

 妥協して付き合ってやるとか、仲良くできそうとか、なに寝ぼけた事言ってんすか。

 あんたら、アタマいかれてるんじゃねえか?」


 じり、と、一歩分距離を詰めると、何か言い返そうとしたのだろう、ぱくぱくと口を動かしたが声も出せず、詰めた距離の分だけ後ずさった。


「待って、高城君」


 岡田に声を掛けられ、右腕を引かれて、はっとした。いかん、コイツ等はこれでもバイト先の先輩。けれど、このままなあなあで済ませるつもりもない。せめて、きちんと妹に対する非礼だけでも詫びさせたい。ぎっ、と二人を睨みつけた時、通用口のドアが開いた。

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