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その翌々日、いつも通りバイトの勤務中、普段はあまり店舗に姿を見せない本部の人が来た。秋元さんといって、三十代半ばくらいの男性で、実際の年齢より穏やかで落ち着いて見え、仕事には妥協しないといった風な、凛とした感じのする人で、ほとんど話した事はなかったけれど、出会ってすぐの頃からなんとなく尊敬できるな、と、好感を持っていた。
秋元さんが来るなんて、今日はちょっとラッキーだ。
「こんにちは」
「こんにちは、高城君。今日は人、少ないね? 誰か急な休み?」
聞かれてフロアを見回すと、だいたい4~5人はいるはずのスタッフが、俺ともう一人、専門学校に通っているという、おとなしそうな男だけしか姿が見えない。
「あれ? チーフと、確か、南塚さんもさっきまでいたと思っていたんだけど」
フロアを離れる時は、トイレだろうと倉庫に用事があるのだろうと、残っているスタッフに声を掛ける決まりになっていて、これはかなり厳しく徹底されていた。なのに、従業員が二人もいない。
「高城君、聞いていないの?」
「えっと、ええ、はい」
二人はきっと、叱責される。告げ口をしたみたいな気がして、曖昧に返事を返すと、秋元さんは困ったように眉を寄せた。
「どこにいったんだろう、バックヤードかな?
ちょうどお客さんも途切れているみたいだし、悪いけれど探してきてくれない?」
秋元さんの言葉に、はい、と、素早く返事をして、二人の姿を探しながら、小走りに駈けだした。
ここだろうと思っていたバックヤードには、誰もいなかった。レンタルコーナーの隣はCD、DVD、ゲームの販売コーナー、ざっと見回したが、いない。
本の販売コーナーに移動したが、こっちは段違いに広い。手前の雑誌売り場は見通しがいいが、奥のコミックや文庫本、実用書の売り場は棚が高く、いちいち通路ごとにのぞき込まないといけない。まいったな。
焦りながら、どの順路で回ろうか思案していると、声を掛けられた。本売り場のバイトで、陽気でノリの良いキャラの男。担当コーナーは違うが、一番話しやすいヤツだ。
「高城ちゃん、慌ててどしたの? さっき、そっちの偉い人行ったでしょ?」
本コーナーは店舗入り口に一番近く、レンタルコーナーに行くには、ここを横切る。秋元さんが入ってきたのを見ていたのだろう。
「おう、それが、チーフと南塚さんがいなくなっていてさ。探してきてくれって言われたんだけど」
俺が焦れたように言うと、ああ、と、何かを覚ったようににやりと笑いながら頷いた。
「あの二人、ねえ。さっき、喫煙所の方に歩いて行くの、みたよ」
建物の裏手に従業員用の出入り口があり、その少し先に灰皿が置いてあるだけの喫煙所がある。自転車で来た人や近所の裏道に詳しい人が時折通る程度の細い通りには面していて、雨避けのひさしがあるだけの屋外だが、屋内禁煙のため、煙草を吸う者はみなここを利用する。
南塚さんはたまにタバコのにおいをさせている時があったが、チーフも吸うとは知らなかった。
「そっか、ども」
行き先の目途がついて、ほっとして礼を言い、正面入り口から店舗の外へでた。




