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P46

 レンタル店でのバイト中、視線を感じて振り向くと、制服姿の妹、瑞穂がにこにこと立っていた。俺が気付いて軽く手を挙げると近寄ってきた。


「こんな時間に、って、そうか、テストだったんだっけ」


「うん、今日まで。やっと終わったから、なにかDVD借りて帰ろうかなって。

 おすすめの、何かある?」


 妹の好きな俳優の映画が、しばらく前に入荷していたのを思い出して、レジ前の新作の棚へ連れて行った。


「わ、これ、もうDVDになっているんだ」


「まだ観ていなかったか?」


「うん、これにしようっと。あ、こっちも観たいと思っていたの。

 今日、お父さんもお母さんも、帰り、遅いんだって。泊まりになるかもって。二本とも借りちゃおうかな」


「一応受験生だろ。ずい分余裕だな。あ、ちょっと待って」


 新作の棚に一緒に並んでいた別な作品も手に取った妹に声を掛けて、機会があったら借りようと思っていたDVDを手にしてすぐ戻って手渡した。


「これもついでに借りておいてくれ。今日はそっちで晩飯食うわ」


 大学に入学したのを機に、アパートを借りて一人暮らしをしていた俺は、ちょくちょく家に戻り、弟と妹の勉強を見て、家庭教師代替わりに晩飯と風呂を使い、まだ部屋に置いたままの二段ベッドに泊まる事があった。

両親の帰りが遅いというなら、もう高校三年と、中学生になったとはいえ、弟妹だけの留守番は多少の心配もあった。


「今夜、泊まるの?」


「どうするかな、明日はバイトのシフトも遅めだしなあ、泊まってもいいかな」


 妹と話しながら、レジのカウンターに移動して、レンタルの手続きをした。


「晩御飯、しょうが焼きにするよ」


「お、いいねえ、キャベツ大盛りで」


 最後の「キャベツ大盛り」は、妹が言葉を合わせてきたので、そのいたずらっぽい表情につられて笑ってしまった。


「気を付けて帰れよ」


「うん」


 DVDの入ったレンタル用の袋を大事そうに抱えて、手を振って帰っていく妹を見送った。

 晩飯、しょうが焼きか。キャベツの千切りだけじゃなく、ポテトサラダもあるといいな。あと、ネギかワカメの味噌汁も。

 妹は早くから家事を手伝っていたせいか、料理の腕前はなかなかのものだ。場合によっては、母親よりうまい。

 楽しみがあるっていうのは、働く原動力になるな。他のヤツにとって、くだらない事だったとしても。それから後の業務を、鼻歌混じりにこなし、しょうが焼きの待つ実家マンションへ向かうためにいそいそと着替え、ロッカー室をでたところで南塚さんと鉢合わせた。


「あ、ども、お先っす」


「ね、高城君、彼女いたんだあ? 高校生?」


 は? 彼女? 高校生って、ああ、妹の事か。

 すれ違いざまに呼び止められて振り向き、思い当たって否定しようとして、やめた。


「はあ。じゃ」


 わざわざ相手をして会話を引き延ばされる事はたびたびあった。根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だし、聞き流して会話を強制終了させて、後で折を見て説明すればいい。今日の俺の最優先事項はしょうが焼きだ。

 少し減速した足を完全に止める事なく、再び小さく頭を下げてその場を後にした。

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