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「教師、ですか」
「うん、まあ、労力と実働時間から見たら、給料がいいとはいえないし、ステータスも、イマドキ聖職者ってモンでもないし、ま、あれだけど」
教師。学校の、先生?
「でも、大変でしょ? 俺は、そんな」
「大変っちゃ、大変だよ。
ちょっとした言葉や態度で生徒の人生を変えてしまうこともある。責任も重い。
けど、お前、教師に向いている気がするんだよな」
鼓動が早くなる。
教師? ふいに、校庭で小学生たちとドッヂボールをしている自分の映像が過った。子どもたちも、俺も、笑って。なんだよ、ヤバイな。
唇を噛んで俯いていると、椎野がぽつりと言った。
「なんつうか、高城と俺って、似ている気がするんだ」
似ている? 椎野先生と、俺が?
思わず眉を寄せていると、椎野は困った風に頭を掻いて、一旦口をぎゅっと結んでから、話しを続けた。
「俺は、中学ではバレー部のキャプテンやっていたんだが、高校は、家からチャリで一時間近くかかる公立の進学校で。バイトやる事にもなっていたし、バレー部には入れなくて。
俺には、姉貴と、弟と妹がいてさ、姉貴は高卒だったし、ぶっちゃけ、学費の事で親に遠慮したっていうか、東京で一人暮らしさせてくれとか、私大行かせてくれって、言い出せないのもあったし、親も、お前は長男なんだから地元に残れ、って、言われていてな。
他に選択肢も、あんまりなくて、家から通える国立大の教育学部に進学したんだ。その頃は、教師になりたかったわけじゃない。ちょうど条件に合っていた大学で、しいて言えばそこかな、程度で。
少しでも学費の足しにって、空いている時間はできる限りバイトしよう、って決めて。教師になれば忙しいだろうし、もう一生、バレーはできないだろう、って思っていたな」
心臓が、ぎゅっとした。確かに似ている。けど、直接話した訳じゃないのに、俺の思いまで見透かされて、知られてしまっているようで、すごく恥ずかしい気がした。
「けど、たまたま大学で中学のヤツと一緒になって、バイトをしながら、バレーのサークルに入って。必死に打ち込むようなサークルではなかったんだが、バレーの仲間と、合宿して、遠出もして。飲んで騒いでバカやって。
大学を出て、教師になって、今は、バレー部の副顧問だろ?
中学の部活仲間は、自分でも趣味のバレーチームに所属しているし、ママさんバレーのコーチもしているんだと。
プロになるだけが道じゃない、こういう続け方もあるんだなって思ったんだ」
「いや、俺は、バレーとかは、もう」
変な不快感が湧いてきて、こんな話、とっとと終わりにしたくて、不機嫌な言い方をしてしまうと、椎野先生は身を乗り出した。
「お前、高校に入学する前に、ここ、来ただろ?」
一瞬、何の事だかわからなくて、思い出して、焦った。硬直している俺を見て、椎野は笑いながら続けた。
「下の道路で、バレーの練習をしている体育館、見上げていたよな。
俺は、ああ、あの中坊、バレー部に来るんだなって思ったんだ。
まさか特進で、俺のクラスになるとは。予想は大きく外れたが」
気づかれていたなんて。恥ずかしすぎて拷問レベルだ。
「クラスマッチを見ていても、思った。
好きなんだろ? バレー。もちろん、どんな職業に就いたって、バレーができないわけじゃない。けど、それ、ガキどもに教えてやらないか?」
やばいよ、先生。
教師とか、重労働で、薄給っていうだろ? なんで、俺に教師なんて勧めるんだよ。
なんだか泣きそうになって、やっと、考えてみます、とだけいって、進路指導室を後にした。




