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 高校二年の三学期。

 三年に進学する時点で、ほとんどのヤツがだいたいの進路先、志望大学を決めておくように、と、指導され、個別面談なども増える。

 なんとなく、気が乗らなかった。

 金に困らない職に就こうという決意はしたが、それに対する抵抗もあった。仕事って、金だけのためにするものなんだろうか、収入にそんなに固執してしまっていいのだろうか、と。

 好きな事を仕事にするといっても、バレーで食べていけるなんて思っていないし、人生をかけて打ち込む何か、みたいなものがあるわけでもない。

 金、金っていいながら、金より大事な物がある、とか、庶民の価値観だな、と、自嘲する時もあるし、能力を最大限に使ってバリバリ働いて評価され、その対価が得られる事自体が歓びになっていくんじゃないか、という思いもある。

 そんなわけで、自分の目指す方向性もちゃんと決まらず、希望の職種もはっきりせず、だから、学部を選ぶのも、なんだか後回しになってしまっていた。

 クラスの連中は、ぼちぼち目指す大学も決まり始めた、ある日、担任に呼び出された。一年の時と同じ、歴史担当で、バレー部副顧問の椎野先生は、進路指導室のシンプルな応接セットの向かい側に座り、資料を捲った。


「さて、と、高城、進路先、決まったか?」


「いえ、まだ」


「ふうん、そっか」


 教室で話すのとは違う、微妙に緊張した沈黙が降りた。気まずくて、とりあえず会話を繋がなきゃ、みたいに思って、質問してみた。


「ちなみに、他のヤツラって、どんな進路先を希望しているんですか」


「んー? 他のヤツか? クラスの奴らとそういう話、しないのか?」


「ええ、まあ」


「そっか、ふむ、ちなみに、なあ。

 神崎は、経営学部に進学希望だっていっていたが、それは?」


「経営学部?」


「社長になるんだと」


 外食、ホテルを中心とした大きなグループ企業、コウサキの次男坊のいっちは、家族とあまりうまくいっていない、親に棄てられたと言っていた。付き合っているうちに、やはり多少気になってうわさレベルの話を拾い聞きして得た情報では、入り婿した現社長である父親より、実権を握っているのは先代の社長、いっちの母方の祖父だという。

 いっちは、「兄はブサイクで暗くて頭の悪いとろいヤツ」「跡取りの座を脅かす邪魔者だって、優秀な次男坊の自分を、リュシオル学院から追い出して蓬泉に入学させた、親に棄てられた」と。そして、その実権を握っている祖父は、多忙の中わざわざこっちに来ていっちを高級フランス料理店に誘い、その翌日、一緒に車で数時間かかるリゾートホテルの視察に付き合わせた。俺も、いっちからその地方限定のお菓子をお土産にもらった事を思い出した。

 まさか。

 俺の表情を読んで、椎野が笑った。


「いやいや、違うんだ、家を継ぐとかじゃなくて、自分で会社を興すんだそうだ」


「自分で、って、何の?」


「それがなあ、まだ決まっていないんだと」


「は?」


「業種はまだ決めていないけど、社長になる、って。

 いろんな人と関わって、働いている人も、取引先の人も、お客さんも、みんなが、この会社があってよかった、関われてしあわせだって思える会社をつくるんだと。

 そして、いざっていう時、誰かを助けられるような力をつけるんだ、ってな。

 突拍子もない話だが、なんていうか、あいつらしいなと思ったよ。いい夢だな、って」


 いっちが、そんな事を。

 確かに、いっちらしい。というか、俺が知る限りでは、そんな事を現実にしようなんて本気で思っているのはいっちくらいのものだ。


「高城は? なんか、漠然とでも、そういうのないのか」


「漠然と、ですか。まあ、なんていうか。せっかくそこそこの成績取れているし。

 やっぱり、給料が良くて、ステータスが高いっていうか、そういう職業かな、とは」


 言いながら、情けなくなってきた。ちっせえな、俺。そうだ、ちゃんと向き合おうとすると、やっぱり、情けない。逃げたくなるのも当然と言えば当然だ。いっちの描く未来との差が、俺を昏くする。


「高城」


 凹んで視線を落としていると、名を呼ばれた。


「お前、教師目指してみないか?」


 は? 椎野先生の突然の提案に、唖然とした。

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