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P35

 誰かを好きになる事が、それが、相手が同性で、宗教やら道徳やら、常識だとか世間だとか、そんなものの中で、罪だとされていたとして、そこまでひどい悪なのか?

 修や、いっちの思いは。

 神は、罰するというのだろうか。こんな風に、怯えながらも、全ての罪を一人で背負おうとする修の事まで。


「とまと」


 ふいに、修がかすれる声で言った。ん? と、いっちが問い返すと、


「いっぱい、とれた?」


 と、弱々しく口元に笑みを浮かべた。いっちも、無理やり微笑んで、


「うん、真っ赤なのね」


 と返すと、修はほっとしたように、うん、と頷いた。

 二人だけが共有している時間がある。沸き起こった感情は、嫉妬。こんな時にまで。俺は。

 いっちが、震えて目に涙を浮かべている。

 想いが罪だと言うなら、俺だって同罪だ。いや、卑怯な分、ずっと醜悪だ。罰するなら、俺だけを罰すればいい。だから、救ってくれ。こいつらだけは。


「どうした。佐倉?」


 大人の声に、ガチガチにこわばった肩からわずかに力が抜けた。担任の椎野先生が、しゃがんで修の様子を窺いながら声を掛ける。


「以前にも、クラスマッチの時に同じような発作を起こしました」


 喉の奥が乾いて、声が震える。先生は俺の言葉に眉を寄せ、修に、すぐ救急車が来ると告げた。


「いつき」


 苦しげな修に、いっちが再び耳を寄せた。


「唯が、救急車、怖がるから。だから、そばに」


「唯ちゃんより、自分の事を心配しろよ。

 唯ちゃんは、おばあちゃんと家にいる。そうだろ? 修が心配しないでも。

 謝る事なんて何もないんだよ」


「うん、ごめん。ごめんね」


 ゆいちゃん、確か、修の飼い犬の名だ。いっちの頬を、涙が伝って落ちる。

 と、修が、う、と、胸を強く抑えた。まさか、このまま? そんなはずはない。指先が冷たく固まっていく。修。

 救急車のサイレンが聞こえ、慌ただしくストレッチャーが教室に入ってきて、意識のない修が運ばれていった。


「修は心臓が悪いのかもしれません。年に1、2回、こういう発作があるって聞いています、僕も病院にいきます」


「生徒は学校で待機だ」


 必死ないっちの訴えは、あっさり拒否されて、椎野先生は救急隊員と共に教室を出て行った。

 呆然と、立っているしかなかった。

 修は大丈夫だろうか。唯一考えられる事は、それくらいで。

 だから、いっちから名を呼ばれても、ぼんやりと振り向くしかできなかった。

 いっちは、予想もしていなかった目で俺を見ていた。強い怒りが滲む。


「修に、何言った?」


 あれ? なんで? なんで俺がキレられているんだ?

 いっちの真意がわからなくて、唖然として立っている俺の制服の襟を、思い切り掴まれた。


「修に何を言ったってきいてんだよ」


 え。俺、修に何か言ったか? トマト? いや、それより前か?

 俺はアホみたいにぐるぐるそんな事を考えていた。


「ちがう」


 斜め後ろ辺りから、女子の声が聞こえて、いっちは動きを止めた。


「戸川君が」


「てめえか」


 いっちは、俺の制服から手を離し、ゆるりと振り向いた。まずい。

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