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明るく、軽い調子で迎えてやろう、と思った。
成績は、修ならきっと次には持ち直す。いっちも、同じだ。
まだ一年生、これからいくらでも挽回できるし、たいした問題じゃない、と。
「チビいから、せっかく必死に一番前の席、キープしていたのにな。
3学期は俺の後頭部で、黒板、見えづらくて大変だな」
教室後方の席の戸川が、揶揄するように修に声を掛けた。
チリ、と、心の中で放電する。やめろ。もう、修に何も言うな。
修は、一瞬立ち止まり、ちらりと一瞥し、無視してさらに進んだ。
「相方の神崎、来期5組落ちだって?」
修は目を見開き、ばっと振り向いて声の主をみた。修は、いっちが大幅に成績を落とした事を、まだ知らないのかもしれない。
「ま、218位じゃ、特進落ちでもおかしくないけど。
とりあえず今回は温情ってやつ? 副委員長は再選挙か、無責任な話だよなあ」
ニヤニヤ笑いながらいう戸川の言葉を、女子生徒の、やめなよ、という厳しい声が遮った。
「そんな、なんで伊月が」
「修」
戸川に食って掛かろうとしていた修に、咄嗟に声を掛けた。戸川の周りには、ちょっと行き過ぎたふざけ方をするヤツラが一緒に笑っていた。これ以上、誰も傷つけさせたくない。
修は不安そうな目で俺を見た。そう、そのまま、そいつらは無視した方がいい。いっちの事は、俺が話す、と。
「おまえらさ、怪しいよな」
修の、俺の方へ向きかけていた意識は、再び戸川に引き戻された。何が狙いなんだ、戸川。修の反応に満足そうに、胸を反らせて嗤う。
「あれえ、図星? なんだよ、お勉強ってなんの勉強してたわけ?
ちゅーとかしちゃってんの。ホモとか、まじきもいんだけど」
周囲のヤツラが、ヒュー、と、口笛を吹いてからかうように、見下すように吹き出した。
お前らに、何がわかる。
かっと、一気に感情が逆立ち、視野が狭くなったように感じた。
修、何も言わなくていい。そいつらに、悟られて穢されるような事だけは。
ほぼ無意識に席を立ち、修をかばおうと勢いよく二人の間を目指して歩いた。
「何言ってんだよ、お前等、いい加減にしろよ。修、相手にする事ないぞ」
激昂のまま、戸川を見ると、勝ち誇ったようなカオで俺を見ている。
コイツ。
俺の言葉の微妙なニュアンスで、いっちと修の事に気付かれたのかもしれない。
庇うつもりで、俺のせいで。
「へえ、ホモ仲間の友情ってやつ?
そんな事言ったって高城、お前、前にいる二人がこけて、順位あがってラッキーだったよな」
貶めて、引き裂くつもりか。修と、いっちと、俺と。
「なんで、伊月や湊の事、そんな風にいうんだよ」
「修、よせ」
修、もういい、これ以上、何も言うな。今は、俺たちが何を言っても、どんな結果になろうとも、あいつらを喜ばせるだけ。何の得もない。




