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P32

 いっちのイライラは、日を追うごとに激しくなっていった。

 提出物はほぼすべて未提出、授業中の態度も悪くなり、先生に注意されれば不貞腐れた態度をとる。俺が諌めようものなら、倍になって返って来て、さらにそんな態度をとるいっち自身が、自らに苛立ち、周りに当たる。

 言えばいうほど追いつめてしまいそうで、腫れ物に触れるように接してしまっていた気がする。そうなると、いっちはさらに殻に閉じこもって孤立した。

 ある日、いっちは職員室に呼び出された。閉じこもって苦しんでいるのは、修も同じだ。せめて、少しでも楽になってくれればと思い、声を掛けた。


「いっちとなんかあった?」


「なんか、って」

 

「ケンカでもしちゃった?」


 動揺したように口籠る修に、きっと、俺と同じように心配していたのだろう、早瀬が、穏やかに問いかけた。修は、さっと頬を赤くして、不機嫌そうに俯き、


「なんでもないよ」


 と言った。

 早瀬は、焦れた様にさらに何か言おうとしていたけれど、俺は、怖かった。いっちのように、修を追いつめてしまう事が。さらに何かを言おうとしていた早瀬を遮り、


「なんか思うとこあるなら、言えよ。せめて、俺らには」

 

 と言うのがやっとだった。

 早瀬も察してくれたのか、口を閉ざして、かすかに笑みを見せ、頷いた。


 俺ができる事があったら、何でもしてやりたかった。俺にしかできない事が、きっとあったんだろうと思う。気が焦るばかりで、全くいい対応ができなかったが。

 日々の苛立ちは、規則正しく生活し、勉強に集中することで必死に抑えた。

 弟はあの台風の日以降、また穏やかな様子に戻っていたが、どこか無理をしているような気がしていたし、両親も、不穏さを隠そうとしているように感じていた。せめて、これ以上ギスギスした雰囲気にならないよう、落ち着いていなければ。成績を、下げるわけにもいかない。

 結果、二学期末の実力テストは、荒れた。

 成績表が貼り出され、愕然とした。俺が思っていた以上に、いっちの態度はクラスの連中に影響を与えていた。いっちの、ある意味天才的に周りの空気を変える才能みたいなものが、まともに裏目に出ていた。


「みー」


 いっちに声を掛けられたが、言葉が出なかった。


「担任に、職員室に来るように言われたんだ。行ってくる」


 いっちが言われるであろうことは、予測できた。

 常に学年1位だった修ですら、大幅に順位を下げた。

 俺は2人が下がった分、わずかに順位を上げ、早瀬も、俺が知る限り、自己最高順位をとっていた。

 けれど、それ以外のクラスメイト達は。

 俺のせいだ、と思った。いっちも、修も悪くない。ちゃんとできなかった、俺の。

 一通り成績表を確認して、ざあ、と、血の気が引き、締め付けられるほど、鼓動が激しくなった。クラスメイトの顔を見る事が怖い気がして、大股で教室を横切り、自分の席に着いた。

 修もまだ戻って来ておらず、空席になっている。修は一組に残れる成績をとっているが、いっちは、だめだ。特進コースからすら外れてしまう。他のクラスメイトも、一組を落ちる成績のヤツが多い。

 バクバク鳴る心臓の音を抑えるように俯いた時、


「湊君」


 と、声を掛けられた。早瀬。声に、不安そうな響きがこもる。


「まあ、自業自得だな。いっちは椎野に呼び出されて職員室に行った。

 早瀬は順位あがっていたな、おめでと」


 平静を装っているのは、気付かれているだろう。

 早瀬が何か言いかけて口籠った時、ざわ、と、教室の空気が後方へ集まる気配がした。視線を向けると、自らが注目されている事にわずかに驚いた風の修が立っていて、俯きがちに自分の席、教室最前列窓際、俺の座っている方へ歩き出すところだった。

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