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高校一年の二学期まで、俺といっちと修は、いつも三人一緒だった。
いっちは、学校近くの高級マンションで一人暮らしだったから、だいたいそこに集まっていた。三人は、全くタイプが違っていたし、俺と修、俺といっち、修といっち、それぞれ似ていて近い部分もあった。
修は驚くべき記憶力と演算能力の高さを持ちながら、天然で応用が利かず、可愛らしく俺たちを振り回した。
いっちは、自覚していないかもしれないが、実はかなりの努力家。で、発想力がハンパない。自由人に見えて、意外と常識にとらわれる部分が多く、修の行動や発言に「え、普通そんな事、しないよね、言わないよね」と、心底動揺してみせる。まるで漫才だ。
気を使わなくてよかったし、楽しかった。学年トップと二位の親友たちに感化されて、俺の成績も上がった。
夏休みに入ってからも、午前中はほぼ毎日講習があり、いっちのマンションで簡単にお昼を作って午後の時間を過ごした。
修の集中力と気遣い、いっちの勉強方法。成績がいいヤツっていうのは、ちゃんと理由がある。勉強をするっていう事が、自然で当然の行為という認識なんだ。あいつらといると、刺激があって、飽きずに勉強できた。
いつまでもいっちの部屋にゆっくりしていたかったけれど、弟を塾に迎えに行くのは俺の役目だったし、家の事も、妹に任せきりという訳にはいかなかった。夏のまだ明るい夕刻、早々に帰ろうとすると、いつも、修も一緒に荷物をまとめて立ち上がった。
その日もいつものように、そろそろ帰ると言うと、いっちが突然、これから外にメシを食べに行こうと言い出した。
俺は、家の事もあるし、外食が嫌いだという事は再三言っていたので、それを理由に断った。修も乗り気ではなかったようだが、いっちの必死さに押し切られるように渋々了承した。
一人でエレベーターに乗り込み、華やかなエントランスを出て、さっきまでいた、いっちの部屋を見上げた。
俺がいなくなった後、二人で何を話しているのだろう。これから着替えて夜の街に出るのは、どんな感じだろう。胸に湧き上がるモノを振り払うように歩き出した。