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P14

 戻りながら、考えた。

 先生にうまくいっておくとは言ったけれど、さて、どうしよう。

 修の具合が悪いとそのまま先生に言えばいい事だけれど、なんていうか、キャラ的な感じで、重く受け取られがちな気がする。だったら無理せずに見学しろ、試合には出るなと言われそうだ。

 修はきっと、先生に強めにそう言われたら、さして反抗もせずに受け入れてしまうだろう。本当に具合が悪いのなら、我慢して試合に出る事はない。けれど、今まで練習して来て、そんな風にチャンスを取り上げられるのは気の毒な気がする。

 体育館には、各学年、クラスごとに並んで整列していた。一年一組は、一番奥側。小走りに近付くと、腕を組んで立っていた椎野先生が声を掛けてきた。


「おう、高城、遅いぞ」


「すみません、いっち、神崎が、えっとー、ハラ壊して。なんか、怒涛の滝、とか、そんな感じで? で、佐倉が一緒に付き添っています」


「はあ? ハラ? 便所に付き添ったってどうにもならんだろうに。

 しょうがないな、早く座れ」


 ういーっす、と少しおどけた様に言って、わずかに空いていた列中央くらいの位置に割り込むようにしゃがんだ。

 女子数人が、クスクス笑っているのが聞こえる。まあ、いっちなら何とかうまく空気を切り替えてくれるだろう。

 気にしていない風を装って、内心焦りながら二人を待った。遅い。

 修は、大丈夫だっただろうか。

 前方に並んでいる生徒会のヤツや先生たちの動きから、そろそろ開会式が始まりそうな気配がする。

 様子を見に行った方がいいだろうか、けれど、今動いたら、先生が「自分が見てくる」と言い出すかも。逆にその方がいいのかもしれないが、修は気にするだろう。

 葛藤していると、滑り込みセーフと言ったタイミングで、修といっちが並んで駈けてきた。


「おまえら最後だぞ。二人は一番前な。早く座れ。

 神崎、もう下痢は大丈夫なのか」


 ほっとしたような表情を浮かべた椎野先生が声を掛けると、いっちは、はああ? と、目を見開いて固まって、ばっ、と、こっちを睨んできた。

 どんまい、と心の中で呟いて視線を逸らすと、


「おなかを壊したのは僕です」


 と、修がフォローする声が聞こえた。ちょっとハラハラしたが、すぐに開会式が始まったので、それ以上は誰も突っ込まずに過ぎた。


 一回戦の対戦相手は十一組。どこか微妙にヤンキーっぽく、ノリのいい連中だったが、真面目に取り組んでミスをするのは格好悪い、といった空気が漂うチームだった。

 運動神経が良く、経験者らしいヤツも数人いるらしく、そこそこ形になってはいたものの、結局付け焼刃。いいサーブやちょっと強めのスパイクを打てば拾えない。

 我がチームの経験者、須貝君は、守備範囲を広くして、ふわりと優しい球を修に集め、修はその球をきっちりトスしてくれる。

 相手には悪いが、バレーは点差が開いていてもちょっとした雰囲気で逆転されてしまうスポーツだ。

 こっちも手加減する余裕があるわけじゃない。お互い、ラリーが長く続くほどの技術もなく、短い時間の試合だったこともあって、一組が圧倒的な強さで勝利、という結果になった。


 問題は、二回戦目の対七組戦。

 一回戦の様子を見たが、経験者らしいヤツが六人中四人。残りの二人もなかなかの動きをする。粒揃いの、穴のないチーム。

 当たり前だが、バレーは、ボールを自コートの床に落とさなければ負けない。ラリーが長引くほどに、経験不足の一組は不利だ。

 ま、始まる前から気に病んでも仕方がない。一回戦を余裕で勝ち抜いた事で、みんなの士気も高まっているし。


 いざ試合が始まって、格の違いってヤツを思い知った。七組は、強敵なんてもんじゃなかった。ぶっちゃけ、すっかり遊ばれている。

 試合開始前のやり取りを思い出す。七組が強敵なのは、すでに学年中が気付いていた。


「次の相手、七組? うわ、もう終わったな」


「一回戦、勝てただけでもよかったよね」


 なんで、始まる前から諦めるんだよ。怒鳴りつけたいのを堪えて、まあまあ、となだめる様に皆を見回した。


「そういうのは、やるだけやった後で言おうや。練習なら精一杯してきた。

 せっかくの舞台、全力出して思いっきり楽しんで来ようぜ」


 これには、修といっち、須貝君が大きく賛同してくれた。他のチームメイトも、ま、そうだね、と、好意的に頷く。練習の成果は、技術の向上だけじゃない。

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