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P10

「空いている時間、っていっても、湊も忙しいと思うんだけど、バレー、練習付き合ってもらえないかな。スケジュールはそっちに合わせるから」


 へ? バレーの自主練習? ぽかんとして修の顔を見つめてしまった。

 必死そうな、縋るような目で俺を見返している。なんだよ、やる気、あるんじゃないか。なんかもう、めちゃくちゃうれしくて、にやけてしまう口元が抑えられない。


「よく言った、自分で言い出したんだから、厳しくても文句いうなよ」


 そういうと、一瞬怯んだような目をして、力強く頷いた。


「じゃ、僕も一緒に練習しようかな」


 いっちもかよ。やばい、うれしい。けど、とにかく時間がない。


「よし、早速今から練習だ。さっさとメシ食っちゃおうぜ」


 急かす俺に、驚いて戸惑う様子を見せた修は、こくこくと頷いて慌てて昼食を口に運んだ。


 俺と修といっちの三人で練習を始めて二、三日後には、須貝君も練習に参加するようになった。

 ダントツに下手なのは修だけだったけれど、何度失敗してボールを明後日の方向にすっ飛ばしても、へこたれずに走ってボールを拾いに行き、もう一度、と、挑戦し続けていた。

 修は、確かに身体能力が高いわけではない。体が思うように動かないもどかしさに、苛立ちよりも、俺たちに対する申し訳なさの方が強いらしかった。上手くならせてやりたい、と思った。


 数日後、妙な違和感を覚えた。

 はじめはその理由がわからなかったが、修とボールをやり取りしているうちに気付いた。修が、ちゃんと動けている。いや、相変わらず、しょっちゅうボールを弾いてしまうけれど。

 例えば。

 バレーを始めて真っ先に叩き込まれた事の一つに、進みたい方向の足から動かす、というのがあった。右に移動したかったら、右足から、というわけ。これを完全に体に馴染ませるために、腰を落として反復横跳びのように左右に移動する練習を延々繰り返したものだ。慣れてくれば呼吸するように自然にできるようになるが、それにはどうしても時間がかかる。

 修は、それがちゃんとできている。腰を落とした姿勢、顎を引いてボールから目を離さない、など、教科書通りというか、基本に忠実。実際にボールを受ける前の状態だけを見れば、「ああ、バレーをやっていたやつなんだな」と思えるような動きをする。こんな、たった数日で。


「修、姿勢、ちゃんとしているな」


「そう? 湊が教えてくれたから。それに、本で見たし」


 淡々と言う修の言葉で、なんとなく、わかった。

 修は、体に覚えさせるより先に、頭にほぼ完ぺきに記憶させているんだ。運動神経の無さを、無理やり頭脳で補完しているってわけか。

 修は、元々、とても素直な性格をしているんだろう、どんな理由だったにしろ、基本に忠実なヤツは伸びる。一回「こうした方がいい」と言った事は、次からきちんと言ったとおりに動く。体が追い付かなくとも、少なくとも、動こうとする。「さっき、こう言っただろう、同じ事を言わせるな」という事が、一切ない。忘れない。繰り返していれば、さすがにコツを掴んでくる。と、なると、加速度的に動きが良くなった。

 演算能力の高いスーパーコンピューター、と言ったところか。

 相手の動きを見る余裕がでてくると、瞬時にボールの軌道を計算してはじき出し、一歩を踏み出す。運動神経がいいヤツだったら、勘と反射で動く場面で、それに頼らず、次に、どこにどう動けばいいのか、ちゃんと一瞬前にわかっているようだった。

 筋力が少なく、背の低い修は、レシーブやアタックより、トスの方が向いていた。

 欲しいところに欲しいタイミングで、正確で気持ちのいいトスが来る。そう告げると、心底喜んでくれて、さらに熱心に練習に打ち込むようになった。

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