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 花の女子高生生活が始まって一週間。ついてない私はジャンケンで負けて面倒な図書委員に任命され、委員説明会の行われる教室に急いで向かっているところである。話の長い担任の先生のせいで帰りのホームルームが延びてしまってギリギリなのである。にやにやしながら見送る宇美ちゃんに怒る余裕もなかった。やはりついてない。この学校に受かったのも偶然姫様のご加護をいただけたことからのウルトラCなのだろう。


 図書委員は各クラス1人選出され、全部でAからFの6人だ。外部の司書さんが来るのは週2日で、それ以外の日に2人一組で図書当番が回って来る。つまり週一回は昼休みと放課後が潰れてしまうのだ。めんどいね! こんな仕事誰もやりたくないから、ジャンケン勝負もみんな必死だった。私は気迫でもう負けていたのだ。ちなみに宇美ちゃんは最も楽な保健委員にちゃっかり収まっていた。怪我したり気分の悪い級友を保健室に引率するだけの、楽チン仕事である。うらやまけしからん。


 この一週間、未だ姫様が見つかる気配はない。そもそも顔から知らないという体たらくだから、お話して雰囲気や声、話し方を見て見つけ出すしかない。部活に入る予定のない私にとって、図書委員は人との関わりを増やすいいきっかけになるかもしれない。人脈は宝なり。


 階段を一段飛ばしで駆け下り、ダッシュで廊下を走り、教室の扉を開ける。中にはもう生徒が集まっており、一瞬空いている席が見えず焦ったが、奥に空いている一角を発見したので滑り込んだ。先生まだ来てないや、セーフ!


『……!』


 セー…フ? 周囲の生徒たちが何か恐ろしいものでも見たように顔を青ざめさせて、こちらを見ていた。ざわ…ざわ…という擬音が似合いそうだ。

 え? 私なんかやらかしたか? まさか、座ったらいけない席だったとか。それはいけない!

 人見知りする方なのだが、仕方がない。隣の席の人に聞こう。


 しかし、横を向いた私は、声を出すことができなかった。




 整った顔は親近感ではなく、畏れを感じさせる。精巧な人形のようで、温かみがなく冷ややかである。引き結ばれた唇は冷厳。切れ長の目には、黒い瞳が研ぎ澄まされた刀のように鈍く光っている。同じ高校生とは思えない、威圧感。




 ここに人が全然いなかったのは、彼を避けていたせいだったのだ。

 ない頭で思い至ったとき、凝視し固まっている私に気付いたのだろう、彼がこちらを向く。


 目が合ったら視線で射殺いころされる!!


 ばっと俯いた。あからさますぎたよね…失礼だったよね…でも怖くて顔を上げられない。顔の片側に温度の感じない、無機質な視線を感じて冷や汗が流れた。


 ああ、やっぱり私、ついてない。


 心の中で泣いた私だが、結局まだ、自分の不幸さを甘く見ていたのだ。

 E組の私のペアはF組の子である。

 もしF組の子が姫様だったら、少女漫画の設定のように理想的なハッピーエンドだろう。だなんて夢想する余裕もあった。

 委員説明会の間中、隣のプレッシャーに耐え続けた私は、その後入ってきた先生の話をまともに聞くことができなかった。

 だから、知らなかったのだ。誰が、私とペアになって当番をするのか。

 図書当番の日、そんな風に浮かれた妄想を繰り広げながら図書室の扉を開けた私は、思い知ることになる。




 _____魔王様は、民草にその冷淡な目を向け、仰りました。


「一年間、よろしくお願いします」




 私の不幸は、今このとき始まったのだと。

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