美しき人
とても綺麗な人だった。
天使がわたしを助けに来てくれたって思った。
とても綺麗な子だった。
羽根を落とされた天使を助けたような気分だった。
保護されてからどれくらい経ったのか分からないけれど、未だに覚えている事がある。
「おや…?綾梅ではないですか」
「ん??あ、碧壱さん」
後ろから声をかけられ振り向くと優しい笑みでコチラを見てる人物がいた。
時雨碧壱。
故郷も何もかもを吹き飛ばした後に綾梅を保護したAC幹部の一人。
いつも優しい笑顔で話しかけてくれる兄のような存在だ。
どんな能力を持っているのかとか何歳なのか公開はしていないようで謎が多い人物だ。
常に着物を着ていてAC内では『和服美人』と言われている。
「彼らとは一緒ではないのですか?」
「彼ら…?あぁ、凌太と圭助ですか?二人とは一緒じゃないですよ。これから医務室に行くんです」
「医務室?」
碧壱は首を傾げる。
「はい。お恥ずかしい話なんですけど…この間の任務で精神がおかしくなってしまって」
あははと誤魔化すように笑う。
「おやおや。そんな不安定な状態で一人は尚更危ないじゃないか。私が付き添ってあげましょうか」
「え!?だ、大丈夫ですよ!碧壱さんは幹部なのでしょう?私みたいな奴と一緒にいたら何言われるか…」
凌太と出会うまでの短い期間ではあったが兄妹同然のように過ごした事もあったが、幹部と危険分子。
皆が皆快くは思わないのだ。
「まさか…私のせいで嫌がらせでも?」
「はい!?ち…違いますよ!その…私のせいで碧壱さんが嫌な思いしたら嫌だなって…じゃ、じゃあ!急いでるので!!!」
綾梅はペコリと頭を下げると駆け足でその場を去ってしまう。
「ふむ…嫌がらせを受けているのか」
どんどん小さくなっていく背中を見つめ溜息を一つ。
「嫌がらせ…」
碧壱の言うとおり嫌がらせは沢山受けてきた。
全てが嫉妬からによるものだった。
別に過去に受けたものに比べればなんて事はなかった。
自分同様に彼も受けていたのではと心配になったのだ。
「あら」
「あ…」
扉を開けようと手を伸ばすと扉が開き目の前には白衣を来た女性が立っていた。
「愛さん」
「んもう、遅いから迎えに行こうかと思っていたのよぅ」
「す…すいません」
ほらほらと促され医務室へと入る。
「あれからどう?」
「えぇと…」
彼女は小葉松愛。
色気ムンムンお姉さん。
医者とは思えぬ程の色気を持つ彼女だが最前線に立ち怪我人を治療する凄腕だ。
医務室での仕事はもちろん救護部隊を率いる隊長でもある。
「…そう、順調に回復してるみたいね」
「そうですか、良かったです」
少しずつではあるが任務で受けた精神的ダメージが回復しているらしくホッとする。
「でも、しっかり休んで。薬も毎日ちゃんと飲むこと」
「分かってますよ。ありがとうございました」
「お大事に~」
扉を閉め、顔を上げると壁に見慣れた人物が笑顔で迎えに来ていた。
「…碧壱さん?」
「やはり心配でな…迎えに来てしまいましたよ」
ずっと待っていたのかと考えると今度は断れず家まで送ってもらう。
ACでは部隊内での連携などを高めるために部隊ごとに家を与えられ生活をする。
「なんだかすみません」
「何を謝っているのです?これは私がしたくて勝手にした事です。それに…」
「?」
「妹を心配する兄は普通の事でしょう?」
血の繋がりは無くても妹として接してくれる優しさに涙が出そうになる。
「あ…ありがとうございます。それじゃあ…私はこれで」
碧壱はニコリと笑い軽く手を振り去る。
綾梅は彼の背中が見えなくなるまで見ていた。
「あれ、あや帰ってたの?」
「圭助も戻ってきてたんだ」
扉が開く音が聞こえ振り向くと圭助が出かける様子だった。
「戻ってきてたよ」
「あれ…どこか行くの?」
部屋着ではない姿なので聞いてみる。
「どこにって…そりゃ、あやを迎えに行こうと思って」
「私を?あ…ありがとう」
入って入ってと半強制的に家の中に入らされる。
「ただいまーってなんだぁ?玄関の人口密度高いなぁ」
圭助の行動に不信感を抱いた綾梅が問いただそうとした瞬間に凌太が帰ってくる。
「あ、お帰り」
綾梅はすぐに振り向く。
「おかえり。予定より早かったんじゃない?」
圭助もいつも通りの表情で迎える。
「まぁな。俺にかかればこんなもんだって」
ニヤニヤとしながら答える凌太を見て綾梅はなんとなく、意味はないがホッとする。
「そういやさっき」
凌太が何かを思い出したかのように口を開く。
「家の近くで碧壱さん見かけたぜ?」
圭助が一瞬動きを止めた。
空気もなんとなく重たくひんやりしている。
(あれ。俺マズイ事言ったか)
凌太は知らなかったのだ。
圭助は碧壱が大嫌いだと言うことを。
綾梅は心の中で悲鳴をあげていた。
「…あや?」
ギギギと音が鳴っているかのようにゆっくりと振り向く圭助の顔は笑顔ではあるが目は笑っていなかった。
(怒ってるーーーーーーー!!!!)
冷や汗が止まらない。
今にも泣きそうだった。
「あ…えと…そ、そうだ~忘れ物したんだった取りに行こう!!?」
逃げようとドアノブに手を伸ばした瞬間肩を思い切り掴まれる。
「け…圭助…さん??」
笑って誤魔化そうとしても圭助は見逃してはくれないだろう。
「僕なんて言ったっけ?」
凌太も巻沿いにして1時間以上説教を受けたとか。
「なぁ」
「…」
「なぁってば!」
「何!!?」
ベッドで不貞寝をしている綾梅をゆさゆさ揺らすと半ギレ状態で答えてくる。
「なんでアイツあんなに碧壱さんの事嫌いなんだ?」
「なんで?」
凌太に聞かれて改めて疑問に思う。
特に何かをされた訳でもない。二人の関係に亀裂が入るような出来事は無かったはずだ。
「そう言われても…私だって知らないよ。私が気付いた頃には圭助が…って言うよりはお互いが嫌ってたんだもん」
「はぁ???」
ゴロンと綾梅は寝返りを打ち唸る。
「圭助がどんなに嫌ったって私にとっては命の恩人だし兄のような存在だし…」
「俺も碧壱さんは嫌いになれないな。師匠だしな」
二人は深い深いため息を吐いた。
「あやとアイツが接触してたなんて…」
誰もいなくなった居間のソファに顔を腕で覆いながら横になっている圭助が悔しそうに呟く。
(アイツはあやの事が好きだ)
碧壱を嫌う理由は簡単なものだった。
単なる嫉妬。
綾梅を取られてしまうのではと思ってしまう。
圭助はため息を吐く。
(僕は子供か…くだらない)
容姿が良く戦闘力もずば抜けて高い。
そんな奴に好きと言われたら綾梅は…?
本人でなければ分からない事ばかりを考えながら眠りについた。
「兄妹…か」
ポツリと呟き鼻で笑う。
「俺の持つ感情はそんな生温いものではない」
机の上に飾っている写真立てを持ち、愛おしそうに見つめる。
「綾梅…愛しているよ。必ず、俺のものに」
窓の外を見つめる。
(千代田 圭助…。君には綾梅は渡さないよ)
美しき人は美しい少女に恋をした。
心を閉ざした少年は美しい少女に恋をし、心を開いた。
美しい少女は何を思っているのだろうか。




