第五話 心霊会合・学校“カイ”談、愉快な住人
で、時は流れて昼休み。
「へぇ、じゃあアンタ、元はこの学校の卒業生なのか」
『そ。今から二十年ちょっと前かな』
校舎の四階。理科室をはじめとした特別教室がならぶ階層にも必ずある男子トイレ。その片端の個室に俺は腰かけていた。
『当時は陸上やっててさー、県大でけっこういいとこまでいったんだよ?』
見えない椅子に腰掛けるようなポーズで話すハナコさんは、実に楽しそうだ。
その様子を昼飯のコロッケパンをかじりながら眺める。何気に便所飯を敢行するはめになっているわけだが、特に抵抗はなかった。使用頻度が少ないせいか、そこまで汚くないしな。
『で、卒業後はフツーに就職したんだけど、そのころ世の中いきなり景気悪くなってさぁ』
「あー、ちょうどバブルがはじけた時期か」
『そーそー。急に仕事の量は増えるわ無茶振りされるわ上司は使えないわでホンット散々だったんだから』
しみじみと生前の愚痴をもらす。底冷えしきった平成産まれの現代っ子には景気の良し悪しはよくわからん話だが、とりあえず苦労は伝わってきた。
『それでもしょーがないから働いてさ。まぁなんとかやってたんだけど、死んじゃったわけよ。交通事故で』
あっけらかんと、また軽く言うな。
「そのわりに、怪我とかはしてないのな」
轢死した幽霊って血みどろの状態で出てくるイメージがあるが。
『そこはホラ、気合いでなんとか』
「なるのか?」
『まぁ見た目ぐらいは気の持ちようでどうにでもなるわよ』
いい加減、つーかあやふやだな。幽霊ってそういうものかもしれないが。
「見た目かなり若いけど、いくつなんだ?」
霊魂の外見年齢はあてにならないと、どこかで聞いた覚えがある。精神年齢のほうに合わせて変わるとかなんとか。
『ふふん。いくつに見えるぅ?』
「……二十、二ぐらい?」
あえて予想より控えめに言っておく。嬉しそうにニマニマ笑うハナコさん。なるほど、それ以上なのは確定したな。
しかし、死ぬには随分早いのも確かだ。
「……若い身空で亡くなるってのも、虚しいもんだよな」
『まぁ、ね。私も最初はそう思ってたよ』
ふっ、と物思いにふけるように、少し真剣な顔でハナコさんは天井を見上げる。
『なんで私が、とか。まだやりたいことあったのにな、とか。頭のなかがぐちゃぐちゃでさ。落ち着くのに随分時間かかったし』
それは……無理もないだろう。
明るい口調とさばついた性格に忘れそうになるが、彼女は幽霊。故人。つまりは“死”を経験した存在だ。
死。命を失うこと。
誰もが経験することでありながら、それがどんな感覚なのかは誰も知らない。それを知るのは死ぬときで、死人に口無しの文字通り誰にもそれを伝えることはできないのだから。
その痛みも、苦しみも、虚しさも。実際に味わうそのときまでは分からない。
想像できないことを経験するショックは、混乱と動揺を生む。
しかし幽霊、つまりは故人を知覚して交流できるという能力はそれを覆す。
死者の世界を、生者の立場からのぞきこめる。
“死”という、絶対的な概念を肌で感じ取れる。
……改めて考えると凄いことをしている気になるな。命の危機を経ると幽霊の類が見えやすくなるとか聞くが、こうして考えると言い得て妙な話なのかもしれない。
『けどさぁ、一回落ち着くと今度は暇を持て余すのがつらいんだよねぇ』
はふー、と息をついてダレるハナコさん。
『霊感があります、っていうヒトがいるじゃない? 今はスピリチュアルっていうんだっけ?』
「ああ、たまにテレビで見るな」
ヒトのオーラが見えるとかなんとか。奇抜な服装したヤツが多い。
『そーいう触れ込みのヒトの所に何回か行ったけど、ぜんっぜん見えてる様子ないんだよね。目線すら合わないし』
「そうなのか?」
『うん。たまに、なんかいるなーって察知してるっぽいヒトがいるくらいでさ』
うわ、そうなのか。なんかちょっと残念だ。
まぁ実際、真偽の別れる所だからな。いくら議論を交わしても、本人以外にはわからないわけだし。あの人らも結局は商売でやってるわけだし。
『幽霊ってさ。自由ではあるけど、なんにもないのよね。病気も試験もなーんにもない。ただそこにいるだけじゃあ退屈すぎて鬱になるよ』
「それで、学校に居座ることにしたのか?」
死んだというのに成仏もせず、ゆらゆら漂うのにも退屈し、なにをしても誰にも見えず誰にもバレない、怒られない――――。
となれば思うまま、欲望のままに動きたくなるのは人間心理だ。
『当時は都市伝説がブームでさ。学校の七不思議とかがけっこう話題になってたのよね。くっだらないのを考えて、笑い話にしたもんよ』
「七不思議ねぇ」
学校の怪談といえば小学校のイメージだが、そのバリエーションは多岐にわたる。
校庭の歩く石像。
音楽室の夜鳴るピアノ。
美術室の動く肖像画。
理科室のさまよう骨格標本。
廊下を走る人体模型。
異界に繋がる大鏡。
プールに現れる幽霊部員。
トイレの怪異にしても赤紙青紙から便所入道まで、パターン分けしたら際限がない。
『ちろっと知り合いの幽霊仲間に声かけて、学校の七不思議をつくって遊ぼう――って話になったのよ。で、私がトイレ担当ってわけ』
「それはアレか。多数決で決めたのか?」
トイレ担当押し付けられるとか、人間だったら半分イジメだぞ。
『や、自分で立候補した』
ちょいちょいと手を振ってハナコさんは笑う。物好きなヤツだな。
『いやぁ、生前の名前も華子だったし。美術とか音楽とかやってたわけじゃないし。ていうか若い男の子大好きだし』
とりあえず、最後の理由が一番でかいとみた。
『だってさぁ、私まだ二十代だったんだよ? 女盛りだよ? そりゃ持て余すでしょ色々』
「知らねーよ」
肯定も否定もできない問いかけはやめろ。
ていうか、死人にも性欲ってあるのかよ。
『そりゃあ私だっていい大人なんだからさぁ、自制してたよ? 色々我慢してさ、妥協することも必要じゃない? けど死んで自由になったんだからそのあたり一切合切解放したっていいじゃない! 男子トイレにこっそり籠もってハァハァしたっていいじゃない! 若い男の体をじっくり眺めて悦んじゃってもいいじゃない!』
「よくねーよ」
感極まって叫ぶハナコさんの頭を叩く。思いのほか小気味良い音がした。
そんなことやってたのかこの変態は。入学から約1ヶ月間、この女の奇行にさらされながら過ごしていたのかと考えると頭痛と憤りと脱力感が同時に襲ってくる。
いっそ気づかないままでいたほうが幸せだったかもしれん。
『まぁ一個だけ不満があるとすれば、触れないし気づかれないからノーリアクションなことなんだよね。ホントはこう、羞恥と興味の狭間で揺れてる感じの表情がツボなんだけど』
「もう一度言う。知らねーよ」
アンタの性的嗜好を聞いてどうしろというのか――――って、ちょっと待て。
『…………(じー)』
「…………なんすか、その期待のこもったキラッキラの目は」
俺はおそらくこの学校で――――いや、もしかしたら現代人でも唯一、霊を視覚し、更には触れることすらできる人間となったらしい。
それはつまり、ハナコさんの不満を解消するにふさわしい人材なわけで。
『ねぇフミヤくん。もよおしたりしてなーい?』
「してねぇよ」
てか現在進行形で昼飯中のこの状況でそれを言うか。
「言っとくが今度から俺のこと覗いたらシバき倒すからな」
唯一の救いはこっちにも反撃手段が残されていることか。殴られればむこうも痛いようだが、既に死んでいる以上は多少無茶しても大丈夫だろうか。いや大丈夫ということにしておこう。
あー、手加減無用で反撃できるって素晴らしいな。
『えぇ〜〜、ノリ悪いなぁ。それでも青い春を生きるコーコーセーかい?』
「視姦されてよろこぶほど腐った青春送ってねぇよ」
つーかそんな性癖持ってる相手に青春うんぬん語られたくねぇし。もはや青少年でもなんでもねぇし。
俺は自分が偏屈な人間である自覚はあるがそこまで邪道は歩んでいない。
最後のひと口を放りこみ、ペットボトルの緑茶で流し込む。昼飯終了。ごちそうさまでした。
割と参考になりそうな話も聞けたし、そろそろ戻るか。
『ふぅん。じゃ、ちろっと正統派にいってみようか』
あ? と、どういう意味かを訊くより早くハナコさんは動き出す。
俺の、両耳あたりに諸手を添えて。
スススーっと、滑りよってきて。
『えいっ』
ムギュ、と俺の頭をその胸元に押しつけた。
(は?)
瞬間的に、思考が止まる。
幽体は基本、向こう側が透けてみえるほどに存在が薄い。しかしハナコさんは他の霊よりも力が強いように思える。人に憑いてる守護霊や浮遊霊が単色で描いたラフ画なら、ハナコさんは透明感のある水彩画に近い。
つまり幽霊とはいえ、それだけ実体を連想できるほどの存在感がある。
肉体が無いゆえに、ぬくもりも香りもないが、味わった覚えのないやわらかな感触だけは顔面全体で確かに感じられた。
…………物凄く冷静に批評をしているようだが、これは全て後になって思い返したことだ。
博愛締めの状態で1秒か2秒か、思考の空白がどれぐらいあったか知らないが我に返った俺は慌ててまくしたてた。
「なっ、ちょっおまっ……はっ! はなれろ!」
『やーだーよー』
のん気に返事をするハナコさんは放すどころか腕に力をこめてくる。薄いブラウス越しの感触が、その……、なんだ、色々とやばい。
クッキリはっきり見えて触れて感じられる以上、体感的には現実の女性と変わらない。こうも誰かと密着することなど今までの人生でもあったかどうか。
血流が一気に膨れ上がって顔に血がのぼる。思考判断がうまく働かない。
必死になって引き剥がそうとするが、すでにハナコさんは座った俺の膝の上に腰掛けるようにして対面している。全身でもって俺を押さえ込むかたちとなって全く動けない。
これが噂の金縛りですか!?
「〜〜っ! おいコラ! いい加減にしねーと」
マジでシバくぞ! と叫ぼうとして、それは喉の奥に留まった。
固定されかかった首をなんとかずらして、間近で見上げたハナコさんの顔。
生者なら息がかかるほどの距離でもそれらが感じられないことに、やはり彼女が死者であることを改めて思う。
『…………』
「……なんだよ」
急に黙るなよ。っていうか、なんだよその真面目な顔は。
出会いから今まで躁状態で通していた相手がいきなり静かになると不安になるだろうが。
『ねぇ……、フミヤくんってさ、童貞?』
「…………そうですが、何か?」
内容は下世話だがあまりに真剣な声音に気圧されてこちらも本音で答えざるおえない。
『そう。私もね、処女なの』
……いきなりとんでもねーことカミングアウトしやがるな。
「その割には耳年増な発言が目立ちますが」
『いや、その。知識と興味が先走りすぎたっていうか、ね』
ちょっとだけバツの悪そうに言うハナコさん。
先走りどころか始まる前から色々な意味で終わっている惨状だぞ。全力疾走にも程がある。
『昔はその、妄想だけで満足できたんだけどそろそろ満足できなくなってきたところで幽霊になっちゃったから。欲求はあるのに解消できなくて歯止めがきかなくて。けどやっぱり最初は大切かなーとか思っちゃったりだから、その――――』
語るに落ちるというかなんというか。話せばはなすほどドツボにはまっていくハナコさんは茹で蛸のように赤面していく。健全な男子高校生に話す内容じゃねーよ……。
頭の片隅でそう考えながらも、俺は口をはさめない。俺だってそれなりに健康的な若虎である。なるだけポーカーフェイスを貫こうと努力してはいるがどこまで取り繕えているやら。
脈拍が加速してきた気がするし、顔も熱いし……。
『だからその……フミヤくんさえ良かったら』
静かにその身をつつんだワイシャツのボタンに手をのばすハナコさん。
それを止めるべく声を上げようとして、しかしうまくいかず、ただされるがままになる
――――かと、思われたそのとき
『きょぉぉおいくてきしどぉぉぉぉっ!!!!』
いきなり外から響いた、脳髄に直接届く胴間声。我に返った俺はそれと同時に目撃した。
トイレの壁を突き抜けて飛び出てきた長柄のもの。そのT字の先端がハナコさんの延髄を突き上げるのを。
『けぷっ』と間の抜けた声を漏らしてハナコさんは壁をすり抜け吹っ飛んでいった。
唖然としてそれを見送る俺の眼に、突き出されたそれの全容が映る。
長さは百二十センチほど。
木製の柄と、先端に付いた金具。
そこから生える、硬質のブラシ。
それは見間違えようもなく、ホウキという名の清掃用具。
ただ唯一普通の備品と違うのは向こう側が透ける透明性を有していることだ。
『ったく油断も隙もあったもんじゃねーな。あンの痴女は』
ぼやきながら壁をすり抜け、箒の持ち主が顔を出す。
幽霊の、若い男だ。
浮遊しているのを差し引いてもかなり背が高く、ガタイがいい。
緑色の作業着を着こなしており用務員のような装いだが、捲った袖の下からは筋肉質な二の腕が見てとれており、浅黒い顔に生えた無精ひげとつり上がった目つきが荒々しい印象を強めている。
登場一発目の行動もあいまって、俺の中では山賊のようなキャラクター性が早くも組み上がっていた。
『っと、悪ィな。邪魔するぜ。こっちもほっとけねぇ事情があるもんでよ』
「いや……むしろ助かりましたが」
いっときの勢いに流されるとロクなことにならんからな。
ようやく冷え始めた脳細胞が通常営業を再開する。
壁の向こう側に消えたハナコさんが首筋をさすりながら再び現れた。
『いっ……たぁ〜〜。なにすんのさ、みっきー。痛いじゃない』
『何処ぞのデカネズミみたいに呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが』
夢王国の住人とは程遠く、男臭い怒り肩で睨みをきかせる。
『ヒトの恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてなんとやら――って教わらなかったの?』
『やかましい。俺の目の黒いうちはこの学校の風紀は乱させねぇ』
いやアンタ既に亡くなってるから。
幽霊ボケの天丼は流石の俺もいいかげん飽きてきた。
『第一テメェのは恋でもなんでもねぇだろ万年発情猫。性欲解消してぇなら一人でハッスルしてろや』
『うっさいなぁ……。しょうがないじゃんそういう設定なんだからさ』
『いーや関係ねぇな。お前は昔っからそうだった。駅の公衆トイレから場所が変わっただけだ』
ああ、筋金入りなんですね。
色々と前科があるらしい。襲われかけた身としては薄ら寒いものを感じる。
むくれるハナコさんだが、めげずに俺へとすり寄ってきた。
『ねぇフミヤくん。さっきの続き、したくなぁい?』
「ねぇっすね」
雰囲気も完全に霧散した中で言われてもさっきほどに“呑まれる”感じはしない。もう少し風情ってものを考えるべきだろう、とかダメ出しできる程度には冷静だ。
そんな俺に対し、がっくりと肩を落とすハナコさん。
『あーあ、やっぱり駄目かぁ。ようやく本懐が遂げられると思ったのになぁ』
『阿呆。一人だけ抜け駆けなんざした日にゃあ、他の連中にすっ飛ばされんぞ』
『そんなのたいした問題じゃないわよー。後でみんなにも紹介すればいいだけだし。ねー、フミヤくん?』
「同意を求めないでもらいたいんすけどね……」
即決で拒めなかった手前、あまり強く言えなかった。
実際問題、スキンシップ過多ではあるがそれを不快と思っていない自分がいる。
お世辞にも社交的とはいえない自分の性格上、こんな欧米人級のコミュニケーションなどされた日には拒否反応が出てもおかしくない筈、なんだが……。なんでだ?
…………いや、まぁ。それはいい。後にしよう。それよりも気にするべきことはある。
「なんか急に出てきましたけど……、アンタ誰?」
用務員スタイルの男幽霊に問いかけた。
待ってましたといわんばかりに男は応える。
『俺は古羽奈西高校七不思議がひとつ! “さまよえる用務員”こと三樹田 善行!』
『呼ぶときは“みっきー”で! よろしくなっ』
箒を構えて見得を切る、ハナコさん曰わく“みっきー”さん。
次の瞬間には躊躇のない速度でふるわれた彼の箒がアテレコ中のハナコさんの頭をジャストミート。ライナー性の軌跡を描いて吹っ飛び、ハナコさんは再び壁のむこうへ消えていった。
『その呼び方ヤメロっつってんだろうがよぉ……。みっきー、って名前が許されんのはネズミと女子とカーチスだけなんだよ』
みっきーさん、いやミキダさんは荒んだ目つきでその先を睨みつける。そんなに嫌か、その呼び方。
「えーと……、ミキダさん? さっきからかなり危ない殴り方してるけど大丈夫なんすか?」
彼のフルスイングは遠慮がないというか、生者なら確実に撲殺を狙える勢いだ。
『大丈夫だ。凄い痛いけど死なないから。幽霊だから』
あ、やっぱりそういう扱いになるのか。
悪人面でイイ笑顔を浮かべるミキダさん。フリーダムなハナコさんといい、人間というのは一回死ぬと色々と吹っ切れてアグレッシヴになるらしい。
幽霊って、もっと陰気なものかと思っていたのだが。それともこの人たちが特殊なだけか?
「俺は殴らないでくださいよ。たぶん痛いじゃ済まないから」
そんな調子で叩かれたら首の骨が折れる。俺が白い眼をむけていると、ミキダさんは俺の頭をガシガシと荒っぽくなでまわしてきた。
『ンな真似はしねぇよ。お前は、俺らにとっちゃあ救世主みてぇなモンだからなぁ』
視界が、いや頭がグラグラと揺れて首が痛い。
言ってるそばからコレかよ。やはり手加減とかできないタイプらしいな。
しかし……“救世主”? どういう意味だ?
詳しく聞き返そうとしたが、それを遮るように遠く予鈴が響く。
『オラ、そろそろ昼休みも終わりだ。教室に戻りな。サボんじゃねぇぞ』
ぐるぐると肩を回しながらハナコさんが飛んでいった方へと向かうミキダさん。
『俺ァ校内のあっちこっちでうろついてるからよ。顔を会わせたら、よろしく頼まぁ』
適当に手をふって消えていく背中を見送り、ようやく静けさを取り戻す男子トイレ。
立ち上がり、教室へ足を向けながら俺は考える。
肝心要のあの女、ヨミについては分からずじまい。だが、色々と気になることもでてきた。
“古羽奈西高校七不思議”。
“さまよえる用務員”。
“トイレのハナコさん”。
そして、“救世主”。
幽霊たちにとって、俺が“救世主”?
さっぱり意味が分からない。あの本と関係があることなのか?
相変わらず疑問は尽きず、脳髄の歯車は空転し続けていた。