間章 夜と書架と
やあ、こんばんは。それとも初めましてというべきかな?
いきなりアポ無しで突撃してくるとは、なかなかいい度胸だね。おもてなしの準備はないからそのつもりで頼むよ。
はは、まぁそう堅くならないでくれ。ひょんな拍子にここにやってくる人間というのは、そう珍しくもないからね。むしろ私も年中退屈している身だし、ありがたいぐらいさ。適当に掛けてゆっくりしていくといい。
え? ここは何処? なんで自分が此処にいるのかわからない?
ふむ。その問いにはとりあえず、ここは“そういう場所だから”と答えておこうか。
説明になっていない?
そうはいってもね。魔術的なアレでコレした超科学のそんなこんなで色々やって造った場所だから、って言っても分からないし納得しないだろう?
キミも創作好きなら“ご都合主義”のひとつやふたつ、受け入れてくれよ。
ご都合主義。そう、ご都合主義だ。
現実の世界はとかく、理路整然とした説明を追い求める。誰にでも理解できる言葉で。誰にでも理解できる理屈で。始まりの一から終末の零まで、説明できるからこその現実であると。
どこまで理屈をつけようと、最後には“そういうものだから”と納得するほかないのに、だ。
ご都合主義とは、それすなわちブラックボックス。
理解の及ばぬ領域を理解の及ばぬままに御そうとし、それを世界の中心に組み込んだ、その結果さ。
なんだかよくわからないが、とりあえず“こう”なる。
それこそが“ご都合主義”。
そして物語を支配するブラックボックスは時に、全てを飲み込むほどの理不尽を生み出す。
読み手の都合も登場人物の意志も、なにひとつ介さぬほどに。
ましてそれが“運命の一作”となれば、どうなるか――――
…………おっと。そろそろ夜明けかな。キミも目を覚ましたほうがいい。
なに、話の続きならいつでもできるさ。キミが文を好み、此処へ来ることを望むならね。
此処は“運命の一作”が集う物書きの聖地にして読書狂の楽園。本をこよなく愛する者なら、いつでも扉はフルオープン。
紡がれるも死蔵され、陽の目を見ぬ数多の理想郷が夜に微睡み眠る場所。
“月黄泉の揺り籠”と、ヒトはそう呼ぶよ。
卒研終わって投稿再開。感想など頂ければ幸いです。