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第二話 蒐書魔女・“一作”の提供



 思い切り側頭部を打った俺は、痛みに転げ回りながらもチカチカする目を必死に働かせようとしていた。



 ――――い、今、何が起きた!?



 混迷する脳細胞を必死に落ち着かせようとする。網膜に焼き付いた光景が脳内で繰り返し再生されていた。




 見上げていた、何もない天井。


 そこがいきなり――――パカリと観音開きにひらいたと思ったら妙な格好した人間が逆さ吊りの状態で俺の目の前に飛び出してきた。



 ……自分でも何を言っているんだとツッコミたいが涙に滲みながらも見える光景において、そいつは変わらずそこにいる。



『おやおや危ないねぇ。実に危ない。頭なんて打った日には、紡ぐ物語に支障が出かねない。もっと体を大切にしなきゃいけないよ』



 逆さ吊りの状態など意にも介さず、流暢に喋るそいつはボディランゲージ過多に俺のリアクションへの感想を述べる。



「だったらもう少し、穏当な登場をしろよ……」



 いくらなんでも眼前にいきなり出てきたら反射でビビるわ。


 俺の発言に「おやおや?」とそいつは首を傾げる。



『キミにとって、不思議とは天井裏からやってくるそうだからね。要望に応えてみた次第なのだが』


「そりゃお気遣いどうも」



 少し距離をとりつつ、俺はそいつを観察する。



 女だ。歳は多分、二十歳過ぎ。



 テレビ越しぐらいにしか拝めないような滑らかで黒く、長い髪。逆さ吊りゆえ分かりづらいが、細身の腕と脚の対比からしておそらく俺よりも身長は高いだろう。

 身に纏っているのは何故か男物の碧いスーツだが、白のブラウスを押し上げる胸元は女性らしさを見失わせていない。



 そのまま見れば涼やかな男装の麗人、といって差し支えないんだろうが……端正な顔にはりついた、大魔王もかくやという悪辣な笑みが全てを台無しにしている。




 そして天地無用の状態にして、着ている服も長い頭髪も、ひとつたりとも“逆立っていない”。


 この女の身をつつむ全てが、重力に逆らって存在している。






 天井裏から登場したのを差し引いても、怪しい女。いや人間なのかも怪しいな。





 できれば関わり合いになりたくないタイプだと直感する。こういうヤツは確実に面倒事を引っ張り込む。


 まぁ、こうやって相対している時点で手遅れなんだろうが、な。




『やはり見所があるね。キミは』



 なにがそんなに愉しいのか、笑みを深めてそいつは言う。



『取り乱すどころか落ち着いて相手を観察し、不用意に近づくことなく。それでいて逃げるという選択肢を考えず、覚悟を決めて不測の事態に備える。そこいらの人間にできることじゃない。初対面で私に対等な目を向ける者はひさびさだ』


「こちとら非日常(ファンタジー)で飯を食いたい、と願ってるクチなんでな」



 大抵の異常事態は想定済み。あくまでも想定だけ、だけどな。


 内心は決して冷静とはいえない状態だが、天井から登場する程度の異常性なら受け止めきれる。許容範囲だ。



 しかし空から降ってくる系のヒロインは鉄板だが、天井から逆さ吊りの女性ってのはそれと同列になるんだろうか?


 このミス天井下がりをヒロインに据えるのは相当に頑張ったシナリオじゃないと無理だろう。




「アンタは俺を知ってるらしいけど、名前ぐらい教えてもらえやせんかね?」



 見知らぬ他人に解ったような口で、文字通り上から見下されるのは気分が悪い。


『これは失礼』と、彼女は身を整える。



『とはいえ、真名なるものが私にはないのでね。ひとまず……そうだな、“ヨミ”とでも名乗っておこうか』



 ヨミ。


 世見。夜魅。黄泉……。



 駄目だ。不吉な字面にしか変換できん。


 第一印象の大切さを俺が噛みしめていると、ヨミはゆっくりとした動作で身をひるがえす。


 ふわり。そんな擬音も相応に、無音で床板へ着地した。

 地に足をつけて立つと、やはり背が高い。日本の高校生男子標準サイズな俺だが、この歳になって女性を見上げる機会があるとは思わなんだ。



「……俺はフミヤ。浦賀(ウラガ) 文弥(フミヤ)だ」



 一応、こちらも名乗り返す。よりいっそう、笑みを深めてヨミは頷いた。



『さて、自己紹介が済んだところで本題なのだが。フミヤくん、君に少々用がある』



 だろうな。


 警戒心も露わに構える俺を、ヨミは手を振り否定する。



『まぁそう怖がらないでくれ。敵対の意志はない。むしろお互いにとって有益な話だ』



 パチリと指を鳴らす。天井に開いた扉から、バラリと音を立てて垂れ下がる縄梯子(なわばしご)


 不安定に揺れるその様は、案内される道行きそのものな気がした。




『キミに見込み有りと断じて、招待しよう。私の自慢の蔵書倉へ。込み入った話はその先で、ね?』



 目を細めて微笑むその顔には、裏も表もありはしなかった。




     ※



「なんだァこりゃあ……?」



 頭を突き入れた先の光景に、俺は思わず呟いていた。


 本来、五十センチもない天井裏のスペースは身を潜ませることすら難しい。そもそも見かけより脆い天板は僅かな負荷でも簡単に破砕しうる。


 しかし実際は揺らぐことなく支えられている足元にまず違和感を覚え、さらに眼に映る景色が混乱を助長させた。




 板一枚挟んで広げられていたのは、塵のひとかけらも見当たらないワインカラーの絨毯。


 その上に置かれる、書架。

 古びた装丁の書籍が整然と詰め込まれた本棚。



 仄暗い空間は果たして何処まで広がっているのか定かではないが、視界の右端から左端まで乱雑に、大小様々な書棚が覆い被さるように積み上がっている。


 通路を除いたスペースの全てが書籍で埋め尽くされた、本による本の為の迷宮。




「アレ、落ちてこねぇのか? ていうか、どうやって取りにいくんだ……」



 頭上をみれば体育館並みに高い天井すら本棚となっている。

 主が主だけに重力を振り切った空間だったとしても不思議ではないが、白昼夢をみているような感覚がぬぐえない。



 ……いや、ひょっとするとこれは夢で、現実の俺は部室のソファーに寝転んでいるのかもしれない。そのほうが説得力はあった。



 しかし――――






『夢でも現実でも、心が踊るのは否定できない』



 ギクリと、その一言で身が固まる。



 この空間の主たる女性は高い書架の上に腰掛け、不安感を煽る笑みで此方を見下ろしていた。



『なかなか壮観だろう? 気に入ってもらえているようでなによりだよ』


「……人の頭ン中でも覗けるのかい。ヨミさんよ」



 俺が問いかけると、ヨミはその笑みに少しだけ苦いものを含ませた。



『そんなチカラがあるなら、私の望みはもっと早く果たされているさ』



 軽く、ヨミは書架から飛び降りる。あやうげなく着地。いや、足音がしないあたり浮遊してるのかもしれない。


 そのまま迷宮の奥へと足をむけるヨミの後を、俺は無言でついていく。









 辺りの様子を伺いながら、一方で随分と怪しい場所に首を突っ込んだものだと他人事のように思う。


 現在、いわゆる巻き込まれ型の物語の導入部とほぼ同じ境遇に立たされているわけだが、進行ペースがのんびりし過ぎな感はある。取り乱すなり、矢継ぎ早に質問を浴びせるなりするのが正しい反応かもしれない。





 ――――しっかし……、慌てる気にもなれないんだよな。



 異常事態というのは認識できているが、危機感と呼べるものが全く湧き上がってこない。


 むしろこの天井裏の空間に入ってからこっち、少し肩が軽い気がする。



 なんというか……居心地がいいのだ。





 喜び勇んで高揚するでもなく、受け入れきれずにパニックになるでもなく。


 静かに凪いで、しかし深い部分が小気味良く震えながら、淀みなく流れているような。





 まさしく、そう。“心が踊る”。そう言い表すしかない感情の動き。


 良い気分なのは確かだが、いくらなんでも暢気が過ぎる。意識して気を張り詰めないと、身体ごと奥底まで引き込まれそうだ。


 理性的な部分がそう警戒を促しても、歩みが止まることはない。



『フミヤ君』



 前をゆくヨミが不意に声をかけてくる。



『キミは、本は好きかい?』


「……ああ」



 わかりきったことを訊く。

 好きでなければ、物書きなんぞやってられん。



『私も本が好きだ。ただしキミとは違って、読むのが専門だがね。ここに在る本は全て、私自らの手と脚で探し出した書籍たちだ』



 その数は数万を下るまい、集めに集めた本の蔵。その主の声音は、どこか誇らしげだ。


 元来、貴重な書籍の蒐集は前世紀貴族階級の嗜みのひとつ。己の資本力を誇示する、ひとつのバロメータ。闇雲に本を集めたがる蒐書狂(ビブリオマニア)の気持ちは俺には理解できないが、このヨミという女はそんな蒐集家とは毛色が違うようだ。




『フミヤ君。キミは何故、本を読み、文を書く?』



 唐突なその問いかけに、俺は即答できない。いまだに半人前以下の身には荷が重い問いかけだ。


 しかし答えを追求することなくヨミはつづけた。



『ヒトがまだ獣に近い存在だったころ、この世には言葉と呼べるものはなかった。だがその営みが成長する中で交わされる鳴き声が複雑化し、言の葉が生まれ、文字が生まれた』




 手近にあった本のひとつを手に取り、開く。読み上げるではなく独白をつづける。



『この世界で最古の文字体系というと、メソポタミアの楔形文字が有名かな? 文明の歴史は、ヒト同士の交流の歴史ともいえる。ヒトとヒトがかかわり合うなかで言の葉は交わされ、洗練されていく。今日の出来事、明日の予定、過去の経験……。そういった“現実”を言の葉に残す一方で、いつの頃からかヒトは実際には存在しない“イフの世界”を描き出すようになった』




 IF(イフ)

 “もしも”の世界。


 在り得たかもしれない現実のシミュレーションであり、在り得る筈のない荒唐無稽な空想そのもの。




 太古の神話にせよ、

 最新映画の脚本にせよ、

 剣と魔法の御伽噺にせよ、

 ロボと光線銃のSFにせよ、

 愛に恋するロマンスにせよ、

 阿鼻叫喚のホラーにせよ、

 勧善懲悪の英雄伝にせよ、

 豪辣痛快なピカレスクにせよ、

 愉快で陽気な喜劇にせよ、

 哀しくも美しい悲劇にせよ、



 すべては現実でない、フィクションの世界での出来事。


 作者の思惑と制作の経緯は数あれど、唯一にして絶対的な共通項。




 働いて、食って、寝る。生物の最低限の営みから外れた、本来ならば生み出す必要のないものだ。



『だが、だからこそ。そこには人間のすべてが秘められている。私はそう考える』



 ヨミがパチリと指を鳴らす。


 ふわり。書架から数冊の本が飛び出し、浮き上がる。




『紡ぎだされる世界は時に、万の言葉を口にするよりも、深く深く紡ぎ手の深奥を語り尽くす』



 ただ口にするだけでは伝わらない。伝えきれない。いまこの瞬間の己自身を口にしようとも、全てを言い表すには人の時間はあまりに短い。




『心の内の内、魂の底の底。その告白を、ひとつの世界に込めて伝えるべく、紡がれる言の葉』



 浮かぶ本達が開かれる。パラリパラリと、手も触れずページがめくられる。



『果たして彼らは一体――――、何を伝えたいのか?』



 細やかな文字の羅列。めくるたびに現れる文章。次を次をと急かすように、パラパラと。



『何を望んでいるのか?』



 パラパラと。



 バラバラと。



『何を夢見ていたのか?』



 パラパラパラパラ。



 バラバラバラバラ。



『その紡ぎ出す言の葉は、いったい何処を目指しているのか?』



 パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ。


 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ。



『私はただ、それが知りたい! ヒトが何を思い、何処へ向かおうとしているのか! その目指す先が何処なのか……!』




 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラと!




 もはや暴風雨のような紙ずれの音にも負けず、声を荒げてヨミは叫ぶ。

 ビリビリと、肌が震えた気がした。







 …………やべぇな。



 身じろぎひとつできない身体を自覚して、思う。


 完全に呑まれた(・・・・)



 背中に冷や汗をダクダクと流しながら。

 言いようのない圧力を全身で受けながら。



 動けない。

 逃げられない。

 いや、逃げようとも思えない。



 恐怖に近い感覚でありながら、しかし引きずり込まれるような。




 “魅入られる”、ってのはこういうことなのだろうか。初めての感覚に意識がトびそうになる。




 そんな状態で、俺の身体は動き出す。

 フラフラと、正常な意志から剥離したままに。



 そして辿り着くのは書架のひとつ。吸い込まれるように焦点を合わせたのは、その中のたった一冊の本。




 ああ……、分かった。


 この感覚。どこかで覚えがあると思った。




 通い詰めるのが習慣の古書店。種別の整理もおぼつかない、雑多に詰め込まれた本棚を前にして立ち、背表紙の表題(タイトル)に目を通す――――それを何度となく繰り返していると、味わう感覚。



 この棚に、望む本があるという直感。自分の内側を解きほぐす、至福を目の前に“心が踊る”。



『さぁ手に取るといい。キミの望む物語を。キミの求める言の葉を』



 もはや果てしなく遠くに聞こえる声を、僅かに意識に引っ掛けながら俺は手を伸ばす。


 吸い込まれるように、本のほうから手のひらに収まった。




『それがキミの“運命の一作”』




 背後でヨミが、ワラっている。

 諭すような脅すような台詞が、耳に残った。





『かなうならキミが、その言の葉の読み手であり紡ぎ手であることを願うよ』



 それを最後に、俺の視界は闇に溶けた。




     ※












 気が付くと、自宅にいた。


 両親共に働きに出て、ひとりきりのリビングに立っていた。




 寝起きのようにぼんやりとした頭のまま、現状把握に勤しむ。


 部室から自宅にいたるまでの行動の記憶が、かすみがかったように曖昧だ。

 夢遊病のような状態で、自分が何処にいて何をしていたのかもわからない。よく事故に遭わなかったもんだと我ながら感心する。




 夢……だったのだろうか? 一瞬、そう考えかけたが次の瞬間に感情が否定した。

 ざわざわと、腹の内側がさざめくような。大きく揺さぶられた後の、余韻のようなものが根強く残っている。あれが夢な筈がない。夢であってほしくない。




 急ぎ、背負った鞄のなかを探る。

 いつもの教科書類に混じって、それはあった。



 一冊の本。


 決して華美ではないが、固い装丁のハードカバー。年月を経たことで、より一層の重みを醸し出している。



 間違いなく、あのとき手にした本だ。



「夢じゃ……ないん、だな」



 あの蔵書蔵で、笑う女を思い出し笑みがこぼれる。


 何者かは知らない。怪しいってのもわかっている。


 しかし、ひとつだけ確かなことがある。








 いま、俺の手の中にある本。

 俺は――――この本が読みたい。









 本が好きな人間が。

 創作を志す人間が。


 面白そうな本を前にして、読むのを躊躇う理由が何処にある?





 居間の真ん中で立ったまま、表紙を開くべく指を動かし――――







「ただいまー」



 玄関から飛んできた暢気な声に固まった。



 思考の空白は一瞬、慌ただしく本を鞄にしまい、平静をよそおう。

 なぜそうしたのかは分からない。ただこの本は、あまり他人に見せるべきではない。そう思ったが故の行動だった。



 聞き慣れた足音をたてて、侵入してくるのは我が母親。仕事用具と買い物袋を両手にぶら下げる、まごうことなきお疲れさんである。



「お、おかえり……」


「はい、ただいま。フミも今帰り?」



 ガサガサと荷物をキッチンへ運搬しながら、母はつづける。



「着替えたら、すぐご飯作るからねー」



 ふと時計を見れば、午後六時半。今日は間食もしていない。


 成長期の俺の胃袋は急激に空腹をうったえはじめた。




「…………」




 俺は鞄を背負い直し、自室に向かう。とりあえず制服ぬいで私服に着替えて――――



「……手伝うか。晩飯の準備」



 ひとりでやるより、そのほうが早く飯にありつける。

 腹が減ってはなんとやら。本を読むのはそれからで。


 食欲を優先できる程度には俗っぽく、本の虫でもない俺だった。





















「これ、っていう。おかしな部分があるわけじゃあないんだよな……」



 飯を食い、風呂に入って、手持ち無沙汰な午後十時過ぎ。


 自宅でまで自主的な勉学に勤しむほど殊勝でもなく、就寝するまでの自由時間。俺は自室の机にむかい、例の本を観察していた。





 スタンドライトに照らされる、革張りの装丁。硬質の紙類の感触は百年単位の長期保存が主眼におかれているように感じるが、決して武骨ではなく手になじむ。


 学習用ノートとほぼ同じ寸法で厚さは五センチ強。しかし使われている紙の素材からして、見た目ほど膨大なページ数ではなさそうだ。



 現代では珍しい形態の本とはいえ、特筆するほどの特徴は少ない。




 問題は……タイトルが読めないんだよな。




 表紙・背表紙・裏表紙。しかるべきところに何か表記があったらしい痕跡はみられるが、文字自体が擦り切れていて読み取れない。著者名もない。


 外観からして洋書なわけだが、内容はどうなっているのだろうか? 英文表記だったならお手上げである。俺の語学力で翻訳しながら読むのは、読書ではなく暗号の解読作業だ。



「ふむ」



 入念に観察してなお俺は腕を組み、本を開かず相対する。




 ……何故そこまで俺が慎重なのか、疑問に思うやつもいるかもしれない。



 たしかに今この瞬間も、俺はこの本を読みたいと思っている。抗いがたい、引力のような。不自然なまでの魅力を感じている。


 しかしあの女。ヨミに遭ったことを考えると、引っかかる部分もあるのだ。





 あの現実感のない不可思議な空間での、白昼夢のような出来事。胡散臭い女主人。


 この本はあれが現実であるという証拠のひとつ。







 だがあれ(・・)が現実なら、この本を読み進めるのには相応の決心が必要な気がする。




 実は呪いの本でした、じゃシャレにならんよな……。




 見習いとはいえ俺も物書きの端くれ。そういうオカルト系の知識も多少にある。


 あれが現実ならこの世のオカルトは現実で、読むだけで災いを呼び込む本という存在も有り得ないとは言い難い。



「まぁ、それだったらこんな回りくどい真似はしないか」



 あの場で手に取った時点では、そこまで頭が回るほど冷静じゃなかった。単純に読ませるのが目的なら、そのまま本を開かせているはずだ。

 本を持って帰らされた、ってことは、やはり俺に本を渡しに来たと考えるのが自然だろう。



 運命の一作、と言っていたか。口ぶりからして、俺にとって何か特別な意味をもつことは間違いない。


 問題はそれが良い意味か悪い意味か、だが。




「ま、結局は読まにゃあわからんよな」




 表紙を眺めるだけで中身が理解できれば世話はない。色々遠回りに思索してはみたが、判断材料を増やすにはやはり読むしかないだろう。




 というか、正直。これ以上のおあずけ(・・・・)は身体に毒だ。




「さぁて、どんなものかね」




 散々ハードル上げておいて、肩すかしだったら間抜けだな。


 掌で踊っているのを自嘲しながらも、俺は欲求に任せて本を開いた。




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