prologue ‐蒐集家の述懐‐
全ての物語には、創り手と読み手がいる。
誰かが紡がなければ物語はうまれず、読み解く者がいなければそれは存在していないのと同じことだ。
作者は紡ぐ。“願い”を。
何処かの誰かに、伝えたい。強い想いが在る故に。
読者は辿る。“軌跡”を。
何時かの何処か。見知らぬ誰かの、夢見る景色が知りたくて。
そうしてゆくうちに、運が良ければたどり着く者がいる。……いや。運が悪ければ、というべきか。
書き手と読み手の、彼等のすべてが詰まった“運命の一作”に。
書物に携わるあらゆる者達を惹きつけ、動かし、翻弄し続ける魔性の本。
それを求め続け手にすることなく一生を終える者もいれば、ひょんなきっかけで手元に転がり込んでくることもある。
『人間と同じだ。本との出逢いも、まさしく一期一会。しかしお互いが望み合うが故に、いつか必ず巡り会う』
コツリ、コツリと歩く音。手にした書物を弄び、気ままにページをめくりながら影は語る。
『幻想と虚構の狭間に在る、理想を人が求めるように。本もまた、己の描く夢想を受け止める人間を求めている』
見渡せば、そこは書架。迷宮のごとく立ち並んだ書棚と壁一面に整然と詰め込まれた無数の本。
『欲しいのならば願うがいい。強く強く、願うがいい』
ニィ、と裂けたようにワラう。薄闇にはえる、白い八重歯を覗かせて。
『現実では叶わぬ理想の果て、夢幻の彼方のあな遠く。現と虚構が交わっては行き違う、その場所で――――』
運命はいつでも――――、顎を開いて待っている。
どうも今晩は、はじめまして。夜噺明神と申します。
某小説大賞に投稿すべく研鑽中なのですが気分転換に作っていたプロットが固まってきたのでちょっと書いてみました。
Web小説としては一話が長め、かつ更新不定期となる可能性もありますが、暇つぶし程度にお付き合い下さいませ。
……思わせぶりなプロローグですが、尻すぼみにならないよう出来るだけ頑張ります。叱咤激励、批評御意見、どんとこいです。
次の一話、二話、間章までが序章に近い内容になります。