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煙草とコーヒーと黄色のマグカップ

マスクに隠れて

作者: 日向葵

雪がふった次の日、私はくしゃみがとまらなくなった。

仕方がないので、駅近くのコンビニでマスクを買い、会社に行くと、

隣のデスクの後輩に早速声をかけられる。


「原田さん、風邪ですか?」

「かぜ…ではないんだと思うんだけれど、今朝から鼻水が止まらなくて。」


そう言っている側から、水のようなさらっとした鼻水が鼻の奥から押し寄せる。


「それ、きっと花粉症ですよ。」

「花粉症!?」

「今朝のニュースで、今日は気温が上がるから花粉注意ってやってましたもん。」

「私、今までなったことないんだよ?」

「そういう人が、いきなりかかったりするんですって。」


後輩の田山くんは、ご愁傷様とばかりに憐れみを含んだ目で首を振った。

そういえば、目も少し痒くて、コンタクトがごろごろしてる気がする。

(ただの寝不足かと思っていたけれど…)


「ふぇっくしょん!」と盛大にくしゃみをすると、横から田山くんの忍び笑いが聞こえた。

どうやら27年間生きてきて、初めて私は花粉症にかかってしまったようだ。



その後も私の鼻水は一向によくならず、仕事をしては鼻をかんでいたので、

ゴミ箱にはちり紙が山盛りになってしまっていた。

なんせ黙っていてもたれてくるから、たちが悪い。

電話中でも会議中でもとめどなく流れだす鼻水に、私もさすがに閉口した。


「原田さん、風邪でもひいたの?」


私が鼻水と格闘していると、給湯室に行くついでなのだろうか、

竹井さんがいつもの黄色いマグカップを持ったまま声をかけてきた。

彼のデスクは、私のデスクの対角線だというのに、どうしてわかったんだろう?と

考えていると、それが伝わったのか、竹井さんは面白そうに笑って言った。


「こっちまで、君の豪快なくしゃみが聞こえたからね。」


思わずかぁぁと顔が赤くなる。

この時ほどマスクをしていて良かったと思ったことはない。


「大丈夫なの?」


ちょっとだけ心配そうな声音に戻った竹井さんに、

マスクをしたまま、ぼそぼそと話す。


「大丈夫です。たぶん花粉症かと…。」

「そりゃ大変!今年のは手ごわいっていうし。鼻水辛いでしょ?」

俺も毎年悩まされてるからな~とぼやく竹井さんがちょっと可愛くて、思わず微笑む。

「辛いけれど、ほら今マスクしてるじゃないですか。この下でちょちょっと鼻にティッシュを詰めてるから

垂れてこないんですよ!」

「鼻にティッシュって…。」


ちょっと呆気にとられた顔をして、それからぷっと吹き出して、

竹井さんはおかしそうに口元を手で押さえる。


「ほんとに、原田さんって面白い。」


そして、そのまま給湯室に行ってしまったので、

私はしばらく放心して、彼の去った方を見つめていた。

するとコーヒーをついだ竹井さんが戻ってきて、思い出したようにポケットから何かを取り出して、

私の机に置いた。


「それ、あげる。必要でしょ?」


竹井さんがくれたのはポケットティッシュだった。

なんてことはない、駅前で配られているようなものだったけれど、

そこにはほんのりと竹井さんのたばこの残り香と、少しだけコーヒーの匂いが混じっていた。

思わずティッシュを鼻にあてがったまま、花粉症になった喜びをかみしめる。


(か、花粉症になって良かった…!)


その後、しばらく顔がにやけてしょうがなかったけれど、

マスクのおかげで誰にも気づかれずに、思い出し笑いを楽しめたことは、私だけの秘密だ。

もちろん鼻水と、おまけによだれも垂らしながら(笑)









久しぶりの短編小説です。

楽しんで頂ければ幸いです♪ 実際私も花粉症だったり…(苦笑)

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