第7話 家族会議で作戦会議
「何があったの?」
2階から子どもたちが顔を覗かせた。貧乏子沢山なマイヤー子爵家には、レイミーの他に双子の娘と双子の息子とさらにもう一人息子がいる。つまり五人の子どもが我が家の異変に気がついて、様子を伺っているのだ。父が帰ってくるにしては早すぎる。さらに、二階の窓からも見えたりっぱな黒い箱馬車だ。誰かお客様が来たのかと思えば、玄関ホールには父親の姿しかない。子どもたちは恐る恐る様子を探りながら階段を降りてきた。
「あー、うん。大切な話をしよう」
マイヤー子爵は大して機能していない書斎に家族を集めた。もちろんそこにレイミーの姿は無い。
いつもは鍵なんかかかっていない書斎に家族全員が揃うと、マイヤー子爵は鍵をかけた。当然使用人なんか居ないのだから、誰かに聞かれることなんてないのだけれど、念には念を入れておく。
「それでは、我が家に起きた重大な事をお前たちに話そう」
マイヤー子爵は大変座り心地の悪い書斎の椅子に座り、これまた年季の入ったソファーに座った六人の家族に向かって口を開いた。
「レイミーが後宮にはいった」
単刀直入にズバリと言った。
そう、隠し事なんてする必要が無い。
だって、レイミーは待ってももうこの家には帰ってこないのだ。
「「「「「「ええええええええ」」」」」」
当然と言えば当然で、当たり前と言えば当たり前に全員が驚いた。それはそうだ、だってレイミーは、このマイヤー家の長男なのだから。長男と言ったら男である。後宮と言ったら王様の奥さんが住むところだ。だから当然お世話する人はもれなく女の人と相場が決まっているものだ。それなのに、長男が後宮?
「まって、あなた。わけがわからないわ。どうしてレイミーが後宮に入ることになってしまったの?」
家族を代表して夫人が問いかける。だって、間違いなく夫人は産んだレイミーは男の子だった。間違いなく確認したことぐらい覚えている。その後にも出産したが、第一子だ、忘れたり記憶違いなどするはずがない。ちゃんと付くもの付いていた。
「どうしてって、おまえ」
マイヤー子爵が言いよどんでいると、双子の娘が口を開いた。
「「お兄様はオメガよ。お母さま知らなかったの?」」
四つの瞳が咎めるように夫人を見つめた。いや、ようにではない、非難している確実に。
「え?オメガ?レイミーが?」
今更だが、夫人は驚いた。本当に今更なのだが。
「「学園に入る前に検査したでしょう」」
またもや双子の娘が口を揃えて言ってきた。そんなこと、つい最近も、最近過ぎる。だがしかし、入学前の色々な手続きは夫人が手伝った気がする。なにしろ使用人が一人もいないのだ、マイヤー子爵は貧乏なのである。普通の貴族家なら使用人多分執事あたりが手続きを行うであろうが、マイヤー子爵は貧乏であるが故、夫人が書類関係の手続きを行った。なのに、まったく知らなかったのである。自分が生んだ息子がオメガだったことを。いやまてよ、制服の購入の際、「これは無料なのね」なんて言った記憶がある。
「え?もしかして……」
今更だけど、夫人はつい最近の記憶がよみがえる。学園から馬車のレンタルを勧められたのだ。そんなお金のかかることできるわけがないとお断わりしたのだ。なぜ勧められたのか、思い返せばそうだったのだ。
「「お母さまったら、入学前検査の結果をお読みでなかったのね」」
双子の娘にとどめをさされ、夫人はうつむいてしまった。しっかり者の長男に頼りすぎていたのだ。
「まあ、そういうことだ」
説明する手間が省けて助かった。と内心胸をなでおろしつつ、マイヤー子爵は話を続けた。
「それで支度金が出た。さらに体裁を整えるために宰相閣下の紹介状を持った使用人がやってくることになった」
それを聞いて一番に喜びの声を上げたのは夫人だった。なにしろ夫人は母であり妻であり料理人でありメイドであり庭師でもあったからだ。使用人が来るということは、夫人はそれらから解放されるということだ。だがしかし、まて。
「お、お金は?あなた、宰相閣下が紹介状を書くような使用人なんて、いったいどれほどの給金が必要になるというのですか?」
金だ。
とにかく金のかかることは無理だ。
「そこに支度金を充てるのだ。ついでに言えば、レイミーの給金が使用人への給金になる」
使用人雇用のからくりをマイヤー子爵は恥ずかしげもなく家族に暴露した。つまりはマイヤー子爵の稼ぎでは宰相閣下の紹介する使用人は雇えないということだ。
「「お父様、それでは僕たちの生活はよくならないのでは?」」
今度は双子の息子が聞いてきた。
「そんなことはない。優秀な使用人を雇い、高水準な生活を手に入れるのだ。もう貧乏子だくさんなどと言わせないぞ」
マイヤー子爵は胸を張って答えた。
「しかも、今夜は祝いの食事を宰相閣下に用意してもらったのだ。今日から我が家は立派な貴族家として歩み始めるのだ」
マイヤー子爵は意気揚々と宰相と交わした魔法契約書を書類箱から取り出した。それを夫人が奪い取り、恐ろしい勢いで読んだ。特に金額のところは何度も読み返し、指折り数えてその金額に驚いている。
「こ、こんなに?すごいわ。ドレスがいったい何着買えるかしら?ああ、家具も買い換えられるわ。それから……」
夫人は恐ろしい勢いで頭の中で妄想を繰り広げた。
「「お母さまのお金ではありません。お兄様の支度金です」」
双子の娘が夫人の妄想を断ち切った。
「あ、そ、そうだったわね」
そうはいっても、当の本人レイミーはもう後宮に入ってしまったのだ。なんの支度もしないまま。
「支度金についてはまた後でだ。宰相閣下から指示があるからな」
そんなことを言われて、夫人の心は血の涙を流すしかなかった。
「お父様、食事は冷めてしまったのですか?温かいうちに食べたかったです」
末の息子がようやく口を開いた。
「ああ、心配しなくていい。宰相閣下が魔道具の箱に入れて下さったからな。出来立てのままだぞ。おいしいぞ」
マイヤー子爵がそう言えば、子どもたちは瞳をキラキラと輝かせた。出来立ての温かなおいしい食事。それはどのような物なのだろうか。想像しただけで口の中によだれがあふれてくる。
「「「「「「ごっくん」」」」」」
全員が同時に想像を飲み込んだ。




